表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/117

46.この偶然が

「そもそも、お前の本来の飼い主であろう人物は、一向に名乗り出てこないだろう?」

「わ、わふぅ」


 そりゃあ、まぁ。いませんからね、飼い主なんて。

 とは、口が裂けても言えないけれど。

 というか、伝えたくても犬の姿では伝えられない。


「お前に未練がないのであれば、私を新しい主人に選んで欲しい」

「わ、ふ……」


 そして真剣な表情で伝えられる言葉がそれというのも、エドワルド様らしいといえばらしいけれど。

 これはこれで、やっぱり少し違うような気もする。


(そもそもこういう場合って、犬が主人を選ぶの?)


 本来であれば、人間側が飼い犬を選ぶのではないだろうか?

 そして保護した犬の飼い主が見つからなかったので、自分の家の子にしました、みたいな。


(そういうものだと、思ってたけど)


 王都では、違うのだろうか?

 それとも、貴族というのは本来こういうものなのだろうか?


(よく、分からないけど……)


 とはいえ、今のところ私に飼い主というものは存在していない。

 そして、この家で何不自由なく生活させてもらっていて。

 さらには、選択権まで私に委ねてくれる。


(家のこととか、話してくれたのもそうだけど)


 エドワルド様だけじゃなくて、フォルトゥナート公爵邸の人たちは全員、私に対してまるで人間に接するかのようで。

 そんな、優しい人たちに。


(私はまだ、ちゃんと恩を返せてないんだよね)


 その唯一の方法が、エドワルド様の抱き枕になること。


(正直、魔女に犬の姿にされて、宰相様に抱き枕にされるって、どういうこと!? って思わなくはないけど)


 ただこの偶然が、少しでも役に立つのなら。

 せめて、私が人間の姿に戻れるまでの間だけでも。


(許される気が、するんだよね)


 個人的には、エドワルド様の婚約者のご令嬢に、とても申し訳ないなとは思うけれど。

 宰相閣下であり、フォルトゥナート公爵様であるエドワルド様。その婚約者ともなれば、公爵令嬢か侯爵令嬢か。

 どちらにしても釣り合うように、身分の高いお方であることに変わりはないはず。


(田舎育ちの、しがない子爵令嬢でごめんなさい……!)


 心の中で、見たこともない人物に謝りながら。


「どうだ? エリザベス」

「……くぅ~ん」


 エドワルド様からの提案に、頬を寄せて応える。


「っ……! エリザベス……!」


 私の意図に気付いたらしいエドワルド様が、一瞬驚いたような顔をして。けれどすぐに、嬉しそうな笑顔を見せて、私を抱き寄せた。


「ありがとう……! 必ず大切にする! 今ここで誓う!」

「くぅん」


 それは、婚約者の方のために残しておいて欲しい言葉だったなぁ、と。のんきに考えてしまった私だったけれど。


「あぁっ、エリザベス……! 嬉しいよ……!」


 当のエドワルド様本人が、とてつもなく感動していらっしゃるご様子だったので。


(おとなしくしているのが一番、なんだろうなぁ)


 これが令嬢の姿だったら、それはもう素敵な娯楽小説のワンシーンだっただろうに。

 残念ながら犬相手では、ただの日常でしかない。

 それでも中身はちゃんと令嬢なので、緊張もするし恥ずかしいとも思っているけれど。

 それ以上に。


(本当に、ごめんなさい)


 でも、決して。決してエドワルド様とは、何もないんです。誓って。

 そんな風に、名も知らぬ婚約者のご令嬢に、心の中で謝り続ける私だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ