とある小説家たちの会合
あの日、ルナ、桜、ヒカリが初のオフ会で小説を書かないかと提案したあと、ヒカリの案内で隠れ家的なカフェに行った後の物語……つまり、前回の続きである。
「ヒカリさん、ここ、いい雰囲気ですね」
「ホントですよ。どうやって知ったんですか?」
「こういうカフェにたまに来るのが趣味でして。散歩中に見つけたものですから。月一くらいですけど、もうかなり通ってますね」
ヒカリの言葉にルナと桜はなるほど、とうなずきながら、メニューを見た。
「私はオリジナルブレンドのブラックと今日のケーキのセットにしようと思います」
「私は今日の紅茶とケーキのセットで」
「では、私はルナさんと同じものを」
ヒカリは紅茶、ルナと桜はコーヒーを注文した。
「ヒカリさん、紅茶はなんですか?」
「えぇ。飲めないというわけではないですし、美味しいとも思いますけど、紅茶の方が自分にあっているというか……」
桜の質問にヒカリは恥ずかしそうに小さく笑いながら答える。そこから話題が広がり、ルナも似たようなものだ、とか、桜はどっちも好きだ、という話や、飲み物の名前を冠したキャラクターが出てくるカフェの日常の物語では誰が好きかなどの話をしていると、頼んでいたものが届いた。
「うわぁ、美味しそうですね」
派手ではないが美味しそうに見えて食欲を唆るケーキといい香りを辺りに広げる飲み物たち。シックで落ち着いた雰囲気の店内によくあっているなとその場の全員が思いながら、「では、いただきましょうか」というヒカリの声に一斉にカップに手を延ばす。
飲み物の香りを楽しんだあと、一口口に含む。
「「美味しい」」
ルナと桜の声が重なる。ヒカリはゆっくりと味わっていた。
「皆さん、先程の話なんですけど……」
ひとしきりティーブレイクを楽しんだところで、ルナがおずおずと口を開いた。
「あぁ。小説の話ですか?」
「はい。書く内容とか決められたらなぁと」
「ルナさんはこれまでどういったものを書いてきたんですか?」
「私は異世界系をよく書いてますね。でも日常系にチャレンジしてみたいです。桜さんはどんなジャンルに興味があるんですか?」
「私は日常系を書こうと思ったんですけど……文才がなくて断念しました。ヒカリさんはどんな絵が書きたいとかないんですか?」
「私が書いてるのは殆ど模写なんですけど、明るい系の……陽キャっぽい女の子が多いので、清楚系美少女を書きたいですね」
各々がどんなものを書きたいのかを話したところで、いつもまとめ役をしていた桜がどんな小説を書くかの仮案を出した。
「では……清楚系美少女の出てくる日常系を一回書いてみますか?」
「いいですね」
「私も賛成です」
「書く順番とかはどうしましょうか?」
「あの、まず桜さんが設定を考えて、それを私とヒカリさんに共有して、その後に私が文章を書いてまた共有するので、それと設定をもとにヒカリさんが絵を書いて全員の意見をすり合わせていく……というのはどうでしょうか」
「いいと思います。文章と設定があったほうが私もキャラクターのイメージがしやすくて絵が書きやすいですし」
「なるほど……私が一番初めで重要ですね。頑張ります!」
三人の会話が一段落すると、外は薄暗くなっていた。
「最近日が沈むの早いですよね」
「そうですね。まだあんまり寒くないですけどもう冬も近いんですよね……」
「……これからどうします?」
ルナとヒカリの話が一区切りしたところで桜が切り出した。
三人は飲み物や軽食を追加で頼んだりしながら、かなり長い間話し込んでいた。良い子は帰る時間を過ぎた頃、二人の時間を気にして声をかけた桜の考えに気づき、三人はここで一度解散することにした。
「では、私は歩きなので」
「私はこっちですね」
「私は反対です」
ヒカリは徒歩、ルナは上り電車、桜は下り電車で帰るらしい。
「では、ルナさん、ヒカリさん、また会いましょう。設定、できたらチャットにおいておきますね」
「ありがとうごさいます。それではヒカリさん、桜さん、今日はありがとうございました。またオフ会やりましょう」
「そうですね。ルナさん、ヒカリさん、また会いましょうね」
全員が短い挨拶を交わすと、誰からともなく分かれて歩き始めた。
最後に三人が「さようなら」と言い合ったのが三人の心に今日の長いようで短かった最高に楽しかった思い出とまた会いたいという気持ちを残した。
それから数日後、三人は連絡を取らなくなった。
三人がいつも使っていたチャットアプリの画面には全員がしばらく予定が立て込んでいてゲームやチャットができない。小説は進める、という内容の文を送信した記録だけが残っていた。
今回も読んでくださりありがとうございます。高評価、ブックマーク登録もありがとうございます。いつも励みになっています。
リクエストにお答えして、想定していた完結まで書こうと思います。あれ?これ短編じゃなくない?と思ったので連載小説にしました。これまで通り人造勇者の理想郷とパンデミックアフターが一段落するごとに完結記念として一話ずつ更新したいと思います。更新間隔がかなり空いてしまうと思いますが、次回も読んでくださると嬉しいです。