その33:禁断の聖域への片道切符
「よく来たな」
俺の前に現れたのは見たことのない男だった。
身長は180位だろうか? まぁ、取り敢えず俺より高い。服装は……此処に来る前に一戦やったのだろう、所々破けており、皮膚が見えている。比較的綺麗な皮膚を見る限り、破けている箇所に怪我をしたが、此処に来るまでに治ったのだろう。……服の至るところが血を吸って変色してるし、正直さっさと何処かへ行って欲しい。
「で、俺に何の用だ? そんな格好で来る程だ、急ぎの用でもあるんだろ?」
早く用件を言ってさっさと此処から立ち去れ。と言外に伝える。
「……俺に手を貸せ」
…………はぁ。
「……理由を聞こうか」
頬杖をついて促す。
「俺はアルセウスをブッ殺したいんだよ!」
「なら一人で殺れよ」
「だが一人だと出来なかった。だから貴様の力を借りに来てやったのだ。感謝しろ」
…………面倒臭ぇ。
「……お前の間違いそのいち」
玉座から立ち上がる。
「人に物事を頼む時は下手に出ろ」
一歩踏み出す。
「間違いそのに」
着実に男との間合いを詰めていく。
「相手どころか自分の力量すら測れない奴が調子に乗るな」
右手を動かし魔法を何時でも発動出来る様にしておく。
「間違いそのさん」
男の前で立ち止まる。
「残念ながら俺はアルセウスの友人だ。向こうがどう思ってるのかは知らないが、少なくとも俺がそう思ってるから友人だ」
男の真正面に右手を翳す。
「雑魚が高望みし過ぎなんだよ。俺にすら勝てない奴がアルセウスに勝てる訳無いだろ。馬鹿な夢見て地獄へ堕ちろ」
魔力が体から抜けていく。
「『“フォビドゥンサンクチュアリ”』」
男の姿が一瞬にして消えた。
「ふぅ……」
やっぱりアレだな。闇属性の魔法は癖があるな。威力や効果は高いけど、その分消費魔力は多いし、何かと制約があるし……。もうちょっと闇と光以外の属性を練習するか。それに新しい合成魔法を編み出す為の切っ掛けになるかもしれないし。
「さて、光とティアの対局はどうなったかな?」
部屋へと歩を進めた。
“フォビドゥンサンクチュアリ”は対象者をとある場所へと送りつける魔法。
その場所は“フォビドゥンサンクチュアリ”以外は如何なる方法をもってしても辿り着くことの無い世界から隔絶された場所。そしてどんな手段を用いても二度と外へと出れない場所。
更にその場所ではあらゆる魔法を使う事が出来ない。多分そういう効果を持つ結界か何かが張られているのだろう。推測なのはその場所から帰って来れた者は誰一人として居らず、確かめることなんて出来ないからだ。
簡単に言えば相手を二度と外へ出ることの叶わない牢獄へブチ込む魔法。
“フォビドゥンサンクチュアリ”で何処に飛ばされるんだろ? 後、どんな所なんだろうな?
興味が湧くけど戻って来られないなら行けないし……。
……無駄な思考は止めて今から何をするか考えるか。
取り敢えずはもう一度光と始めから対局しようかな。