その22:魔王様はスマキがお好き?
「魔王様! 魔王様!!」
「何だ? 騒々しい……」
「大変です! 謁見の間が!」
「五月蝿い。謁見の間に行けば良いのだろう? だから喚くな」
やれやれ……朝ぐらいは落ち着いて行動してくれ。まだ寝起きなんだよ。
「成る程……」
謁見の間に向かいながら黒水晶を通して様子を見た。
「ククク」
自然に笑みが零れた。
今日は退屈せずに済みそうだな。この時はそう思っていた。
「何をしている? ゼオン=アルベリヒ」
謁見の間に入るなり、声を上げる。
「何……とな? お前が見ている通りだよ、アルセナイト=メレディアス」
玉座に座り、挑発するように笑うゼオン。
「ククッ、そうか。つまり刃向かうって事だな」
「いやいや、刃向かうんじゃない。貴様を倒すんだよ」
やはり笑みが零れる。
「『“フリーズランス”』!!」
「『“ダークブレイズ”』」
飛んできた蒼い槍を黒炎が阻む。
「『“デビルズスピア”』」
お返しと言わんばかりに黒の槍を放つ。
「ちっ」
ゼオンは舌を打ち、横に跳ぶ。
「『我願う。彼の者が消え去ることを。我望む。彼の者の消滅を』」
「『“フレイムチャリオット”』!!」
燃え盛る火炎で出来た戦車が突撃してくる。が、先程の黒炎がまたしても呑み込んだ。
詠唱を阻止する為に中々の魔法を放ってくるな。だが、その程度では止められないぞ、ゼオンよ。
「『故に我命ず。彼の者を跡形もなく全てを滅する事を』」
ゼオンを見る。
すると何故か笑っているではないか。それも此方を馬鹿にした笑い。
それと同時に周りに数多くの魔力を感じた。そして体が動かなくなっていく。
成る程、そうか。最初からこれが狙いだったか。
我を封印することが。
折角詠唱したのに……。あと少しだけ待ってくれても良かったのにな。
そうしたらゼオンは殺せたのに。
………………畜生が。
〜〜〜〜〜〜
「ククッ」
あの時の事を思い出すとはな……
「何笑ってんだ」
その声と同時に後頭部に衝撃が来て、その所為で床との熱いKISSをする羽目になった。
………………畜生が。
「ククッ」
目の前の簀巻きは意識を取り戻すと同時に笑い出した。
「何笑ってんだ」
なんとなくイラッと来たので踵を落とす。
鈍い音がしたが気にしない。
「ほら、目ぇ覚めただろ。俺の質問に答えろよ」
簀巻きを見下し、踵を頭に乗せたまま話を進める。
「お前は何だ?」
「…………」
動かないし、喋らない。
しょうがないな。足を退けてやるか。
踵を頭から離し、足を組んだ。
「ほら、これで喋れるだろ? さっさと言え」
簀巻きは顔を上げて俺を一瞥した後、口を開いた。
「…………魔王だ。ほら、答えたんだからさっさと簀巻きを外せ」
簀巻きは存在意義の喪失を望んだ。
「名前は?」
ここは普通はシカトする流れだからな。俺の意思ではない、世界の理なんだ。
「………………アルセナイト=メレディアス。ほら、答えただろう。だから簀巻きを外せ」
「魔王って言ったが何時の魔王だ?」
「昔だな。遥かなる遠い過去」
前は魔法関連の本しか読まなかったからな。歴史関連の本も読むべき……か?
「早く簀巻きを外せ。質問には全て答えただろう」
「なら俺に従うと誓え。そうしたら外してやる」
「誓ってやるよ同族。だから外せ」
「同族なんて呼ぶな。俺は月闇静夜だ。同族と変な渾名以外なら好きに呼べ」
同族じゃねーから。大昔の魔王と異世界から最近やってきた俺は別の者だから。魔王って点以外は同じとこ全く無いから。
そんな事を思いつつ、簀巻きから解放してやる。
「取り敢えずこれからヨロシクな、アルセン」
「普通はアルじゃないのか? 魔王になる前はアルと呼ばれていたが。」
「俺は俺の好きなようにやる。だからアルセンと呼ぶ。ついでに言えばアルよりアルセンの方が何となく語感が好きだ。」
「適当だな、オイ……」
こうして新たな仲間が増えた。
「なあ、簀巻きはお前の趣味なのか?」
「さあ? どうだろうな?」