表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。  作者: Kouei


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/14

第1話 愛妾を迎えた夫

 足元は断崖絶壁。岩肌に打ち付けられる波音が轟く。


「この夕日を見に、よく二人でここに来たわよね。モートン」


 私は切岸にひとり立ち、目の前に広がる海と沈みゆく夕日を眺めていた。

 来る度に、このオレンジ色に染まった海の美しさに見惚れていた。

 

「…でも今日は、真っ赤な血の海のようね…」


 私はおもむろに履いていた靴を脱ぎ、揃えた。


「あなたがプレゼントしてくれたこの靴、とても気に入っていたわ。あなたの瞳と同じ紫色の石が散りばめられていて、とてもきれいなんだもの。けど…もう…いらないわ…」


 靴を見ながら一筋の涙が零れ落ちた。


「さようなら…モートン…」


 別れの言葉の後に残されたのは、紫色の石が輝く靴と波の音だけだった…




◇◇◇◇




 ―― 数時間前 ――



「タラをモートンの愛妾にする。結婚して1年経っても妊娠の兆候が見られないのだから仕方あるまい」


 そう言い放ったのはグリフォンド伯爵家現当主であるお義父様。

 その隣で頷いているのはお義母様。

 勝ち誇ったように笑みを浮かべる侍女のタラ。

 義父の言葉をただ黙って聞いている夫のモートン・グリフォンド。


 そして、その様子を他人事のように眺めて聞いているのがモートンの妻である私、リサーリア・グリフォンド。


「リサーリア、あなたも納得してくれるわよね?」

 反論するなと言わんばかりの圧を感じるお義母様の言葉。


「…はい」

 もしここで“納得できない”と言えば、お義母様はタラを愛妾にするのは止めるのだろうか。そんなはずないわよね。思わず両手を握り締めていた。

 嫁いでから繰り返し『跡継ぎ、跡継ぎ』とそればかり言っていた義両親ひとたちだもの。


 モートンは先程から一言も話さないし、私の方を見もしない。

 それもそのはず。タラが愛妾になる事は彼も了承している。

 その事は私も知っていた。


 だって昨夜私は、義父と義母とモートンの会話を聞いてしまったのだから。


 夜中に目が覚めると隣に寝ているはずのモートンがいなかった。

 ご不浄かと思ったが、待てど暮らせど戻ってこない。

 心配になり屋敷の中を探していたら、義両親の部屋から明かりと会話が漏れていた。


 そこにはモートンもおり、義父にこう言われていた。

「では、分かったな。タラをお前の愛妾にする」


「…承知致しました」


 承知致しました承知致しました承知致しました承知致しました承知…


 その言葉だけが頭の中をぐるぐる回っていた。ショック…? いえ、そんな軽い言葉では言い表せられない衝撃だった。


 だってあなたは言ってくれたじゃない。


「この結婚は確かに家同士の利益のための婚姻でもあるが、君とは良い夫婦関係を築いていけると思っている。そして僕は夫として君を決して裏切りはしないと誓うよ」

 モートン、そう言ってくれていたのに。その時私はあなたに恋をしたのに…っ


 それなのに、こんな形で裏切られるなんて…!


 当然、貴族同士の結婚に跡継ぎが必要な事は私も分かっている。

 そのための愛妾を持つ場合がある事も分かっている。分かっていたけど…でも!こんな簡単に受け入れるなんて…っ しかも、私には全く全然ひとっっっっっ言もなく…!


 私の存在価値って何? 跡継ぎを産めなきゃ用なしなの!?


 けど…事前に分かっていて良かった。今初めて聞いていたら、ショックで泣き崩れていただろう。


 そんなところ、死んでもタラには見せたくなかった。


 さっきからニヤニヤしながら私を見ているタラ・スキーニー男爵令嬢。

 スキーニー家は代々グリフォンド家の侍女として仕えていた。



 ◇◇◇◇

 


 私が嫁いでくる数か月前、今まで働いていたタラの母親の体調が悪くなり、代わりにタラが侍女となったらしい。タラは私がここに嫁いだ時から、私に対して陰湿な嫌がらせを繰り返していた女。


 朝、顔を洗うために用意される水やお風呂の水が氷のように冷たいのは当たり前。髪を整える時は、髪が半分なくなるのでは…と思うくらい乱暴にかすし、外出する際に用意される靴はいつもワンサイズ小さいもの。家族で摂る食事では、なぜか私の分だけ極端にからかったり、甘かったり。


 自分の立場を考えて、やんわりと注意はして見たけれど、私の言葉を聞く耳はない様子。


 一応グリフォンド家の嫁と侍女の立場を明確にする方が良いと思い、義母に相談した。

 するとタラを呼び、事の真相を問いただしたところ、タラの言い訳劇場が開催されたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 愛妾って、妾になった者の中でも、特別に男に寵愛されている妾の事なので、単に妾と言った方がいいのでは。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ