14.勉強不足
「犬という生き物は元来、より良いリーダーの下で集団で暮らすという習性がありますから。おそらくはエドワルド様を、優秀なトップだと判断したのではないかと」
「それが事実だとすれば、随分と頭のいい犬だな」
「人間の言葉もある程度は理解しているようですし、賢いのは事実でしょう」
そんな風に続けた、マッテオさんの口添えもあり。結局私は、今日もエドワルド様と一緒にいることを許された。
ただし。
(どうしても、夜は執務室に直行なのかぁ……)
寝室ではないあたりに、睡眠に対する諦めが見えているけれど。真剣に仕事をしている姿を見ていると、それはそれで邪魔もしにくくなってしまう。
そもそも昨日だって、あんなに仕事をしていたはずなのに。なぜか机の上の書類は、減っているようには見えないから。
(忙しすぎるんだろうな)
処理してもしきれないほど、山積みになった書類たち。
エドワルド様の処理速度は、決して遅いほうではないはずなのに。それでも追い付かないんだろう。
そしてその仕事を、部下や使用人に任せられないということは。それだけ重要な役職に就いているということ。
(でも、どう見ても二十代前半の若さなのに……)
本来であれば、まだまだ男性は誰かの下について、色々なことを学ぶべき時期のはずなのに。
私の兄も、今は父の補佐のようなことをしながら、領地経営について学んでいるところだから。よく知っているけれど。
(田舎すぎて、王都の事情とか他の貴族の事情とか、全然情報が入ってこなかったから)
もしかしたら有名なのかもしれないけれど、私はそういったことを一切知らない。
領民を飢えさせないように、日々を過ごすことに精一杯で。他に目を向ける余裕がなかったとも言えるけれど。
(令嬢とは名ばかりで、私もできることは何でも手伝ってからなぁ)
他の領地に比べれば、圧倒的に少ないと言われている我がパドアン子爵領の領民の顔と名前は、私ですら完全に一致している。
何なら、いつどこでどの家に子供が生まれて、どこの家の犬が子犬を何匹出産したとかまで、よく知っているから。
そのくらい、領主と領民の距離が近い場所で生まれ育った私からすれば。遠く離れた王都の貴族の噂話なんて、異国での出来事に等しかった。
流行りの食べ物なんかには、割と興味はあったけれど。人の噂話なんて、そもそも興味がなかった上に、あまり耳に届くこともなかったのだから、仕方がない。
(とはいえ、もう少し情報を集める努力ぐらいはしておくべきだったかな)
せめてデビュタントの準備のため、王都に出ることが決まった時点で、そういうことも学ぶべきだったと反省する。
考えてみれば、王都に出てから結婚相手を探さなければいけない身なのだから。情報収集は必須事項だった。
(やるべきことをちゃんとしていれば、もしかしたらエドワルド様が何者なのか、すぐに分かったかもしれないのに)
自分の勉強不足を後悔しつつ、書類に目を通しペンを走らせるその姿を眺めながら。最初こそ、今日は寝てくださいと念を送っていたのだけれど。
満腹状態の私の瞼は、すぐに限界を迎えてしまって。
結局気がつけば、しっかりと熟睡して。気分だけでいえば、気持ちよく朝を迎えてしまったのだった。
~他作品情報~
本日、コミカライズ版『お茶くみ係』のRenta!限定版2巻が、配信されました!(>ω<*)
そしてこれをもちまして、コミカライズ版も含め『お茶くみ係』が完全完結となります!
限定版には書き下ろし漫画がありますので、もしご購入を検討中の方がいらっしゃいましたら、こちらをオススメいたします!
また同時に、別作品のコミカライズ企画についてのお知らせです。
活動報告ではすでにお知らせ済みなのですが、『ヒロインヒロイン』にコミカライズのお声がけをいただきました!o(*>▽<*)o
本当に始まったばかりなので、告知などはまだまだ先なのですが。
まずは計画が始動しましたよというお知らせでした!




