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第9話 壊れていく幸せな日々

 モートンと結婚してそろそろ一年になろうとしている。

 けれど、私は未だに妊娠の兆候が見られなかった。


「全く…ウォルトマン伯爵にも困ったもんだ。まさか子を生せぬ娘を…」


「父上!!」

 モートンが大きな声を出して義父の言葉を遮った。


「何度申し上げればわかって頂けるのですか! 子供に関しては口出ししないで頂きたいと言いましたよね!?」


「それでこのまま子供が出来ない状態を黙って見ていろというのか!? 貴族にとって跡継ぎがどれほど重要な事なのか、お前は全然分かっていない!」


「僕たちはまだ若い。なぜそれほど焦るのか理解できかねます。行こう、リサーリア」


「モートン…」

 彼は私の肩をそっと抱き、立ち上がらせた。


「まだ話は終わっていないぞ!!」


 義父の怒鳴り声を背にしながら、私たちは部屋を出て行った。

 タラの前を通り過ぎる時に、鼻で笑われたような気がした。


「今度から部屋で食事をする事にしよう」

 モートンは部屋に向かいながら、怒気を含めてそう言った。


 部屋に戻るとメイドを呼び、途中になっていた夕食を持ってくるように命じたモートン。

 しばらくして食事が運び込まれ、私たちは夕食を食べ始めた。


「モートン…あの…」 

 私は何を言えばいいのか分からず、けれど何か言わなくてはと思いながら言葉を発した。


「何度も言うけれど、父の言う事を気にする必要はない。それに僕はまだ君と二人の時間を楽しみたいからね。子供ができるとそれもなかなか難しくなるだろ?」

 そう言いながらワイングラスを掲げ、私にウインクをしてみせた。


「ふっ モートンったら」

 私はつられて笑ってしまった。


 義父の言う通り、このままでいいはずがないと分かっているけれど、今は何も考えたくなかった。



 ◇◇◇◇



 その夜、違和感を感じて目が覚めた。


 隣で寝ているはずのモートンがいない。

 ご不浄かと思い、しばらく待っていたが戻ってこなかった。

 私は心配になり、モートンを探しに部屋を出た。


 人気のない廊下をしばらく歩くと義両親の部屋の扉が少し開いており、明かりと会話が漏れていた。


 そっと中をのぞくとそこには義父と義母とモートンがテーブルを挟んで座っていた。


「では、分かったな。タラをお前の愛妾にする」


「…承知致しました」


「…っ!」

 私は両手で口を押えた。声を押し殺して、気配を消して、ゆっくりとその場から離れた。


 私は部屋へ戻るなり、ベッドに入り布団を頭から被った。


 今、私は何を聞いたの? お義父様は何を言ったの? モートンは何と答えたの?


『では、分かったな。タラをお前の愛妾にする」

『…承知致しました』


 嘘よ………


『僕は君と本当の夫婦になりたいと思っている』

 あなたはそう言ってくれたのに…

「…うっ…」


『だから愛妾を持つ気など全くない』

 嘘つき…っ!

「うぁ…あ…っ」


『僕は夫として君を決して裏切りはしないと誓うよ』

 嘘つき ―――――…!!

「…っ…ぅあぁあっ!!」


 溢れる涙は心を引き裂き、幸せだった思い出が次から次へと消えていくようだった。


 誰もいない暗い部屋の中で、私はひとり咽び泣いた…

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