その26:どんな習性なんですか!?
「ねぇクーロちゃん。本当にこんなところに居るのですか?」
「……ボクの考えが光ちゃんと一緒なら居ると思う」
今、私達は屋上に居ます。未だにクーロちゃんは詳しいことを教えてくれません。
「……あれ? 何処にも居ない?」
余り広くない屋上を歩き回ること数分。特に何も見つからず、クーロちゃんは自分の考えが光ちゃんと違うのでは?と思い始めました。
………………ん? アレは……?
視界の隅に小さな違和感を感じ、その場所を凝視する。
「ねぇ、クーロちゃん」
「……何?」
あれ? 何か雰囲気が悪い様な?
ひょっとして自分の考えに自信があっただけにハズレたから怒っているのでしょうか? そういう時って機嫌が悪くなりますよね。分かります。それなら尚更この事を教えないと。
「あのね、クーロちゃん。あそこなんだけど……」
さっきまで凝視していた所を指差す。
「…………? ……! あれって!?」
気付きましたね。クーロちゃん。
「それでは行きましょうか」
クーロちゃんを促し、あの場所へと歩を進めた。
「あの魔王様、何を見ているんですか?」
今居る場所は屋根の上。屋上から登り、魔王様の元までやって来ました。
「空を見てるんだ」
魔王様が空へと腕を伸ばし、天を突くかの様に指を差した。
「……空」
クーロちゃんの復唱と共に顔を空に向けた。
「綺麗……」
見上げた空は何処までも黒く、その果てのない黒の中に沢山の白く輝く星が散りばめられていた。
「魔王様、星が綺麗ですね」
満天の星空に感動した私は魔王様に同意を求めた。魔王様が頷いてくれると信じて。でも、魔王様の言葉は私の予想したモノとは違った。
「何を言ってるんだ? 俺は星ではなく、空を見ていると言っただろ?」
…………えぇ~っと、どういうことですか?
「……星空ではなく夜空全てを見ているってこと?」
クーロちゃんが小首を傾げながら訊ねる。
「あぁ、そうだ。月も星も全て含めて見ているんだ。あそこの星が無い場所だって見てるよ」
そう言って指差した方向に目を向けると確かに星が無く、周りよりも暗かった。
「…………俺は昔から夜空が好きなんだ。月が淡く照らし、星達が光り輝く夜空も、新月で月が無い夜空も、曇っていて辺り一面真っ暗な夜空も好きなんだよ。まぁ、晴れてくれてる方が嬉しいけどな」
空を見上げたまま言葉を続ける魔王様。
「空自体好きだが、やっぱり夜空が一番好きなんだ。多くの生き物が眠り、静かになった夜。俺の名前でもある静かな夜、その空は月の淡い光が包み込む、儚くて優しい、それでいて残酷な静寂の空」
空へと指差した手を開き、まるで星達を掴むかの様に握る。
「たまにそんな空を見たくなるんだ」
握り拳を胸の前までもってくる。
「一人静かに夜空も見上げる。これは俺の習性だ。だから確りと覚えて、次からは慌てる事の無いようにな」
ニカッと笑い、私達に言う魔王様。
私達が探し回っていた事を知られていたことに恥ずかしさを感じました。