第11話 新たな生活
カラン カラン
ドアベルが鳴る。
「こんにちは、マリーヌ」
「あ! リサーリアっ いらっしゃい!」
ここは国の最南端に位置する小さな街レウニオン。
今いるお店は、手作り小物などが置かれている雑貨店だ。
私は週二回、ここのお店に作った商品を持ってきて買い取ってもらっている。
「リサーリアの商品、評判いいのよ。隣町からわざわざ買いにくるお客様もいるの。この間の分の商品も全て完売したわ」
「本当ですか? 嬉しい!」
「だから、リサーリアさえよければ、週2回を4回にしてもらえないかしら? その代わり買い取り単価を上げるから」
「もちろんです。こちらこそありがたいわ。これからお金がかかるから、稼げる内に稼いでおかなければ」
「あ、そうよね。でも無理しないで。できる範囲でいいから」
「大丈夫です。いつもありがとうございます! じゃあ、これ今回の分の買い取りお願いします」
「いつも見事な刺繍よね。特にこのブーゲンビリアのデザインがとても素敵だわ」
「ありがとうございます」
グリフォンド家を出てから三か月。
私は南に向かって移動し、この街に辿り着いた。
そして、グリフォンド家から持ってきた宝石類(もちろん私の物として与えられたもの。盗んできたわけじゃないわ)を売って、この街で部屋を借りた。
昔のように刺繍を施した小物を作り、このお店で買い取って貰い、生計を立てている。まだ宝石や売り物になりそうな服もあるし…何とか生活している。
「じゃあ、また」
「またあの丘に寄るの?」
「ええ。ちょうど夕日が見られる時刻だから」
「結構傾斜だから気をつけてよ! 大事な身体なんだからっ」
「はいっ ありがとうございます! じゃあまたっ」
そう言って店を出た。
私はお腹にそっと手を当てた。
皮肉にも、この街に来てから妊娠している事が分かった。
けれど、グリフォンド家に戻る気はない。
この子は私だけの子。
モートンが最後にくれた最高の贈り物。
彼がタラを愛妾にした時は本当に悲しくて、悔しかった。せめて一言説明して欲しかった。けれど私には何もなかった。私の存在を無視して、話を進めている事が一番腹が立った。
だから少しでも私にした事を後悔させたくて自殺にみせかけた小細工をしたけれど、彼は勘がいいからすぐ偽装に気づいたかもね。けれど、もうどっちでもいいわ。
妊娠していると分かったとき、グリフォンド家での出来事はどうでもよくなってしまった。
私には愛する家族が、私を必要としてくれる家族がここにいる。
それだけで、私はとても幸せだわ。
「今日も見事な夕焼けね」
小高い丘にはブーゲンビリアの群生が成っている。この街に住もうと決めた理由だ。
花々に囲まれながら沈んでいく太陽を眺め、1日の終わりを肌で感じている。
「やっぱり実物の方がきれい」
リサーリアは花に触れながら、つぶやいた。
一緒に見ようと言った人はいない。
裏切られ、恨んだ時もあった。
けれど、決して忘れることのできない愛しい人。
本当はあなたにこの子の事を一番に報告したかった…
お腹に手を当てながら、彼の姿を思い描いた。
「モートン…」
「リサーリア!」
「…っ!!」
振り向くとそこにはアメジストの瞳をした…




