51.豪華な夕食
結局そのまま、ボール遊びに移行して。
昼食を済ませて、少し仮眠したあとは、今度はロープで引っ張り合い。
どうやら今日のエドワルド様は、ロープの気分だったらしい。
こちらのほうが疲れるはずだけれど、もしかしたら体を動かしたかったのかもしれない。
(普段は机に向かって、書類とにらめっこしてるだけだもんね)
時には思いっきり体を動かしたくなったとしても、不思議ではない。
ただ、普段座って仕事をしているはずの人が、大型犬の姿の私よりも体力が有り余っている様子なのは、どうしても納得できないけれど。
「たまにはしっかりと体を動かすことも、健康のためには必要なことですから」
マッテオさんもディーノさんも、時折エドワルド様にそう伝えて、私と遊ぶことを推奨してくる。
告げる言葉が全く同じなのは、さすが親子としか思えないところではあるし。
(そのあとエドワルド様に気付かれないように、そっと私の側にきて褒めてくれるところも)
やはり親子だなと、思う部分で。
しかも嬉しいことに、エドワルド様と一日思いっきり遊んだ日の夕食は、普段よりも大変豪華なものになるのが常。
なので実は今日も、山盛りのお肉が出てくるのをひそかに期待していたりする。
(あのお肉、美味しいんだよねぇ)
柔らかいお肉の塊を頬張ると、簡単に噛み切れてしまうのに、しっかりとお肉の味がして。
そしてまた焼き加減が絶妙だからか、鼻から抜けていく匂いがとても香ばしい。
犬用だから味付けは一切していないって、いつだったか誰かが話しているのを聞いたような気がするけれど。
つまりあのお肉は、味付けなしで十分すぎるほどに美味しいということ。
(人間だったら、そこにソースとかも追加されるんだもんね)
そういえば、美味しいお肉は塩だけでも食べられるって、オットリーニ伯爵様が言っていたかも。
何の会話の流れだったか覚えていないけれど、その時は信じられなかった。
(そもそも、お肉を食べる機会もあんまりなかったから)
たまに口にするのは、鳥肉ばかりで。それ以外のお肉となると、そもそも手に入れるのも難しい環境下だった。
その分パドアン子爵領では、雑草の駆除と卵目的でたくさん鳥を飼育していたから。卵料理ならば、色々と知っているけれど。
ちなみにオスの鳥は、貴重な食肉として大切に育てて、ある程度大きくなったらそれぞれの家庭に順番に配っていた。
(領民と同じように順番待ちをする貴族が普通じゃないってことも、王都に来てから初めて知ったんだよね)
それまでは本当に、パドアン子爵領では当たり前のことだったから。
だから初めて鳥以外のお肉を口にした時は、味や食感の違いに本当に驚いたのを覚えている。
そしてその時ですら、こんなに美味しいものがあるのかと思ったのに。
(ここで初めて出されたごはんを食べた時に、軽くそれを超えてきちゃったんだもん)
柔らかくて甘くて、本当にこれがお肉なのかと。
空腹だったこと以上に、その美味しさに止まらなくなってしまって。
あっという間に完食してしまったけれど、その時の感動は今でも忘れられない。
「エリザベス? どうした?」
あの美味しさを思い出していたら、入浴中だったはずのエドワルド様が、いつの間にか目の前にいて。
完全に自分の世界に入り込んでしまっていたのだと、そこでようやく気付いた。
「わふ!」
「うん? どうした?」
「一日遊んでいたので、空腹なのではないでしょうか?」
「わふん!」
実際食べ物のことを考えていたので、ディーノさんの言葉は間違いではない。
ちなみに先ほどまで、ソファーで眠っていたので。体力は、だいぶ回復している。
「なるほど。それは、早く食事にしてやらなければならないな」
私の返事に納得したのか、そう言って小さく笑うエドワルド様。
だけど。
(豪華な夕食が楽しみすぎて、つい上の空だったなんて)
さすがにそこまでは言えないなと、思う私だった。




