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引き合わないけど引き合う二人。

この辺りから作者の創作ですわ。

<つぎわー川崎ー、つぎわー川崎ー>


車掌が変わったのか駅名の呼び方が変わり、バタバタバタと大勢の乗客が下車していくとやっぱりその男は彼女をみていたが・・・。


「そんなに悲しい顔しないでよ、やっぱわたし変よね」


自暴自棄真っ最中の漂う悲壮感は男の目線を迷わすには十分な理由だった。


<チッラ>


「あっ、避けた、そうだよね、普通さけるよね」


<チラッ>


「なんでまたチラ見するのよ!」


そんな葛藤を繰り返すと思いきや、また車内は人で溢れかえり始めた。


乗客「おお、混んでるな〜」


動く人影を縫って2人の目線は合い続ける。それはまるで流れが遅いフィルムみたいに途切れ途切れだ。


青年「あの子、少し持ち直したかな?」

女の子「わたしが気になるのかな?」


フッと男の子が一瞬軽く微笑む・・。


「少し腫れが引いたね、良かった」

「馬鹿にしてんの!悲しい女を笑ってるのね」

「あれ?今度は怒ってるよ、変なの」


「なんで馬鹿にした後に、心配顔になるのよ!」

「うん、もう大丈夫かな・・」


フッと女の子の表情が変わり、安心したのか青年は目線を外してしまう。


「あっ、目線なんで外すのよ、もう!」


<つぎわ〜鶴見〜、つぎわ〜鶴見〜>


色んな思惑が脳裏を通り過ぎ、気が付けば男の降車駅の鶴見に電車は到着する。


「あっ、降りないと」

「・・・(ジト目」


視界の端に見える女の子に目線を合わせないようにするが、ジッと強烈なあの視線に気がつく。


「ええ、なんで僕を見てるの?大丈夫じゃないのかな?」

「アイツまだ、降りないんだ(オコ」


その強烈な目線は踏みとどまらせるには十分な威力だった。この駅で降りるつもりだった青年は動けずまごまごしていると、無情にもプシューとドアが閉まってしまう。


「嗚呼、閉まったよ・・」

「なんで変顔してんのよ(オコ」


ガタンゴトン、ガタンゴトン、さっきまで気にならなかったレールの音が妙に耳に付き始める。


「あの子が降りるまで見届けるか・・ふむ」

「何よ、諦め顔して」


男は女の子を意識しない様にスマホを弄り出すが、気になるのかチラッと見てしまう。


<チッラ!>

「もう!、見ないでよ」

「わわ、口が尖ったよ」


先程まで人で溢れかえっていた車内はパラパラとしか乗客がいない。なので互いの行動がまるわかりそんな状況だ。



<つぎわー新子安〜、つきわー新子安〜>

<つぎわー東神奈川〜、つきわー東神奈川〜>


口が尖ったことで敵意を向けられると理解した青年は俯くしかない、そして意識しないようスマホを見て時間だけが過ぎていく。


<つぎわー横浜〜、つぎわー横浜〜>


「おお、もう横浜か・・・降りないな彼女・・」

「もう、なんであいつ降りないのよ、もしかしてストーカー?」


お互い意識しているのか、微妙に目線が合わない2人。


「どうしようかな」

「あっ、やっぱまだ意識してる」


プッシューっと閉まるドアの音は悪い知らせだ。ここで初めて重大な間違いを犯したことに気がつく女の子。


「あ゛っ!降りるの忘れてた・・もうあいつのせいよ!」

「わわ、なんでオコ顔になるんだよ」


女の子は失恋のことはすっかり忘れ、この小さい車内の世界に没頭し始めた。まぁ彼氏とは手を繋いだくらいで友達以上の感覚しかなかったのが救いだったかもしれない。。


<つぎわ〜桜木町〜、つきわ〜桜木町〜終点です>


「うーん、終点か・・もういいか」


電車がブレーキを掛ける前にスッと立ち上がる男。


「そっか、終点か・・乗り換えなきゃ」


ーー


<<桜木町駅・駅舎>>


両人ともに意識しているのか違う降り口に向かった・・そしてそのまま東京方面のホームに歩いていく。


「なっ!」

「何で同じなのよ」


まさかの同時移動、同じ行先、何か、こう、違和感と、なんとも言えない空気が流れ微妙にお互いを意識をするが、声を掛けることは気が引けていた・・。


<間もなく蒲田行きが到着します。黄色点字ブロックまでお下がり下さい>


ガー、ガタンガタン、ホームに蒲田行きが到着したが、お互い違う乗降口から入り彼女は右の奥の角、男の子は左手前の角に座る。


<この電車は時間調整の為、3分程停車致します>


知るとイラつく時間調整の知らせ。


「もう!」

「仕方ないか」


電車の中はガラガラに空いていたが、男の近くに一席間を置いてカップルがいちゃついていた。相手の男は斜めに座り彼女の太腿に手を置き感触を味わいながら何やら喋っていたが、どうも酩酊している様子だった。


「もうイヤーン、人が見てるから!もう、あんた飲み過ぎよ!」

「なぁ、川崎の居酒屋でダチが飲んでるから行こうぜ。それとも少し飲んだらホテルにする〜」

「もう、エッチ」

「今日はクリスマスだ、楽しもうぜハハハ」


アホな会話は離れていた女の子に聞こえていた筈だが、それよりやはり気になるのかチラッと見てしまい思考を巡らす。


「ストーカーだったらどうしよう・・・けど、こっちみてないわね」


考え始めると気になるのは仕方がない、相手をチラ見し俯き、また考えまた見てしまう。


「意外に若いのね……何で同じく乗り換えるのよ」


思いを巡らせそれを何度かそれを繰り返すと、突然怒号が女の子を襲う!


男「お゛い!、チラッチラッ見やがって気になんのか〜、オイ、コラ!」


さっきまで上機嫌に卑猥な話をしていた男がいきなりブチ切れ、女の子に暴言を投げつける。


「ええ、マジ(驚」

女「アンタやめなよ!」

男「あ゛ー、さっきからチラッチラッ俺達を見て馬鹿にしてんのか!」

「。。。。。。(恐」

「もう、ヤメなよ〜、ほらビビッてんじゃん」


女の子はいきなり切れた男が怖いのか首を横にすると俯き、その姿は笑ってる様に見えたのか更にヒートアップする。


「ゴラァ、人のこと笑ってんじゃねーよ(オコ」


「ヒッ!(恐」


女が止めるのも聞かずに男は立ち上がりオラオラ歩きでズカズカと近付いてくる。女の子はその鬼の形相を見ると恐怖心が芽生え怯え固まってしまった。


<蒲田行き発車します>


アナウンスが流れた直後ガタンと電車が揺れ、酔った男はバランスを崩し後ろ向きに倒れた。たがそのことでさらに怒りが込み上げたのか転んだまま女の子を睨みつける。


「クッソお前のせいだ!」

「ヒッ!イヤ」


酔いが回り、勝手に勘違いし怒る相手を諌める手段などない、言い訳はさらに怒りを助長するだけだ。そして女の子は助けを呼びたくても体は固まり ”わ、私は・・” と小声で呟くのが精一杯、完全に恐怖に支配されつつあった。


青年「大丈夫ですか?頭強打してませんか?」

「何だお前、おぉ〜」

「いえ、わたし医者の実習生なのですが、大きく倒れたので心配になったんです」

「えっ、なんで、どうして」


彼女はいきなりの展開の、考えもしなかった助け舟が現れ一気に恐怖の世界から抜け出した。


「お、おう、おまえ医者なんだ」

「ええ、飲んで頭を強く打つと急死する可能性が高いのです、痛みはありませんか」

「だ、大丈夫だよ、ちょっと転んだだけだし、心配してくれてありがとな」


さっきまでの怒りは意外なことで断ち切られ、一旦冷静になる酔っ払いの男。


「そうですかそれはよかった安心しました、気にしないで下さい医者の役目ですから」


医者の、その説得力に急に大人しくなり椅子に座った男だったが、まだ獲物を狙うかのようにジッと凝視していた。


「・・・(まずいな、また絡み始めるぞ」

「あのアマァ・・」

「ねぇ、いい加減仲直りしようよ迷惑になってるよ」


青年は元の席には戻らず女の子と男の間にわざと立ち、大声で仲直りの言葉をぶつけた。


「なな!」

「なんだ!お前の彼女なのか!」

「ええすみません、ちょっと喧嘩しちゃって離れて座っていたんです」


振り向き頭に手を置きバツが悪そうに男に謝ると、勘違いに気がついた男は急に優しくなった。


「なんだ、そうなのか勘違いしたじゃねーか、ちゃんと相手してやれよぉ、クリスマスなんだし」

「ええ、そうします」

「あ、あなた・・」


そして女の子の方を向き、軽くウィンクして口に指を当て小さく呟く。


「駄目だよそのままフリして!」

「うん」


一連の、その行動の意味を理解した女の子は小さく頷いた。


<つーぎわ〜・・・・・ヨコハマ〜・・・・・ヨコハマ〜>


「間の長い車掌さんだね」

「プッ」

「さあ、2人で降りよう」

「うん」

なんとも間抜けな駅名アナウンスを聞きツッコミを入れると緊張が解れたのか、少しだけ笑みが溢れ、2人は黙って横浜駅のホームに降り立ちそのまま階段下に移動した。


ーー


<<横浜駅・駅舎>>


「ふぅ、ここまで来れば大丈夫だね、じゃこれで」

「・・・(黙」


彼は顔を直視することなく呟き、逃げるようにその元を去ろうとしていたが、彼女は急に疑問が湧き思わず声を掛けてしまう。


「ねぇ、何で助けたのよ」

「いやだって、泣いてて、気になって・・変な奴に絡まれたから。。つい」


恥かしいのか男は俯き、横を向き目線を合わせずに話していた。


「そう・・」

「気味悪いよね、知らない奴にジッと見られて・・・ごめん」


そう言い終わると男はダッ!終始目線を合わせることなく上りホームに向かい駆け上がって行った。


「あっ・・」


そして女の子は少し考え、ある事を思い出していた・・。


母親<いい、お世話になったり、迷惑を掛けたらちゃんとお詫びして相手の気持ちに答えてあげるのよ>


それは母親が行った情操教育の一環で、道徳心を教える言葉だった。


「助けて貰った、けど私を見つめていた、けど上り方面に行く、わからない・・・なぜ」


やっと決心した彼女は上りホームに向かって、ゆっくりトボトボと考えながら歩きはじめる。


「けど・・そうよね、お礼くらいは言わないと駄目よね」


<ドアが閉まります、駆け込み乗車はご遠慮ください>


「あっ!」


まだ彼女は階段下だった、慌て急ぎ階段を駆け上がった、だが思いを断ち切られるゴトンと重量感のある音が絶望を教えてくれる。


「嗚呼・・」


そして無情な汽笛がファーンと鳴り響き、焦りが、探さなきゃ、ちゃんとお礼を言わなきゃという気持ちがせり出てくる。


「どこ、どこ、どこ!」


過ぎ去る ”横浜線” の中に彼を見つけることは出来なかった。何とも言えない心残りが今日2人目の別れを経験した心に重く暗くズンと響くと、急に悲しい気持ちになり離れゆく赤い光が滲み始め、そして電車の中の出来事を振り返ると自然と感謝の気持ちが声に出ていた。


「彼、心配してくれたんだ・・・ありがとう、けどもう、今日は泣いてばかりだね」


そして次の瞬間突然、駅のアナウンスが流れた。


<間も無く4番線に”京浜東北線”各駅停車、大宮行きが到着します>


次の電車が来ると思いハンカチを取り出し目を押さえ、滲んだ世界から戻った彼女は、ふと、何となく、背中に視線を感じ振り返ると、そう、その、探していた、感謝の気持ちを伝えたい彼が立っていた。


「あっ、そっか」


そう、同じホームを使う横浜線では無く京浜東北線でないと帰れないのだ。見つけられたその彼は照れくさそうに頭を掻いて呟いた。


「なんか、俺、カッコ悪いね」


突然出会った彼なのに、心配してくれたり、助けてくれたり、そのカッコ悪いの呟きと照れ臭そうな態度は彼女に安心感を与えるには十分だった。


「うんん、ありがとう・・・ねぇ、お腹すいてない?」


そして彼女は感謝の微笑みを送るのだった。

よろ!

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