はじめての恋愛戦闘シミュレーション
はじめての恋愛戦闘シミュレーション
幸せが確定してるって、なんて素晴らしいんだろう。
今の私は私史上最も高揚しているかもしれない。そう確信できるくらいテンションが高かった。
けれど、表に出すことはしない。だって、あと数分もすれば目の前の彼とこの気持ちを共有することが出来るから。
「ごめんね、こんなところに呼び出しちゃって。でも、どうしても君に伝えたいことがあるんだ!」
確定演出キター!
王道のセリフに口角が上がりそうになるのを必死に抑える。気が抜けば頬が緩んでしまいそうだ。
今、私は彼に呼ばれて屋上にいる。放課後を迎えた空は夕日でオレンジ色に染まって、アレのロケーションとしては申し分ない。
──私は今から告白をされる。
やばい、自分で言ってて嬉しくなっちゃう。
私はとにかく恋愛がしてみたかった。甘酸っぱい恋、切ない恋、なんでもいい。誰かに好かれて、誰かを好いてみたかった。
そんな希望をいっぱいに背負った私の高校生活は悉く空回りした。友達としてしか見れないとか、今は部活動に専念したいからとか、そんなのばっかり。
なんてもったいないんだろう。学生時代に恋愛しないでいったい何をするというのか。
だが、そんなことはどうでもいい。私は遂に解放されるんだ。文字通り恋焦がれていた私の悲願は今日達成される。
それに彼のことは常日頃悪くないと思っていた。顔もそこそこかっこいいし、頭もそこそこいい。運動は少し苦手だけど、些細な問題だ。本当はイケメンでテストも常に満点でスポーツ万能の出来杉くんがよかったけど、恋愛ビギナーの私には手が出せない相手だ。勇者がはじめにスライムと戦うように、まずは彼くんで肩慣らしといこう。
おっと、いけない。つい考え込んでしまった。このムードを壊すわけにはいかない。
なんせ私は告白されるのだから!
「うん、つ……伝えたいことって……なにかな?」
我ながら気色悪い演技。しかし、これは必要なこと。告白イベントにおいて、必要不可欠な問答。山と聞かれれば川と答えるように、この場が告白のために設けられたものだと確認するための合言葉だ。
「えっと……その……」
どうやら彼くんは緊張のせいで、言葉が詰まってしまっているようだ。
頑張って! 君が言うのは『付き合ってください』なんだから!
「とりあえず僕と付き合ってください!」
「はい……はい? え、え、今なんて言った?」
聞き間違いかな? 彼くんの告白の言葉に何やら余計な五文字があったような気がする。
い、いや、きっと聞き間違いだよね? そんな告白聞いたことないし──。
「とりあえず僕と付き合ってください」
「とりあえずって何!?」
やっぱり聞き間違いじゃなかった。何がとりあえずなのか。私はジョッキに入ってないし、初めての時はちゃんと着けてほしい。
「だって、君、理想個体じゃないから」
「は?」
理想個体? この人は何言ってるのだろうか。さっぱり分からない。少なくともまともではないのは確かだろう。
「後、種族値も低いし……性格も頑張り屋だから補正もかからないし……それから」
「ちょっちょっと待って!? なんの話をしてるの?」
「ポケ○ン」
「私、ポケ○ンじゃないけど!?」
「そんなことは分かってるよ。これはあくまで僕が異性を見極める指標。ちなみに、君のステータスはH60A78B50C40D30S90。上から、ヒップ、愛嬌、バスト、かしこさ、難易度、身軽さだね」
「ごめん。何発か殴っていい? 後、私そこまで軽くないし、簡単な女じゃないし、かしこさは普通に悪口だし、なにより貧乳じゃない!!」
やばい。この人ホンモノだ。関わっちゃダメな人だ。
やばい人は話を続ける。
「それは君の自己評価だろ? いやね、本当は600族の株本さんとか、720族の有瀬さんとかを手持ちに加えてたいんだよ? でも、僕こういう初めてだから、君みたいな手頃な子で肩慣らししようかなって」
彼女にすることを「手持ちに加える」と表現するのはサイコパスすぎるし、引き合いに出された株本さんと有瀬さんが不憫でならない。
言っていることがさっぱり理解できないまま、変態はお辞儀して手を差し出す。
「ということで、付き合ってください」
「するわけねぇだろぉ!」
女の子の恥を捨てたグーパン。
変態はそのまま気絶して倒れてしまう。
「……めのまえがまっくらになったってとこ?」
私の初恋はもうしばらく先らしい。