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73.疑問と困惑

 結局そのまま、ディーノさんはエドワルド様を抱えて。


「大変失礼いたしました! この件に関しては、後日お詫びいたしますので! どうか、ご内密にお願いいたします!」


 そう必死に訴えてきたので、思わず頷いてしまった。

 それを見届けて安心したのか、もう一度頭を下げて廊下の先へと消えてしまったけれど。


「……え。ディーノさん、意外と力持ち」


 私も私で、しっかり混乱していたらしい。そんなどうでもいい言葉が、口をついて出てきていたのだから。

 とはいえ、一応目的の全ては達成できたので。


「え、っと……。帰ろう、かな」


 この出来事のせいで、御不浄までの道のりを忘れるということはないだろうけれど。

 逆に当日、この廊下を通るたびに、この一連の出来事を思い出してしまいそうで。


「それはそれで、なんかやだな」


 正直、抱き枕として添い寝している期間が結構長かったからだろう。今さらエドワルド様相手に、こんなことで赤面することはないけれど。

 倒れてきたということは、つまり体力の限界だったということ。

 その事実を思い出すことのほうが、今の私にとっては少しつらい。

 この場所を通らないという選択肢は、おそらくないだろうから。避けて通れないのも、また嫌なところだ。


「はぁ……」


 なんだか大変な目にあってしまったと、少し大きめのため息をついたところで。この場所が廊下のど真ん中だったことを、ようやく思い出す。

 辺りを見回しても、特に人影は見当たらなかったので。おそらく誰にも見られていなかったと、信じたい。


(というか、思わず名乗ってもないディーノさんの名前を口に出しちゃった)


 ようやく我に返って、自分の発言を振り返って。これはまずいと、今さらながら思い至る。

 とはいえ、本人はもうすでに消えたあと。誰かに聞かれている様子も、ない。

 最悪聞かれていたとしても、疑問に思われることは少ないだろう。


(でも、今後はちゃんと気をつけないと)


 なぜ知っているのかと、疑われないようにするために。


(……いやいや。それよりも、よ)


 どうして私は、エドワルド様に呼び止められたのか。しかも、腕まで掴まれて。

 何か気に障るようなことをした覚えもないし、一切理由が分からないまま。


(そもそも、なんて言おうとしてたの?)


 「なぜ、君は……」のあとに続く言葉は、いったい何だったのか。気になって仕方がないのだが。

 残念ながら、その答えを唯一知っている本人は、きっと今頃夢の中。いやむしろ、夢さえ見ないほどの熟睡中かもしれない。


(眠れるのなら、それが一番いいことなんだけどさ)


 今回に限っては、色々と問題しかなかった。

 この場に残された私も、エドワルド様を抱えなければならなかったディーノさんも、疑問と困惑しかないまま。

 おかしな状況を作り出した張本人の真意も分からず、場を収めなければならなくなったわけで。


(誰にも見られていなかった事だけが、不幸中の幸いだよね)


 見られていたとしても、そこはエドワルド様が何とかするのだろうけれど。

 変な噂を立てられてしまうと困る身としては、見られていないほうが何かと助かる。


(まぁ、とりあえず)


 ディーノさんの言う通り、内密にということで、私も納得しているし。今考えても、答えなんて出るわけがないから。

 この件に関しては、いったん置いておいて。

 当初の予定通り、まずは本番の会場を目指して。それから、控室に戻ることにする。


(ディーノさん、途中で書類落とさなかったかな?)


 エドワルド様を抱きかかえなければならない関係上、手に書類を持つことができず。エドワルド様の体の上に、書類を置いていたから。

 一応落ちないような工夫なのか、エドワルド様の腕で押さえるような形になるようにしていたけれど。

 あの瞬間、妙に手慣れているように見えたのは。以前倒れた時も、同じような状況だったのかもしれないと思ってしまったのは、私が事情を知っているからなのだろう。


(それはそれで、嫌な慣れだろうなぁ)


 ディーノさんの立場になって考えて、少しだけ眉根が寄ってしまった私は。もう一度、今度は小さくため息を吐き出すのだった。



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