67.下見と打ち合わせ
とはいえ、自分の気持ちだけでどうにかなるような問題ではないので。いつまで経っても、私にはパートナーが存在しないまま。
本格的に社交界デビューをする前に、まずはデビュタントの女性たちだけを集めての、本番の会場の下見と打ち合わせの日がやってきてしまった。
(まだ一応、時間はあるとはいえ)
全員が緊張している中、初めましての顔合わせで会話を交わしていると。やはり時折聞こえてくるのは、パートナーとの話。
中には婚約者が年下なので、今回のパートナーは家族にお願いしているという人もいるみたいだったけれど。
(決まる予定すらないのは、私だけだったし……!)
「なかなか決定には至らなくて……」と濁す人は、もちろん何人かいたけれど。それはむしろ、家柄が良すぎて候補者が多いという意味合いで。
事実、私も同じ言葉で誤魔化したら、それを聞いていた全員から憐れみの視線を向けられてしまった。
この場では、全員の顔と名前を一致させるのも大切だから。きっと、誰もが理由を悟ってしまったのだろう。
ようするに、貧乏子爵家の令嬢だから断られ続けているのだろう、と。
(そうなんだけどさ……!)
ここで見下されるのではなく、憐れみの視線を向けて、さらには慰めてくれる人までいたことは、とてもありがたいことではあったけれど。
デビュー前とはいえ、社交はすでに始まっているわけで。彼女たちは今後、同じ時期にデビューした仲間ということになる。
控室の中で不思議な一体感を得られるのは、今後のためにも大切なことだと頭では理解できているものの。
(やっぱり、ちょっとつらいよ)
一番家格が上の、公爵家の方には「あなたのような美しい方を選ばないだなんて、今までの男性陣には見る目がありませんね」と慰められ。
幼馴染だという侯爵家のお二人には「きっとお選びにならなかった方々は、将来後悔しますわ」「えぇ、本当に。その光景が目に浮かぶようですもの」と慰められ。
離れていたところで話を聞いていたという伯爵家の方には「むしろ、そのような方々と縁付かなくて正解ではありませんか」と慰められ。
結果、その場の全員に深く頷かれるという。ありがたくも悲しい経験をしてしまったのだ。
(皆様とは、今後とも仲良くしていただける予感だけは、しっかりあるとはいえ)
それはそれ、これはこれ。
やはり家柄を調べると、貧乏であることがすぐに分かってしまうからこそ。ただひたすらに不利でしかないのだと、改めて思わされた。
そんな風に、若干心に重いものを感じながら。それでも初めての同年代の方々との交流を、積極的にしていると。
時間になったのか、控室の扉が開いて。近衛騎士を伴って、お城の使用人の女性が数人、部屋の中へと入ってきて。
「皆様、お待たせいたしました。これより、城内をご案内いたします」
一番年配の、おそらく彼女たちの中で最も地位の高い人物なのであろう女性が、そう口にして。いよいよ下見と打ち合わせの時間が、本格的に始まった。
とはいえ、最初は彼女たちの後ろについて、当日の控室だったりとか御不浄だったりとかを頭の中に叩き込みながら、その都度不安な箇所があれば質問するというだけ。
一人ではなく複数で対応してくれているのは、何人もの質問を一気に処理するためだったのだろう。
(もしかして、この割り振りも)
実は、エドワルド様が関わっているのではないかと。効率重視なやり方をみて、ふと考えてしまった。
そのせいで一瞬、説明を聞き逃してしまっていたことに気付いて。慌てて頭を切り替えて今に集中しなければと思ったのは、ここだけの話。




