27.秘密の会議
諦めることなく、数日間ロープの引っ張り合いやらボール遊びやらに付き合ってもらって、とにかくエドワルド様を疲れさせようと奮闘した結果。
分かったのは、寝入りは早くなるけれど、結局朝方までには目が覚めてしまうのか、起き上がって仕事を始めてしまうということ。
(もっとちゃんと、熟睡して欲しいのに)
そう思っているのは、何も私だけではなく。
時折マッテオさんとディーノさんと私の三人で、秘密の会議が開かれたりするほどで。
「エリザベス、聞いてください」
「わふ?」
「エドワルド様はあまりにも働き過ぎだと、陛下より明日一日休むようにと命が下されたそうです」
「ちなみに陛下は、この国で一番偉い人。エドワルド様よりも偉い人だ」
今もこうしてエドワルド様の入浴の時間を使って、私たちは情報の共有をしているところだった。
(いや、というか。エドワルド様って、本当にこの国の重要人物なんだね)
陛下から直々にお達しがあるなんて、相当すごい役職に就いていない限り、まずもってないはずなのに。さすが、宰相様。
それからディーノさんが一生懸命私に説明してくれるけれど、一応これでも中身は貴族令嬢なので、陛下の意味くらいは知っている。
「というわけですので、明日はお出かけなさいません」
「ただエドワルド様のことだから、おそらく執務室に籠って、結局休まない可能性が高い」
「わふぅ……」
それは、大問題だ。
そもそも休めと言われているのに、それをお屋敷の中だからと堂々と破ろうとするなんて。
陛下の命を蔑ろにするなんて、本来あってはならないはず。しかも、宰相閣下が。
「そこで、エリザベス。あなたの出番です」
「わふ?」
「遊びに誘うなり、昼寝に誘うなり、甘えてみるなり。何でもいい。とにかく、少しでも執務机に向かう時間を減らしてもらいたい」
なるほど。つまり、妨害工作をしろと。そういうことらしい。
とはいえ、今回に関しては私も大賛成なので。
「わふん!」
入浴中のエドワルド様に聞こえないように、遠吠えではなくひと鳴きだけして、二人の提案に答えておく。
私のその行動に、二人はそっくりな笑顔で頷いてくれたから。きっと分かってくれたはず。
「では、明日は頼みましたよ。私は仕事に戻ります」
「わふーん」
了解と行ってらっしゃいの、二つの意味を込めて。マッテオさんにそう声をかければ。
「本当に、エリザベスは賢いですね」
優しい声と表情で、そう返してくれた。
とはいえ、さすがにできる家令はひと味違って。その次の瞬間には仕事の顔になって、私たちに背を向けてこの場を去っていったけれど。
この時の会話が、まさか重要な発見の糸口になるとは、誰も思っていなかったし。
そもそもあんなことになるなんて、私だって想像していなかった。
ただ。
「本当に、どうしたらエドワルド様にしっかりお休みしていただけるんだろうな?」
「わふぅ」
この場に残った私とディーノさんが、二人して目を合わせながら首をかしげていた、その原因が。
きっと現在のフォルトゥナート公爵邸内において、最も解決したい疑問であることだけは、間違いなかったと思う。
誰もが心配しているのは、屋敷の主人であるエドワルド様の健康状態なのだから。
(とにかく明日。まずは、どうにかして休んでもらわないと)
多少仕事の邪魔をしてでも、そこだけは譲れない。
私にしかできないことだと、一人気合を入れながら。
エドワルド様の入浴後の着替えのために、扉の向こうへと消えていくディーノさんを見送った。




