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66.貧乏子爵家の令嬢

(そもそも、普通にお会いすることだって難しい立場の方なんだから)


 カップの中が空になったことに気付いて、おば様が私につけてくださった女性の使用人が、ポットから二杯目を注いでくれる姿を眺めながら。私は、必死にエドワルド様の幻影を追い払おうとする。


(今後、私みたいな貧乏子爵令嬢が関わるようなことなんて、一生ないはずだし)


 だからもう思い出したところで、どうしようもないのだと。自分にできることは、何一つとしてないのだと。自分で自分に、現実を突きつける。

 そうしなければ、ずっと犬の姿だった頃に囚われてしまいそうで。

 そして、同時に。


(エドワルド様のことを考えている暇があるのなら、デビュタントとしてお相手探しをしないと)


 私自身の大きな問題も、依然(いぜん)として解決していないのだから。

 むしろこちらのほうが急ぎの問題で、正直なところ遅すぎるくらい。

 デビュタントのパートナーに関する届け出の提出期限は、まだもう少し先のことではあるけれど。


(このままだと、決まらない予感がする)


 これでも一応、こちらからいくつかの家にパートナーの打診はしているのだけれど。今までどこからも、色よいお返事をいただいたことはない。

 そもそもデビュタントのパートナーというのは、事実上の婚約相手のようなものだから。そう簡単に決められないのも、一因としてはある。

 ただそれ以上に、パドアン子爵家が貴族とは名ばかりの貧乏な家柄だということが、かなり響いていて。


(まぁ、ね。そうだよねぇ)


 貴族の結婚というのは、家同士の利益が優先される。

 そんな中で、何の利益ももたらさないような貧乏子爵家の令嬢との婚約なんて、誰も望まないだろう。

 たとえ、私に恋人がいたとしても。おそらくその人のご両親が、許可してくれない。

 逆の立場で考えてみれば、理由は明らかだし納得もできてしまうので。こればっかりは、仕方がないことではある。


(困ったなぁ)


 最悪の場合は、本当にお兄様にお願いするしかないだろう。普段あまり正装をしないので、昔の服が今の体形に合っているのかどうか、不安ではあるけれど。

 ただ、そんなことを気にしてはいられないし。実際パドアン子爵領を出る際に、最終手段として考えておきなさいと家族に言われている。

 つまり、この状況は全員が予想していたということ。


(分かるんだけどさぁ……!)


 私自身、難しいかもしれないとは思っていたけれど。予想以上すぎて、心が折れそうになっている。

 万が一の場合を想定して、パートナーの変更は直前まで可能になっていることだけが、唯一の救いかもしれない。

 ただこの場合の万が一というのは、最悪の場合を想定して設けられているにすぎないけれど。


(たぶん過去に、色々あったんだろうなぁ)


 病気やケガなどの、やむを得ない場合ももちろんのこと。婚約関係前提という意味合いを持つ特性上。


(浮気とか、駆け落ちとか……ねぇ)


 おそらく、あったのではないだろうか。直前まで変更可能ということは、つまりはそういうこと。

 何らかの理由で、相手がいなくなってしまった前例がなければ。そんなギリギリな対応、普通に考えて不可能だろう。


(苦労して、やっと見つかったパートナーが)


 直前のアクシデントならば、致し方ないと諦めもつくけれど。これで駆け落ちなんていう理由になれば、目も当てられない。

 せっかくの華やかな日が、嫌な意味で一生忘れられない日になってしまう。


(でも、パートナーが見つからないっていうのも、それはそれでつらいよ)


 どちらがマシなのかは、永遠に答えが出ない問いのような気がしているので、考えないでおくとして。

 エドワルド様のことよりも、今はとにかく自分のこと。

 そう言い聞かせるように、心の中で何度も呟いて。私は気合いを入れ直した。



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