25.ほぼほぼ親子
「さすがに、私も疲れたようだ」
夕食後、そう零したエドワルド様の視線は。どう見ても明らかに、私のほうを向いていた。
その瞬間、マッテオさんとディーノさんの二人から同時に親指を立てられたのは、言うまでもない。
二人ともエドワルド様から見えない位置で、しっかりと身振り手振りで伝えてくれるのがありがたい反面。実は、ちょっと面白くもある。
(本当に、そっくりだよなぁ)
私の中では、ほぼほぼ親子で確定している二人だから。似ているのは当たり前だと思っているけれど。
「それでしたら、本日も寝室をお使いになられますか?」
「あぁ、そうする」
「エリザベスのおもちゃの類も、お部屋にご用意しておきましょうか?」
「そうだな。寝る前や寝起きにエリザベスが暇になった場合に、一人でも遊べるようにしてやりたい」
それぞれがそれぞれに、エドワルド様に確認を取ると。
「かしこまりました」
「そのように手配いたします」
二人とも同じ角度で、同じように頭を下げて返事をしているから。
(親子って感じがするよなぁ)
フォルトゥナート公爵家に仕える使用人が、一律こういう教育を受けてきている可能性もあるけれど。
髪色や目元がそっくりすぎる上に、この年齢差なのだから。この二人に限っては、どう考えても親子だろう。
もしかしたら先祖代々、フォルトゥナート公爵家に仕えている家系なのかもしれない。
(それにしても、犬が一人でも遊べるようにって)
どこまで配慮の行き届いたお屋敷なのだろうと、もはや一周まわって恐怖すら覚え始める。
これを知ってしまったら、普通の生活には戻れなくなってしまうのではないだろうか。
何せ犬にとっては三食昼寝付きな上に、十分すぎるほど広い芝生の上を存分に走り回れて、さらには新しいおもちゃも与えて一緒に遊んでくれる。
これ以上の幸せなんて、きっとあり得ない。
(まぁそれは、私が本物の犬だったら、の話だけど)
ただ食べ物は今までで一番美味しいし、寝床も最高なので。人間としても、割と元の生活に戻れるか不安になる部分はあったりする。
とはいえ、これら全てを失ったとしても。それでも人間に戻りたいと、切に願うのもまた事実で。
(元の姿に戻るための、手掛かりがなぁ)
正直なところ、どうしたらその方法を見つけることができるのかも、いまだに糸口さえ掴めていないところ。
とはいえ森の中で犬の姿で歩き回るなど、危険すぎてできるわけもなし。
おそらくは三日と持たず、野生生物に襲われるか野垂れ死ぬかのどちらかだろう。
どうあがいても死しか待っていない現実など、あまりにもつらすぎる。
「どうした? エリザベス」
一人で色々と考えて、う~んと唸っていたからだろうか。不思議そうな目をして、こちらを見ているエドワルド様に声をかけられてしまった。
「わふ!」
何でもないですよの意味を込めて、とりあえずひと声鳴いておいたけれど。
はたしてこれで、ちゃんと伝わるのかどうか。まだ数日しか一緒にいないので、こういう時はちょっと不安になる。
「問題ないのか? それならいいが」
でもどうやら、今回は伝わったらしい。
エドワルド様の首は、まだ少しだけ傾いているけれど。
「お前は今夜も、私と一緒の部屋で寝るのか?」
「わふん!」
そのまま問いかけられた言葉に、私は元気よく答えておいた。
もちろん、肯定の意味を込めて。




