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57.早く元の姿に

 マッテオさんが言っていた通り、エドワルド様が席に着くのと同時に、普段と同じように運ばれてくる食事たち。

 まるでそれが当然とでもいうような、見事な連携に。一切の動揺を見せない、全ての使用人に。


(これが、フォルトゥナート公爵家なんだ……)


 ただただ、圧倒されて。

 通常であれば、エドワルド様の食事が終わるのを待つだけの時間が。初めて、周りの人たちを観察する時間に変わった。

 これでも結構な時間を、この場所で過ごしてきたにもかかわらず。この瞬間にエドワルド様以外に目を向けるということが、あまりなかったから。


(最初のほうとか、特に余裕もなかったからなぁ)


 つい、拾ってもらったばかりの頃のことを思い出して。そこまで昔のことではないはずなのに、なぜか感傷に浸っていた。

 とはいえ、あの頃はあまりにも環境が変わりすぎて。自分の体の変化にも、まだ色々と慣れていなかったから。なおさら、周りを見る余裕なんてものは存在していなくて。


(焦る気持ちはあるけど、今のほうが余裕はあるかも)


 ただ日を追うごとに、早く元の姿に戻らなければという気持ちは強くなる一方ではあるけれど。

 なんてことを考えていたからか。


「これから、さらに忙しくなりそうだ」

「次のシーズンまで、半年を切りましたからね」

「デビュタントのための準備も、本格化してきた時期だろうな」

「毎年この時期には、エドワルド様もお忙しくなられますから」


 聞こえてきた三人の会話に、思わず反応してしまった。

 予想はしていたけれど、やはりという気持ちが強い反面。


(どうにかして、早く元の姿に戻らないと)


 このままでは、その日を迎えられないと。焦るくらいならば、いっそ延期にならないかと思う気持ちすら湧いてくる。

 可能性としては、ないに等しいことは理解しているけれど。今のままでは、社交界デビューなどできるはずもなくて。


「エリザベス、食事ですよ」


 つい、そちらに気を取られていたせいか。目の前に置かれたお皿にすら、全く気付いていない私に。マッテオさんが、声をかけてくれる。


「わふ!」


 それにお礼のひと吠えをしてから、食事に口をつけた。

 考えてみれば、エドワルド様が会話を始めたということは、食事が終わったという証拠だったはずなのに。それすら、忘れていて。

 自覚はしていたけれど、それ以上に気持ちは焦っているのかもしれない。


「いっそ、今日はエリザベスに疲れを癒してもらってはいかがですか?」

「なるほど。いい考えだな」


 そんな中で聞こえてきた、ディーノさんからのとんでもない提案に。即座に乗ってしまう、エドワルド様。

 私は心の中で、余計なことをと思いながらも。食事に集中していて、聞こえていないフリをする。


「エリザベス本人は、食事に夢中のようですが」


 マッテオさんが私の様子に気付いて、そう言ってくれたから。話が流れてくれるかと、一瞬期待したけれど。


「遅くなってしまったから、今中断させるのは可哀想だろう。頼みごとをするのであれば、食事が終わってからでいい」


 それに返したエドワルド様の言葉に、儚い希望だったと心の中で落胆する。

 どうやら、添い寝という名の抱き枕になる以外にも、今夜は癒し要員としてのお仕事が追加されるようで。


(簡単かつ、恥ずかしいことじゃないといいなぁ)


 これもまた、淡い希望になりそうなことを願いながら。

 普段よりも若干ゆっくり目に、美味しさを噛みしめるように、食事を進める私だった。



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