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『人類初の婚約破棄』~異世界のアダムとイヴはどうして楽園を追放されたのか~  作者: 釈 余白(しやく)


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光りを齎すもの

 神とその前に膝をついたルルがいる。そしてルルを囲むように三人の天使が宙へ浮かび神の次なる手を待っていた。


『ルルよ、汝には今から天使の力を与える。しかしその前に禁断の果実を食べなければならぬ』


「そんな、私は今まで神の言いつけを破ること無く暮らしてきました。もちろん禁断の果実に触れたこともございません。それなのに今になってあの実を食べろと言うのですか?」


『この世の善と悪を知らずに戦うことはできぬのだ。我々神は絶対的な善であり、闇を総べる魔王は絶対的な悪なのだ。そのことを知らずして悪を倒すことはできない、そこのこと理解するのだ』



「―― 畏まりました…… 神の言葉に従います」


 いつの間にかルルの目の前には禁断の果実が置かれていた。彼女がそれを手に取り一口齧ると目の前が開けたように明るくなり、この世の真理が理解できるような気になった。我々神の軍勢こそが唯一の正義である、ルルの頭の中に神の意志が流れ込んでくると感じていた。


 善悪、真理、物事を理解する力を得たルルのすぐそばに天使が寄り添い、そしてルルの体内へと溶け込むように消えて行く。なぜそのようなことをしたのかは直後明らかとなった。


 するとルルの背中からは純白の羽が六枚生えてきた。頭上には光の輪が三つ浮かび上がっている。その身は(いかづち)(まと)い手足の指先からは絶えず天使の羽が舞い落ちている。


 その姿は神に匹敵する神々しさだったと言う。


 最後の力を振り絞り、三人の天使とルルから大天使を産み出した神はその代償として力を失い、もう二度と神の奇跡を起こすことはない。


『ルルよ、汝の名は今この時からルシファーとなる。

 光を(もたら)す者の名に恥じぬ働きを期待している』


「大いなる全能の父なる神よ、このルシファー、神の命により悪魔を根絶やしにして参ります。全ての闇を照らし世界に光を取り戻すために全力を尽くし、必ずや勝利をお届けするでしょう」


 こうして三人の天使と融合しルシファーとなったルルは、世界へ光を届けるために飛び立っていった。



 最初についた場所では人々が争っていた。どうやらわずかに残った陽の当たる土地を奪い合っているようである。ルシファーが経過を見守り始めてしばらくすると、片方の軍勢が劣勢となり犠牲者が増えて行った。


 大勢を殺戮する様は地獄絵図である。そう感じたルシファーは勝っている陣営に対し雷を落とした。これで概ね同数になり争いは鎮まるだろうと考えたのだ。


 しかし両陣営の争いは終わることはなく、今度は反対側の陣営が押しはじめた。一旦劣勢になると侵攻を食い止めるのが難しくなるらしく、押された側には大勢の犠牲者が出た。


 それを見たルシファーは先ほどと同じように優勢な陣営へ雷を落とす。しかしそれを何度繰り返しても諍いは鎮まることがなく、人々は殺し合いを続けた。


 果ての無い戦いを収めることに意味を感じなくなったルシファーは、炎を纏った天使の羽を降らせすべてを焼き尽くした。



 次の場所でも醜い光景が広がっていた。一部の人間が暴力を以って他人を支配していたのだ。ルシファーは統治者を気どっている者を焼き払い民衆を救った。


 だが解放された民衆の中からまた他人を(しいた)げる者が出て来たではないか。頭を悩ませながらも再度虐げる者へ雷を落としたが、いくら繰り返しても同じ光景が繰り返されるだけで何も変わらない。


 結局ルシファーは全てを焼き払って終わりにした。



 次の土地はほぼすべての範囲が闇に覆われていた。人々は神へ祈りをささげて救いを求めている。その祈りを聞き届けるべく、闇へ向かって光を放つがそう易々と塗り替えられるものではない。力を振り絞り民を助けるために力を振るうルシファー、そしてその姿を見て崇め、祈り、称賛する人々の姿があった。


 ルシファーは七日に渡り光を照らし、闇のほんの一部に光を戻し照らすことに成功した。人々はその僅かな光を求めて集まってくる。しばらく感じていなかった光の温かさに触れ泣き出すもの、歓喜にあふれ祈りを捧げる者もいる。


 しかし、これだけ祈りつづけたのに僅かな光しか得られないのかと文句を言うものもいた。やがてその声は大きくなり、不満を持つ民衆が増えて行った。感謝している者たちもいたのだが、それらは声の大きい者たちに虐げられ、光から追い出されてしまった。


 同じ祈りなら僅かな光よりもすべての闇へ捧げるべきだと言う者たちばかりになってしまったとき、ルシファーは耐え切れずすべてを焼き払った。



 結局何も救えず、世界中を闇へと変える悪魔の所業は止められないのかと、ルシファーは悩んでいた。


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