その29:いらっしゃいませ、魔王様
「む」
リファと一緒に鍛錬している――拉致られて無理矢理リファの鍛錬に付き合わされている――と偶々近くを通ったアルセンが何かを感じたようだった。
「どうした? アルセン。何かあったのか?」
「どうやらお前に客のようだぞ。セイヤ」
それだけを言うと踵を返して歩を進めていくアルセン。俺に「お前もさっさと戻れ」と視線で言ってきやがった。
俺に客とな? はて? この世界で知り合いなんてこの城にしか居ない筈なんだけど?
誰が訪ねて着たのか分からないまま俺は玉座まで足早に移動した。
「初めまして、アルセウス=セイグリットです。以後お見知りおきを」
「初めまして、月闇静夜です。こちらこそヨロシク」
玉座で待っているとティアに案内されて俺と同じ位の少年と少女が現れた。
少年は確りと俺を見据えて礼儀正しく挨拶をしてきた。
いやぁ~、アルセウスにつられて初めて礼儀正しく挨拶してしまったな。
……取り敢えずそんな事は置いといて。
「で、この城に何の用だ?」
少し高圧的に問いただす。アルセンからコイツはヤバイ奴って聞いてるから内心ビックビクだけどな。
「特に用は無いですよ。いえ、貴方に会うのが用でしょうか。ナマナルナに来ていたのは代理の者だと聞いたので」
「別に会わなくても問題無いだろ? 何で来たんだ?」
ティアに話を聞いたが、魔王が他の地区に行く事は滅多に無いらしい。あるとすれば殺し合いが主だって話だ。「お前が嫌いだから殺す」みたいな感じ。
「唯の好奇心ですよ。隣の魔王はどんな魔王なのかを知りたいだけです。それに隣でなければ会いに行く事なんてしませんよ」
嘘は言ってないか……
「そうか。正直に話すとアルセンから聞いてから俺もお前に興味があったからいいけどな。……それよりお前の僕の態度が余りよろしく無いように見えるが」
そうなのだ。この部屋に入ってきた時からアルセウスの隣に立っている銀髪の犬耳娘が俺をずっと睨んでいるのだ。いや、睨んでいると言うより何時でも俺を攻撃出来るようにしているのだ。
「エリス、止めなさい。貴女では勝てません。それに闘う必要はありません」
「ですが!」
「エリス」
名前を呼ぶだけだが、身内であるのにも関わらず容赦無く威圧する。
エリスとやらは身体を一度大きく震わせ、アルセウスを見た。
「……すみません」
「分かってくれたのならいいですよ」
アルセウスはエリスの頭を撫で、その後に俺に視線を戻した。
「申し訳ありません。ですがエリスは僕ではなく、私の友達です」
「それは悪かった。以後気を付けよう」
ヤバイよアイツ。目がマジなんだけど。簡単に訳して「次言ったらブッ殺す」って目で言ってるよ。
……それにしても見れば見る程強そうだな。別に俺は戦闘狂ではないが闘ってみたいな。俺自身の強さ、コイツとの差、世界の広さ、それらを知る為に。
「それで、用件は終わりか? 終わりなら――――」
徐に玉座から立ち上がり、間を詰めていく。
「――――一戦やろうぜ」
魔力を右の拳に集めて殴りかかった。