その6:勇者?なにそれ?おいしいの?
「魔王は何処だー!!」
五月蝿いな。どれだけ大きな声を出すんだよ?下の階からなのに普通に聞こえてくる。ウゼー。
「なぁティア。下の階のセミを連れてきてくれないか?」
「分かりました。では、玉座までご案内してきます」
「頼んだ」
ティアは一度俺にお辞儀をしてから部屋をあとにした。
さて、俺は玉座に行きますか。
「お兄ちゃん待って〜」
光の存在を綺麗に忘れてたな。
「光は此処にいろ。今変な奴が城に来てるから」
「やだ!お兄ちゃんの傍にいるの!」
やれやれ、困ったお嬢ちゃんだ……
「俺は光を心配してるんだ。変な奴が光を襲うかもしれないからな。ソイツが強かったら俺は光を助けられないかもしれない。だから分かってくれ。俺は光が心配なんだ」
嘘だけどな。光は邪魔なんだよね。ずっと引っ付かれてると動きにくいし。
「わかったよ、お兄ちゃん。ココで待ってるね。………お兄ちゃん以外の野郎に触れられたくないし」
最後の方は聞こえなかったけどまぁいいか。
「ちゃんといい子で待っとけよ」
返事を待たずに玉座へ向かった。
う〜ん、玉座ってあんまり座り心地良くないな。
なんてことを思っていたら眼前の巨大な扉が開いた。
「魔王様ぁ〜」
ティアは全速力で俺の元まで駆けてきた。
そのまま俺の胸に顔を埋めて泣いているティアの頭を優しく撫でる。
「おいてめぇ。俺の女に何した?」
目の前の野郎に訊ねる。
「何をしたかって? それはな…って待てよ!おい!!」
話し出しからウザかったので、先制攻撃を仕掛けた。
「黙れ。ティアに手を出した瞬間からお前の命はもうないんだよ」
「なにそれ!? 理不尽すぎだろ!?」
あぁ、五月蝿い。耳障りな声、無駄に大きいボリューム、微妙に高いトーン。全てが鬱陶しい。
「『暗く、深く、古く、冷たく、恐ろしい。』」
消し去ってあげようではないか、自称勇者君。
「『冥く、儚く、卑しく、淡い。』」
書庫を漁ってる間に魔法を覚えてしまってね、でも使う機会に恵まれなくてね。君が来てくれたお陰でやっと使えるよ。
「『深淵より来るは常世の闇。それは混沌への招待状。』」
やはり魔王なら魔王らしく闇属性の魔法でしょ。
「『全てを呑み込み、混沌の深淵へと誘う無限の闇』」
目の前の勇者サマを一瞥して小さく笑う。勇者は身動ぎ一つせずに俺を見ていた。
「『“インフィニティダークネス”』!!」
詠唱を終え、その魔法の名を口にする。
「な、何だコレ!? 来るな!来るなっ!!」
勇者の足元に黒い陰が拡がっていき、そこから無数の触手の様なものが勇者に襲い掛かる。勇者の体はあっという間に自由を奪われた。
「やめろ! やめてくれ!!」
泣きそうな顔で懇願する勇者。
「もう遅い」
体の自由の完全に奪うと、陰が勇者を包み込むように呑み込んだ。
「ふむ。中々いいな、この魔法。気に入った」
勇者が居た場所を見ながら呟いた。
「もう大丈夫だぞ、ティア。野郎は消したから」
「本当ですか? 魔王様ぁ」
えぐえぐと泣きながら訊ねてくる。
くっ! なんて破壊力の上目遣いなんだ!! そんな瞳で見られたら俺は、俺はっ!!
……………。
「勇者が来たのは一週間も前か……」
あの時は魔法を試せたから楽しかったけど、ティアにいらんことするし、五月蝿かったしでプラマイで言ったらマイナスだったしな。
ついでに勇者は城のゴミ捨て場で見つかったらしい。それを聞いて本を読み直したら数時間〜数日の間、闇に閉じ込める魔法だった。なんてこったい。
勇者は確りと簀巻きにして人里近くに棄てました。