49.晴れ舞台の一つ
とはいえ、簡単にそれができたら苦労していないわけで。
そもそも方法どころか糸口すら、全く見つけられていない状態なのだから。
(難しいよなぁ)
それに、自分がいなくなってしまったあとのオットリーニ伯爵邸は、今どうなっているのだろう。
預かっていたデビュタント予定の娘がいなくなってしまったことで、混乱しているのではないかと思っていたのだけれど。
(それなら、エドワルド様の耳にだって入ってきているはずだし)
特にデビュタントに関する情報ならば、宰相という立場の人物に届かないはずがないわけで。
けれど、そういった事件のような内容をエドワルド様が口にしていたことは、今まで一切なかった。
迷い犬に関する情報を集めようとしていた人が、令嬢の情報を集めないはずがない。にもかかわらず、話題にすら上がらなかったということは。
(もしかして、森の魔女が何かしてる……?)
私の姿を犬に変えたように、他の人たちにも何かしらの影響がある可能性は、ないとは言い切れない。
むしろ、そう考えたほうが自然かもしれない。
(オットリーニ伯爵家の方々に、おかしな影響が出ていないといいけれど……)
貧乏子爵家の娘を快く受け入れてくださった、優しい方々の顔が浮かんで。少しだけ、泣きたくなってしまった。
もしかしたら私の存在自体を、全員の記憶から消されているかもしれない。そういう、最悪の展開まで考えてしまったから。
(でも、万が一そうだったとしても)
元の姿に戻らないという選択は、私の中には存在しない。
必ず人間として、無事にデビュタントを迎えなければならないのだから。
(まだお相手も決まっていないし、準備だって終わっていないけれど)
ここで諦めるわけにはいかないから。
正直、元の姿に戻ったからといって順調にお相手探しができるかどうかは、不安なところではあるけれど。
そもそもデビュー時のエスコートを頼まなければいけないのに、期限ギリギリになってしまうのは大問題だから。
見つからなければよくない噂を立てられてしまう可能性もあるし、練習時間が少なければ本番で息が合わなくて恥をかく。
(本番まで、もうあと半年しかないのに)
今考えても仕方ないことは、重々承知の上で。それでも考えずにはいられない。
半分近くは、現状からの現実逃避としてでもあるけれど。実際、一世一代の晴れ舞台の一つであることも確かで。
デビュタントと花嫁は、令嬢人生における二大イベントと言っても過言ではない。
事実この二つに、それぞれの家は捻出できる最大限の額を投入する。
(我が家は、おば様に助けていただいたけれど)
このご恩は、今後出来得る限り返していく予定ではある。
残念ながら貧乏子爵家の令嬢では、方法も限られてしまっているので。
何とか良いご縁を見つけて、オットリーニ伯爵家の皆様に安心していただくのと同時に、お力添えいただいた分をちゃんとお返ししたい。
(とは、思っているものの)
現実とは、かくも厳しいものである。
(結局、まずは人間の姿に戻る方法を見つけない限りは、どれも解決できないし)
どうするべきなのか、本気で焦り始めてきた私は。犬の姿のまま、深ーくため息をついて。
エドワルド様の穏やかな寝息を、子守唄代わりに。
一抹の不安を抱いたまま、夢の世界へと旅立ったのだった。




