その32:〇〇角、同飛、同桂
「えい、角取った!」
「その飛車、(桂馬で)貰い受ける!!」
「えぇっ!? ま、待って! 待ってよお兄ちゃん!!」
「戦争に待ったなんて無い!」
「…………お兄ちゃんのイジワル」
「フッ、何とでも言うがいい。戦争に待ったもクソもないだろう」
「お兄ちゃんの卑怯者!」
「何が卑怯だ? 戦争とは常に無情なものだ。相手に勝つ為に幾重にも罠を張り、謀略で惑わせ、策略で陥れ、力で捩じ伏せる。そして、それらを実行するには卑怯で残忍で狡猾で非道でなくてはならない」
「…………バーカ」
光、俺の話を聞いてないな。人の話はしっかり聞けと言ってるのに。
俺達は今将棋で遊んでいる。
テレビ、マンガ、ゲーム、ネット等が無いこの世界は余りにも暇過ぎる。そこで俺は将棋盤と駒を作ることにした。何故将棋なのか? と聞かれたら偶々頭に浮かんだのが将棋だっただけだ。という訳で木を切り倒し、記憶を頼りに駒と盤を作ってみた。因みに盤は折り畳み式。
昨日の夜にお粗末ながらも完成したので実際に遊んでみることにした。
「あ」
あらら~、これはやっちゃたんじゃね?
「どうしたの?」
光が何事かと訊ねてくる。どうやって飛車を取り戻そうかと必死に考えている光は前傾姿勢になっている。その為、俺を見上げる形になり、視線も上目遣いになる。
光は兄としての贔屓目抜きにしても可愛いと思うし、何処から手に入れたのかは判らないが明らかに身体よりも大きいYシャツを着ていて、尚且つ一番上のボタンを留めていないからその隙間から可愛らしい下着が見え隠れしてるのがドキドキするな。
もし光と血が繋がってなかったら多分恋人同士になってると思うし、あんな事やこんな事、そんな事までしているのかもしれない。
もし光のブラコンがお兄ちゃんにちょっと甘える程度の軽いブラコンだったら俺ももう少しシスコンになってたと思う。
まぁ、何が言いたいかと言うと、どれ程俺に対して変態的でも美少女である光に兄妹とはいえ好きと言われるのは嬉しいし、やっぱり可愛い妹であることには変わらないので、『お兄さん、光さんを僕に下さい!』って言われたら取り敢えず問答無用で一発殴り、『光が欲しければ俺を越えてみろ!』って言ってしまいそうだということだ。
いやもう自分でも何を言ってるのか分からなくなってるよ。
「……いや、ちょっと腹が痛くなってきただけだ」
「大丈夫? お兄ちゃん」
「ちょっとトイレ行ってくるわ。ティア、俺の代わりに光の相手してやってくれ」
「え? 私がですか?」
この部屋には俺と光とティアしか居ないのに何故そこまで驚く?
「やり方は見てたろ? 駒の動かし方も大体解ったと思ったんだけど」
「確かにある程度は理解しましたが、私がすると負けてしまうかもしれませんよ?」
「あぁ、そのことは別にいいよ。遊びなんだから勝ち負けは気にすんな。じゃあ、任せたから」
返事を待たずに部屋を出た。
「さて、行きますか……」
俺はそう呟いた後、トイレとは反対側に歩き出した。