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70.確かめておきたい

 当日の会場となるダンスホールからは、少し離れた場所にある御不浄までの道のりは。予想以上に、誰ともすれ違うことはなく。

 王城内とはいえ、こんなにも人がいない静かな場所があるのかと、逆の意味で驚いてしまう。


「さっきまで、大勢の中にいたから。なおさらなのかも」


 少しだけ立ち止まって、ふと外を見ながら呟いた言葉は。小さな声だったはずなのに、思っていたよりも響いてしまって。慌てて、口元を押さえる。

 パッと見は、確かに誰もいないけれど。もしかしたら廊下の向こう側に、誰かいるかもしれないのだから。

 独り言の多い令嬢と思われるのも、あまりよろしくない。


(確認だけ終わらせて、すぐに帰ろう)


 このまま誰ともすれ違わないのが一番なので、とにかく素早く目的だけを達成することだけを考えて。私は改めて、誰もいない廊下で一人、歩みを進める。

 今はまだ昼間なので、差し込んでくる陽の光でしっかりと見えている部分も。本番の夜は、もしかしたら違う風景に見えてしまうかもしれない。


(昼と夜とで、同じ場所が違って見えることなんて、よくあることだし)


 であれば、やはり道順を覚えておくのは大切だろう。万が一にでも迷子になってしまったら、それこそ大事(おおごと)なのだから。

 ただでさえ、パートナーがなかなか見つからない状態なのに。これ以上噂になりそうな事実は、必要ない。

 改めて気を引き締めつつ、長い廊下の先でようやく辿り着いた御不浄に一応寄って。中もしっかりと確認してから、今度は元来た道を戻っていく。


(一度歩いてきている道だから、行きよりは長く感じないはず)


 そう思いながら、一応辺りを確認しつつゆっくりと歩みを進めていた時だった。

 前方から、こちらに向かって歩いてくる二つの影が見えて。


「……あれ?」


 まだ遠いけれど、あのシルエットは見覚えがある。

 メガネをかけた、少し襟足の長い髪型と。その後ろに控えるように寄り添う、オールバックの髪型の人物は。


(エドワルド様と、ディーノさん!?)


 まさか、こんなところで出会うことになるとは思ってもみなくて。どう対処すべきか、一瞬迷う。

 とはいえ、私から姿が確認できているということは、向こうからも見えているということ。


(ここで急に隠れたら、変に思われるよね……?)


 そもそも、まだ社交界デビュー前の人間が知っている道など、限られている。それなのに、通るはずのない道にそれてしまえば。


(それこそ、何かしようとしてるんじゃないかって、疑われそう)


 この時期に、それは最もしてはいけない行為。

 パートナーがいるとかいないとかではなく、デビュー前に問題を起こすことが、そもそも大問題。

 となれば。


(やましいことは、何もないんだし)


 ついでに、少しだけ顔色も確かめておきたいという、個人的な感情も相まって。この場ですれ違うことを選択する。

 おそらく会場の確認か、もしくは警備などの他の代表者との話し合いが終わって、執務室かどこかへ戻る途中なのだとは思う。


(つまり、廊下の端に寄って頭を下げているだけの令嬢なら、視界に入ってもそこまで気にはしないはず)


 お互い逆方向へ向かって歩いているので、そろそろ表情も見えそうな距離に近付いてきている。

 こういった経験は初めてだけれど、相手が誰なのかに気付いて行動を起こすとすれば、この辺りが適正な気がするので。


(カーテシーであれば、失礼にあたらないよね)


 予定通り、サッと壁側に寄って。右足を後ろに引いて、両膝を曲げる。この時、背筋は曲がらないように。

 教わったことを思い出しながら、一つ一つ丁寧に。それでいて不自然に見えないように、優雅な動作でゆっくりとスカートの裾をつまんだ。



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