表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/117

59.鏡の代わり

(ところで、待っている間何をしようか)


 一人でエドワルド様の自室で待たされた経験が、今まで皆無だったので。逆に、何をするべきか迷ってしまう。

 おもちゃを取り出して遊んでいてもいいけれど、寝る前の今はそういう気分でもないし。


「わふぅ……」


 どうしようかなの気持ちが、口から声として出てしまって。思わずハッとして、前を向けば。

 目に入ってきたのは、カーテンが引かれた状態の、大きな窓。


(そういえば)


 今は、夜。そして室内は、明かりが(とも)されている状況。

 貧乏子爵家出身だからこそ、知っている情報が。今ここで、役に立ちそうで。


(鏡は高くて買えないけど、ガラス窓は鏡の代わりになる!)


 パドアン子爵家で使われている窓のガラスは、透明度が低いものだったけれど。それでもある程度は、鏡の役割を果たしてくれた。

 そしてオットリーニ伯爵家のガラス窓は、透明度が高いからこそ。夜になれば、出来の悪い鏡よりもずっと綺麗に姿を映し出してくれていて。


(つまり、フォルトゥナート公爵家ともなれば、きっと!)


 最高級のガラスを使用しているはず。

 しかもここは、公爵様の自室。さらにそのお方が、ここディーオ王国の宰相閣下ともなれば。

 まず間違いなく、しっかりと鏡の役割を果たしてくれるだろう。


(いざ! 犬の姿を初確認!)


 外に出られるように、なのか。床まである大きさの窓は、同じように床まで届くカーテンで隠されていたけれど。

 朝、このカーテンをディーノさんが開けている姿を見ている私は、よく知っていた。この向こうに、外がよく見える綺麗なガラスの窓が存在していることを。

 少しだけ重みのあるカーテンを、犬の前足でそっとずらすことで。室内の光を、ガラスへと届ける。

 それと同時に、窓に浮かび上がった姿は。


(これが、犬の姿の私……)


 色味は、思っていた通り白く。細長い顔は、どこか気品を感じさせる。

 想像していたよりも、目から鼻までの距離が長く。そして、耳はだらんと下に垂れていた。


(確かに、お金持ちが飼ってそうな犬種かも)


 毎日ブラッシングされているからというのもあるけれど、お手入れが行き届いている分、余計に白く長い毛並みが目を引いて。

 立ち姿だけで、すでに優雅に見えた。


(鏡じゃないから、ハッキリとは分からない部分もあるけど)


 きっと耳のあたりは、体にあるのと同じ淡いベージュの色をしているのだろう。

 そしてこの姿を一目見て、貴族の飼い犬だと予想したエドワルド様たちの気持ちが、ようやく理解できた。


(野良の子とは、全然違うもん。私だって、同じ状況だったら同じことを考えると思うし)


 そのくらい、明らかな差がある。


「エリザベス? どうした? 外に出たくなったのか?」

「っ!!」


 ガラス窓に映る自分の姿に夢中になっていたせいで、扉が開く音にも人が入ってくる気配にも、一切気付けなかった。

 カーテンにかけていた前足を下ろして、急いでエドワルド様に向き直って。


「くぅ~ん」


 待っていましたとばかりにすり寄って、とりあえず今見た出来事を忘れてもらおうとする私だけれど。


「さすがに、この時間に外には出してやれないぞ」

「わふぅん」


 どうやら、すっかり勘違いされてしまったらしい。

 外に出たくて甘えているわけではないので、そこは問題ないのに。


「次の休みに、思いきり遊んでやるから。そこまで待てるか?」


 なぜか、優しく頭を撫でられてしまったので。


「わふん」


 それはそれで嬉しいので、しっかりと頷いておく。

 これで言質は取った。約束通り、次の休日にはしっかりと遊んでもらおう。

 そんな風に考えている私の心の内など、何も知らないエドワルド様は。


「いい子だ」


 満足そうに笑って、私の頭をもう一度優しく撫でてくれたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ