23.できる家令は
今日もエドワルド様とディーノさんのお見送りをしてから、マッテオさんの後ろをついていく。
というのも、エドワルド様からの伝言があれば、マッテオさんがいつも教えてくれるから。
本人から直接言われることもあるけれど、必要な時にマッテオさんから聞くこともあるので。
とりあえず声をかけられるまでは、ずっとついて回っていたりする。
(どんなお仕事をしているのかも、ちょっと気になるしね)
それに私は、エドワルド様が実際にどんな仕事をどれくらいしているのか、ちゃんと理解しているわけではないから。
宰相閣下でありフォルトゥナート公爵様だろう、ぐらいの感覚で。
しかもそれだって、ちゃんとした確証はない。
宰相様なのは、本人の口から聞いているから確実だけれど。公爵様なのかどうかは、まだちょっと確信が持てずにいる。
(そもそもご両親はどうしたのかとか、忙しそうなのは宰相様だからなのかとか)
気になることは、まだまだたくさんあるけれど。
マッテオさんにくっついていれば、もしかしたら何かヒントがあるかもしれないという、打算的な部分も多少はある。
「エリザベス」
「……わふ?」
呼びかけられて、一瞬反応できなかったのは。さすがにまだその名前に、馴染みがないから。
でも私とマッテオさんしかいないわけだから、こちらを見下ろしているブラウンの瞳と目が合って。そこでようやく、自分のことだと認識して。
とりあえず、首をかしげながらひと鳴きしてみた。
「ディーノから、エドワルド様がまたお休みになれなかったと聞きましたよ」
「わふわふ!」
そうなんですよ! なんて、人間だったら答えているところ。
でもやっぱり喋れないので、とりあえず同意を示すように吠えておく。
「昨日の運動では、足りなかったのかもしれませんね」
「くぅん?」
やっぱり、もっとしっかり遊んでもらうべきなのだろう。
とはいえ相手は、公爵家の成人男性。走り回って遊ぶような時期は、とうの昔に通り過ぎている。
「……念のためディーノに、新しい種類のおもちゃを用意してはいかがですかと、エドワルド様に進言するよう指示は出しておきましたから」
「わふ!」
さすが! できる家令はやっぱり違う!
そしておそらく、昨日のボールのようにただ投げるだけではなくて。もっと体力が必要になりそうなものを用意してくれる気がするから。
「分かっていますね? あなたの役目は、とにかく思い切り遊びつくして、エドワルド様が疲れ果てて眠ってしまわれるくらいにすることですから」
「わふん!」
任せてください! それなら得意ですから!
むしろその役目は、私にしかできないはずだから。
(適材適所というやつですね!)
「頼みましたよ、エリザベス」
「わぉ~~ん!」
返事代わりの遠吠えに、満足そうな顔をして頷くマッテオさん。
不思議なことに、人間の言葉を話せなくても通じ合えているのは確かで。
おそらくそれは私の感情表現が上手いわけではなく、マッテオさんの察する能力が異常なまでに高いだけだとは思うけれど。
(通じているのなら、何だっていいんだから!)
もしかしたら、今このお屋敷の中で意思の疎通が最も可能なのは、マッテオさんなのかもしれない。
なんてことを考えつつ、与えられたミッションを完璧にこなすため。
(まずは、体力の温存からだよね)
今日はあまり無駄に動き回らず、エドワルド様が帰ってくるまでは極力動かないようにしようと決めて。
昼食のあとは、完全にお昼寝の時間として有効活用した私だった。




