6.新しい家族
「かわいい……!」
真っ白な毛並みの中に、ところどころ薄いクリーム色が見えている、足の長い子犬。
フォルトゥナート公爵家に私が嫁入りした年に、エドワルド様は以前宣言していた通り、オスの子犬を迎え入れたのだった。
「親離れと、簡単なしつけは終了しているそうだ」
「でも、まだそこまで遊ばせすぎるのはよくないんですよね?」
「あぁ。とはいえ比較的穏やかな性格で、疲れると自分から遊びをやめて寝床へ行く性格らしい」
「まぁ、お利口さん!」
実は私が姿を変えられていた犬というのが、それはそれは運動量の多い種類だったらしく。狩に連れて行っても十分に働いてくれるような、賢く従順な性格の子がほとんどなのだとか。
それを聞いて、エドワルド様をはじめフォルトゥナート公爵邸の使用人全員が納得していたのだけれど。そこまでだっただろうかと、私はただ一人疑問に思っていた。
そもそも中身が人間だったので、正確なところは分からないのではないかと主張しようと考えて、でも結局やめた。そこにあまり意味はないように感じてしまったから。
少なくとも運動量が多かったのは事実なので、どこまで否定できるのかも微妙だったからというのもある。
「これでも、子犬にしては大きいほうなのだそうだ」
「大型犬、ですものね」
とはいえ、顔はまだ子犬らしくクリクリのまん丸お目々をしているし、鼻先も大人ほど長くはなっていない。
一度しか見たことがない、しかも鏡ですらない、窓に映った自分の姿しか知らないけれど。それでもやっぱり小さくて幼いのだということは、ひと目で理解できてしまった。
私が分かるのだから、実際にエリザベスと呼んでいた人たちは、もっとその違いが分かるだろう。その証拠に、どこかおそるおそるという体でエドワルド様が子犬に触れているから。
「小さくて、不安ですか?」
「……エリザベスとしか触れ合ったことがない身としては、正直どう扱うのが正解なのかが、まだ分からないな」
「それはこれから徐々に、ですね」
性格が違えば、接し方も変わってくる。それは人間でも動物でも、きっと同じことなのだろう。
とはいえ、今日からこの子はフォルトゥナート公爵家の飼い犬。お互いに少しずつ慣れていって、いい接し方を覚えていくしかない。
でも、それよりも先に。
「エドワルド様、この子のお名前はどうしましょうか?」
そう、名前。
家族になるのだから、まずはそこからだろう。呼び方が決まらなければ、先には進めない。
「ローラは、何か候補はあるか?」
私が家族から親しみを込めてそう呼ばれていることを知ってから、エドワルド様も同じように愛称で呼んでくれるようになった。
そのことを嬉しく思いながらも、質問に答えるべく少し考えてはみるものの。
「……ない、ですね。実際に会ったのも、今日が初めてですし」
名前というのは、とても重要なものだと考えているから。
実際にはもう呼ばれることはないけれど、私にとってエリザベスという名前が特別なように、この子にとっても名前というのは大切な宝物になるはず。
だからこそ、まずはちゃんと会ってからと思っていたのだけれど。
「ならば、レックスというのはどうだろうか?」
どうやらエドワルド様は、すでに候補を絞っていたらしい。
「いくつか考えてはいたのだが、ひと目見た瞬間にこの名前が合う気がしたが……どうだ?」
「レックス……」
見た目と名前の響きが合うのかどうか、確認しようと思って子犬を見ながら声に出してみた、その瞬間。
「くぅん?」
不思議そうに見上げてきたその姿に、一瞬で決定してしまった。
「レックスにしましょう! 今この子、名前に反応しましたから!」
「そうだな」
どうやらエドワルド様も、同じことを思ったらしい。
こうして決定した、新しい家族の名前を。
「おいで、レックス」
優しく呼ぶエドワルド様の姿が見れるまで、あと少し。




