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私、宰相閣下の抱き枕!?  作者: 朝姫 夢
本編

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17.フォルトゥナート公爵

「悪天候による書類の遅れ、ですか」

「あぁ。こちらの準備はすでに完了しているが、各領地の被害状況や損失の把握に、もう少し時間がかかるようだ」


 そのせいで、今日やるはずだった仕事が半分ほど延期になってしまったらしい。

 で、飼い主もまだ名乗り出ていないのもあり、せっかくなので何かおもちゃを用意して帰ろうということになったと。


(書類が遅くなってるってことは、その分どこかでまた忙しくなっちゃうんだろうけど)


 それでも、早く帰ってこられたのはいいことだと思う。

 とはいえお屋敷に戻ってきたら、それはそれで別の仕事があるみたいだけれど。


(でも、ボールを用意して一緒に遊んでくれたのは嬉しかったからいいの!)


 多少とはいえ、エドワルド様も額に汗を滲ませていたし。

 もしかしたらこれで、今日こそ眠ってもらえるかもしれないから。


「我がフォルトゥナート公爵領では、特別被害が出ているわけではないのだろう?」

「はい。以前の水害対策時の知識が役に立ったようで、被害という被害は出ていないと報告が上がっております」

「つまり今のところ、例年と収穫量に大きな差はなさそうだということか」


 とはいえマッテオさんとの会話は、歩きながらだというのに仕事のことばかりで。

 これでは本当に仕事が延期になったのかどうか、怪しいところではある。


「被害のあった領地の補填(ほてん)分として、収穫量を増やすことが可能かどうか、一度確認をいたしましょうか?」

「あぁ、頼む」

「承知いたしました」


 各地に被害が出ている以上、仕方がないこととはいえ。少しでも時間が惜しいとばかりに会話を進めるその姿は、尊敬と心配の両方の感情を抱かせる。


(……というか、フォルトゥナート公爵って)


 ディーオ王国内において、かなり豊かで広大な土地を持つ、大変序列の高いお家柄では?

 つまり私を拾ってくれた方のフルネームは、エドワルド・フォルトゥナート。何なら、この方こそがフォルトゥナート公爵なのかもしれない。

 身分が高すぎる人は、自分には関係ないと思って調べていなかったから、あまりよく知らないけれど。大変裕福なお家柄だということだけは、さすがの私でも知っている。


(公爵家とか侯爵家なんて、縁がないと思ってたからなぁ)


 貧乏子爵家の令嬢が、そこまで高望みすることはまずもってないから。

 でも今は逆に、そのことが自分の足を引っ張っている。


(やっぱり、ちゃんと全部調べておくべきだった)


 そこまでの家柄であれば、少し聞き込みをしておけばすぐに情報は手に入ったはず。

 しかも若き宰相閣下ともなれば、なおさらだろう。それ以前に、自国の宰相様の名前を調べていなかったのは、明らかに失敗だった。

 あの頃の自分に、教えてあげたい。もうちょっとだけでいいから、何事にもちゃんと興味を持って調べなさいって。

 実際に今、ものすごく後悔しているから。


「ところで、お前はどこまでついてくるつもりだ?」


 そう問いかけられた私は、いつの間にか脱衣室の前までついてきていたことにようやく気がついて。


「……わふ」


 その場に腰を下ろして、ここでいい子で待ってますの姿勢を見せる。

 それに、なぜかエドワルド様は小さく笑って。


「そうか。さすがに中まではついてこないか」


 一人で納得して、扉の向こうへと消えていった。


「……少し、時間がかかりますよ? 先に食堂で待っていることも可能ですが、どうしますか?」


 エドワルド様を見送った私を気遣ってなのか、マッテオさんがそう問いかけてくれるけれど。

 私はそのブラウンの瞳を見上げて、扉のほうを見て、また見上げて。

 最終的に扉をジッと見続けることで、待つ選択をしたのだと伝えておいた。


「そうですか。では、私は仕事に戻りますので。後ほど、お会いいたしましょう」


 なぜかそれでちゃんと通じていることにも、犬に対して敬語で話してくれていることにも、たった数日で慣れ切ってしまっていた私は。


「わふ!」


 行ってらっしゃいとありがとうの意味を込めて、ひと声鳴いておいた。

 それに珍しく目元を緩めてくれたマッテオさんの表情から察するに、たぶんこれもちゃんと意味を汲み取ってもらえたのだと、勝手に解釈しておく。



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