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44.自覚している

「そもそも、名乗りすらしていなかったな」


 苦笑しながら言うエドワルド様の言葉に、そういえばそうだったと私も今さらながらそのことに気付いて。

 同時に、犬に自己紹介は普通しないだろうなとも思うので、おかしなことではないのだけれど。


「私の名は、エドワルド・フォルトゥナート。五年前に、父上から公爵と宰相の座を譲り受けた、まだまだ若輩者だ」


 真剣な表情でそう告げるエドワルド様に、こっちも思わず真剣な表情で返してしまう。

 とはいえ、犬の姿の真剣な表情が伝わっているのかどうかは、(はなは)だ疑問ではあるけれど。


「公爵も宰相も、まぁ……人間の世界では、地位は高いがその分忙しい立場、程度の認識でいい」

「わふん」


 犬への説明なので、間違ってはいないけれど。

 ただ一つ、ここで明らかになったのは。


(やっぱり、エドワルド様も忙しい立場だと認識してたんだ)


 宰相様だということは、以前に聞いていたし。公爵様だというのも、なんとなくそんな気はしていたから、やっぱり程度の感想でしかなかった。

 むしろその説明の仕方から、本人ですら忙しいことを自覚しているのだということが分かってしまって。

 だからといって簡単に誰かに任せられることでもないので、全てを受け入れた上で、一人で背負い込んでいるのだろう。


(何もできない立場なのが、すごく悔しいけど……)


 きっとマッテオさんやディーノさんも、同じ気持ちなのだろうから。

 むしろ、人間のままならば本当に何もできなかっただろうけれど、今は犬の姿。少しは癒しを与えられるかもしれない。

 現に今、この状況は。睡眠不足なエドワルド様の抱き枕になるために、整えられたものなのだから。


「ある日父上が突然倒れてしまわれて、執務を続けることが困難になってしまって。十八の時に、私がその全てを継ぐことになった」

「わふぅ……」

「あぁ。心配しなくても、父上は母上と共に、今は領地でゆっくりと過ごされている」

「わふっ」


 それならよかった。

 この会話の流れだと、もしかしたら両親とも亡くなられているのかもしれないと思ってしまったから。


「ちなみに私には姉がいるが、父上が倒れてしまわれる前に嫁いでいるんだ」

「わふぅ?」


 それは初耳。

 ということは、ある日突然エドワルド様のお姉様がお屋敷に現れる可能性も……。


(いや、ないか)


 弟が一人で大変だと分かっていても、嫁いでしまえば嫁ぎ先の人間になるのだから、簡単に帰ってくることなどできない。

 田舎貴族ならばともかく、王都に住む公爵家ともなれば、女性が執務に携わることすら許されないのだろうし。


「なので今この屋敷の中には、フォルトゥナート公爵家の人間は私しかいない状態だ」

「わふ」


 そして今気付いたけれど、五年前に公爵の座も宰相の座も引き継いだ当時のエドワルド様が、十八歳だったのならば。


(今って、二十三歳?)


 若いとは思っていたけれど、確かに宰相閣下としては歴代最年少かもしれない。

 少なくとも私が知る中で、十八歳で宰相の座に就いた人物はいなかったと思う。

 それなのに、私がそのことを全く知らなかったのは。もはや勉強不足というよりは、田舎すぎて正しい情報が届いていなかっただけな気も、同時にしてきてしまう。


「我が家は代々宰相を担ってきた家柄なので、門外不出の資料も数多くある。その全てに目を通すには、まだまだ時間が必要だ」


 そしてその若さで全てを継がなければならなかった理由が、そこにあるのだろう。

 おそらく最終的に判断を下されたのは、国王陛下に他ならないのだろうから。


「幸いなことに、我が家には古くから宰相補佐兼家令としてガリレイ家が仕えてくれているからこそ、滞りなく執務が続けられてきたが……」

「わふ?」


 ガリレイ家? と私が不思議そうな顔をしたことに、エドワルド様は気付いたらしい。

 顔というよりも、気付いた理由は声だったのかもしれないけれど。


「マッテオやディーノが、ガリレイ家の出身だ。そもそもあの二人は、親子でもある。領地にもマッテオの弟がいて、領地の直接的な運営や屋敷の管理を担当している」

「わふぅ!」


 やっぱり、マッテオさんとディーノさんは親子だったんだ!

 予想が当たっていた私は、思わず嬉しくなってしまったけれど。考えてみたら、領地にはマッテオさんの弟さんがいるというのも、結構な衝撃だった。

 エドワルド様のご両親についてや、実はすでに嫁いだお姉様がいることに、マッテオさんの弟と。


(今日はなんか、知らないことがいっぱい明らかになっていくなぁ)


 なんて、のんきに考えていた私は。

 このあと、さらに別方向から衝撃を受けることになるなんて。

 一切、予想もしていなかった。



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