その9:探険しましょ、そうしましょ。 Re TAKE
さて、今現在俺は一人だ。
光とティアにはトイレに行くと嘘を吐いた。
リファは基本的には傍に居ないしな。
でだ。男が見知らぬ場所で一人、といえば勿論、探険だ!!
イエーイ! ドンドン、パフパフ〜
……こほん。今、この城について俺が知っている場所は、寝室(魔王部屋)、書庫、食堂、トイレ、大広間、風呂場、玉座の間、応接室、中からは開かない部屋、馬鹿でかい中庭……ぐらいかな?
魔王たるもの自分の城ぐらい全ての部屋を網羅していないとダメ魔王の称号がつくからな。(という名目の暇潰し)
さて、何処に何する部屋が在るのかを調べますか。
てなわけで任務開始だ!
前回はリファに邪魔されたからな。警戒しないとな。
おぉ〜、この城スゲー。
ビリヤードやダーツ等が出来る遊技場や、酒場(城の中に要るのか? 食堂でも酒飲めるし…)、警備兵のための仮眠室等々。
城の構造は大体把握できたかな? なんて思いながら歩いていると、妖しげな雰囲気を醸し出している部屋を見つけた。
「いや、まぁ何と言うか……ヤバい気しかしないんだけど」
だが、探険しているからには行かないといけない気がする。
ゴクリッ
息と唾を呑み込み、覚悟を決めて扉に手を掛けた。
「突入!」(カボヅカ君風に)
言いたかっただけですが何か?
……………うわぁ〜お(棒読み)
なぁに、コレ?
ドギツいピンクの壁紙が視界一杯に広がる。ピンクピンクな家具も徐々に視界に映ってくる。
ウゲー……なんてもんじゃないッスよ、先輩。(←誰?)
テンション等が加速度的に降下していく中、視界の隅で何かが蠢いた。
ソレは少しの間もぞもぞと動いた後、のそりと立ち上がった。
「「……………」」
目が合うこと数瞬。
ソレは口を開いた。
「あら、可愛いわね。どうしたの、ぼく?」
ものっそい髭を生やした厳ついおっさんが妙に高い声で俺に話し掛けた。しかもお姉言葉で。
背筋が凍る。
髭面の厳ついおっさんがドギツいピンクの部屋に居て、お姉言葉を使う=ソッチ系(解ってると思うがヤのつく方面ではないぞ)ですよね?
(↓のひらがなの部分は下に漢字に直した文が有るので飛ばしてくれてもいいぞ。短いけどな)
いや、まて。もしかしたら、まんがいち、たぶん、ひょっとしたら、そうだったらうれしいけど、たまたまこのへやにいて、しゅっしんちがそういうことばづかいってかのうせいもなきにしもあらずなのかもしれない。いや、そうであってくれ。てんもんがくてきなかくりつでもいいからしんじさせてくれっ!!
(いや、待て。もしかしたら、万が一、多分、ひょっとしたら、そうだったら嬉しいけど、偶々この部屋に居て、出身地がそういう言葉遣いって可能性も無きにしもあらずなのかもしれない。いや、そうであってくれ。天文学的な確率でもいいから信じさせてくれっ!!)
混乱して全てがひらがなになったのは許してくれ。混乱、恐怖、動揺の三つが重なった結果、全てがひらがなになるという現象が発現したんだ。
「美味しそうね……ジュルリ。食べてもいい? ジュル……てか食べさせてジュル食べさせろジュルリ……あぁ、もう我慢できない……ハァハァ。ジュル……イタダキマースッ!! ジュルジュル」
おっさんがいきなり飛び掛かって来た!
俺は急いでその場から離れる。
「あら……逃げないでよジュル」
ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい。あのおっさん、目がマジだ。獲物を見つけた肉食動物の目になってやがる。
グルァアアァァアーーーッ!!! と叫びながら突っ込んでくる変態。ゴツい体の癖にやたら速いから避けるのに苦労する。
くそ、こうなったらアレ使うしかないじゃないか。
変態を避けると同時に側頭部に渾身の蹴りを放ち、その場を離脱する。
距離をとる間に指先に魔力を集め、魔法の発動の準備に入る。
因みに、この世界では三つの発動の仕方がある。
一つ目は口上詠法。
これはようするに詠唱だ。決められた文章を読み上げて発動する方法だ。
二つ目は手式詠法。
指先に魔力を集めて、決められた紋章や陣を描いて発動する方法。
三つ目は詠唱破棄。
詠唱すること無く、いきなり発動する方法。
ノーモーションで発動できるが色々とペナルティがある。
例えば口上詠法と手式詠法のどちらかで10の魔力で発動して10の効果を得られる魔法があるとしよう。だが詠唱破棄は10の魔力では6前後の効果しか得られない。(6前後というのは平均値で、個人の魔法の素質によっては半分以下もありうる。が、どんなに素質が良くても10の効果は得られない)
10の威力を得たいなら10より多くの魔力を消費するしかない。
他には詠唱破棄だと使えない魔法がある。これは発動はしないが、魔力は消費してしまうので注意。
ついでに口上詠法と詠唱破棄は発動する時、手式詠法は発動するまで魔力を消費する(消費量はどちらも同じ)。
さて、説明が長くなったが今から詠唱破棄では使えない上、発動すること自体難しいと云われている魔法を使おうではないか。
この魔法は二段詠法という珍しい発動条件がある。一段目が手式詠法、二段目が口上詠法なのだ。
まぁ、説明している間に一段目の手式詠法は完了したから二段目の口上詠法を終えれば発動できるけどな。
変態を避けながら詠唱を始める。
「『此の岸には終わりがあり、彼の岸には始まりがある』」
「『彼の岸には終わりがあり、此の岸には始まりがある』」
「『二つの岸は繋がっていて、此の終わりは彼の始まり。彼の終わりは此の始まり』」
「『其の境界には門があり、此の始まりは生、彼の始まりは死』」
「『我開くは彼の始まり。其れ即ち此の終わり』」
「『其の門の名は地獄の門。生の終わりに辿り着く終点』」
「『我、彼の者を彼の岸へ送らん』」
「『開け地獄の門。“ヘルズゲート”!!』」
詠唱を終え、体から魔力が抜けるのを感じる。
変態はまだまだ元気らしく、飛び掛かって来る。が、それも突如現れた巨大な門に阻まれた。
現れた門は装飾が何も無い無骨な門だった。だが、その漆黒は何よりも美しく、装飾が無駄だと自ら主張している様だった。
堅く閉じられていた門がゆっくりと鈍く重い音を起てて開いていく。
「な、何よ…コレ?」
流石のおっさんも驚きを隠せないようだった。
門は半分程開くとそれ以上開かなくなった。
「はっ。こんなこけおどしがワタシに通用すると思ってるの?だったら筋違いね」
なんて言ってるが、足が尋常じゃないぐらい震えているのはバレバレですよ。
「こけおどしじゃないぞ。つーか逝ってらっしゃい」
俺が言い終えると門の内側から赤黒く、巨大な腕がぬうっと伸びてきておっさんを掴む。(俺の発言によって出てきたんじゃない。タイミングが良かっただけだ。)
「な、何よっ!? 放しなさい! 放せって言ってるだろうが!!」
体のゴツいおっさんの抵抗にもビクともしない巨腕。そのまま門の中に戻っていった。
腕が見えなくなると門はまたゆっくりと閉じていった。
「あー怖かった」
“ヘルズゲート”は“インフィニティダークネス”と違い、二度と戻って来れない魔法なんだ。だから簡単に使えないように詠唱破棄では使えく、二段詠法という面倒臭い方法で、消費魔力も半端でないように設定されている。
流石に魔力の消費が大きいから少し脱力感を覚える。そしてあのおっさんの所為でソッチ系の人への嫌悪感とトラウマを植え付けられた。
げんなりしたまま部屋を出て、魔王部屋に足取り重く帰る。
今は光でもいいから傍にいて欲しかった。
あぁ、早くティアの笑顔が見たいなぁ。
本日の収穫…ドギツいピンク部屋の発見と取り壊しの確定。ソッチの人達への嫌悪感とトラウマ。癒し(美少女の笑顔)を求める心。