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74.可能性 ~エドワルド視点~

 どれだけ探しても、エリザベスは見つからなかった。

 フォルトゥナート公爵邸は、エリザベスの身長では越えられないほどの壁や柵に囲まれているというのに。


「いったい、どういうことだ」


 ディーノに確認すれば、エリザベスがいなくなってしまった前夜も普段と変わらず、全ての窓の施錠をその目で確かめていたそうだ。事実、他の場所は例外なくしっかりと鍵がかけられていた。

 となれば、あの場所だけが都合よく見逃されていたとは考えにくい。

 構造上、犬の前足で簡単に開けられるようなものでもないので、エリザベス自ら解錠したわけでもないだろう。

 いくら賢いエリザベスとはいえ、犬である以上はできることに限界がある。


「可能性として最も考えられるとすれば、エリザベスだけを狙った窃盗事件、でしょうか」

「この屋敷に忍び込んだと? どこの誰が、なぜエリザベスだけを狙って?」

「飼い主だと名乗る人物は現れなかったものの、エリザベスがフォルトゥナート公爵邸にいるという事実は、大勢が知っていたはずです」

「つまり、その情報を知り得た誰かが、何らかの目的を持ってエリザベスを取り返しに来たと?」


 頷くディーノの姿に、思わず額を手で覆ってため息をついてしまった。

 仮に、それが真実だったとするならば。屋敷の警備体制にも問題が出てくる上に、そもそもエリザベスだけが狙われた、その明確な理由を究明する必要が出てくるかもしれない。

 警備の見直しは、急務だとして。


「……あれだけ、賢い犬だ。可能性として考えられるのは、何らかの犯罪組織に関わっているのか」

「あるいは、最初からエドワルド様に拾われるように仕組まれていたか、ですね」


 そう。初めから、フォルトゥナート公爵邸に潜り込ませる予定だった場合が、一番厄介で問題なのだ。

 屋敷の中では常に誰かがエリザベスを見ていたが、私が許可を出して自由に動き回らせていた。

 仮に、内部の構造を把握させるのが目的だったとすれば。


「狙いは、保管している資料か。あるいは、私の命か」


 可能性としては、そのどちらかだろう。


「警備の増員は、すでに手配済みとのことです」

「マッテオか。さすが、ガリレイ家の家長なだけはある」

「それから、単純な脱走の可能性も考えて、引き続きエリザベスの捜索は続けさせているそうです」

「そうか」


 もちろん、ないとは言い切れないのかもしれない。

 だが、完全な輪の形で残されていた首輪を考えると。人の手が加わっていないとは、どうしても考えにくい。

 一応、本来よりも緩く装着されていたせいで外せてしまった可能性も、否定できないわけではないらしいのだが。その場合、屋敷の敷地外に出ているとは考えにくいはず。

 つまり見つからないということは、その可能性がいかに低いかを表しているだけにすぎないのだ。


「そして、もう一つ」

「何だ?」


 考えなければならないことが一気に増えてしまって、思わずもう一度ため息をつきたくなってしまった私に。ディーノは真剣な表情で、改まった様子で切り出した。


「こちらは私も含め、多くの使用人からの要望ですので、ご一考いただきたいのですが」

「だから、何をだ」

「エリザベスがいなくなったことで、再び満足に睡眠がとれなくなるようでしたら、新しい大型犬を迎え入れていただけないでしょうか?」

「なっ!?」


 その内容に驚いてしまった私は、思わず目を見開いたまま固まってしまう。

 だが、そんな私の様子を気にも止めずに。ディーノはただ、淡々と事実だけを告げてくる。


「大型犬の、あの大きさとあたたかさが、エドワルド様を安眠へと導いていたのではないかと我々は考えております」


 つまり、新たな抱き枕要員が必要なのだと。そういうことなのだろう。


「もちろんエリザベスが見つかった場合を考えて、すぐにとは申しません。ですが、一つの可能性として頭の片隅にでも置いていただければと」


 だが。


「簡単に……決められることではない」

「存じております」


 エリザベスが戻ってくる可能性も否定できないが、それ以上に。


「そもそも、本来迎え入れるとすれば子犬からだろう」

「大型犬ですから、子犬といえどもそれなりの大きさに成長してから迎え入れることも、不可能ではないかと」

「だが、私の睡眠のためだけに迎え入れるというのは、少し趣旨(しゅし)が違わないか?」


 本来、家族として迎え入れるべき存在であって。そんなことのために選んでいい命ではない。

 それは、ディーノも承知しているようで。


「ですので、どうにもならなかった場合の最終手段としてでも構いません」


 少しだけ、眉根を寄せながらこちらを見ていたから。


「……一応、一つの案としては、受け取っておこう」


 そう口にするしか、私にできることはなかった。


「ありがとうございます」


 現に、私の返事を聞いて安堵したような表情をディーノが見せたのだから。

 どうやら私は自分で思っている以上に、満足に睡眠がとれないことを大勢に心配されているらしいと、今さらながら知るのだった。



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