その21:奥義
ヤツが本気を出してから数分、中々に厳しい状況に追い込まれていた。
中距離では魔法の撃ち合い。
これは詠唱破棄出来るヤツの方が有利だったので出来る限り近距離での斬撃を繰り出す事に変えた。だが、ヤツは斬撃を掻い潜り、俺の懐まで来やがった。
それからは至近距離での殴り合い。拳撃、蹴撃の応酬。刀を持っている分、俺が不利だった。
「ちっ」
流石にこのままではヤバいと判断した俺は無理矢理横に薙ぎ払い、距離を取ろうとした。
ヤツはしゃがんで回避し、俺の思惑通りにはならなかった。が、ヤツは片足を伸ばしたままだった。
一瞬、何故? と思ってしまった。次に何がくるのか解っていた筈なのに。
「ふっ」
その一瞬を突いて片足を軸にしてその場で一回転。伸ばしていた足が俺に襲い掛かった。地を這う様な回し蹴りにより、何とか避けたもののバランスを崩された。
その間にヤツは俺との距離を取った。体勢を立て直しヤツを見る。ヤツは俺に手を翳していた。
「『“デビルズスピアー”』!」
詠唱破棄とかヤメテ! 俺まだ魔法は使い慣れてないから!
俺の真上の空間が裂け、その中から黒い槍を持った悪魔であろう者が俺に視線を合わせていた。悪魔は精一杯槍を振りかざし、俺目掛けて投擲した。
その黒い槍は闇を、力を、凝縮した物だ。つまり、槍の形をした闇で、力の集合体である。って何かで読んだ気がする!
「くそっ!」
詠唱破棄出来ない俺の魔法は間に合わない。正確には詠唱破棄出来る魔法もあるが、それはあの魔法に一瞬で消されるだけで、防ぐどころか、威力を削ぐことすら出来ないほどの弱い魔法だ。
「我刀絶技・百花繚乱!!」
無数の斬撃で威力を削いでいき、強引に消す。
だが、百花繚乱を出した直後――放ったと同時――に別の攻撃が俺を襲う。
「ぐっ!」
ヤツの蹴りが脇腹にめり込んだ。その後に飛ばされた。
ヤツは無慈悲な目をして掌を俺に向けた。
「これで終わりだ。『“フレアタワー”』」
足下から火柱が立ち上る。
「ぐあぁあぁぁーーーーーっ!!!」
焼ける! 身体が焼ける!
「だから言ったろう、後悔するなよって」
ヤツは呆れ顔で俺を見下す。
「ククッ」
「何が可笑しい? それとも脳髄まで焼けて壊れたか?」
熱い、それは認めよう。
痛い、それも認めよう。
だがな、俺はこれよりも熱く、これよりも痛い思いをしたことは幾らでもあるんだよ!
「…………我刀……絶技……!!」
「なっ!? 馬鹿なっ!!」
アイツとの距離があるにも関わらず、刀を最速で何度も斬りつける。否、最早振り回すだな。
「何をしている? そんなことをしても我には届かないぞ」
絶技と聞いて一瞬慌てたが、俺がただ刀を振り回しているだけなのを見て、落ち着きを取り戻したようだ。
ククッ、そのまま吹っ飛べ。
「疾風怒濤ォ!!」
叫び声と同時に複数の真空の刃が衝撃波を放ちながら飛んでいく。
衝撃波のお陰で俺の周りにあった炎の柱は消えていった。
「舐めるなっ! 『“ブラックウォール”』!」
真空の刃が全て黒い壁に吸い込まれていった。
反射か堅さで防ぐ壁だと思ったから驚いた。
だが有難い。黒い壁でヤツの視界は俺を捉えられなくなっている。気取られないようにひっそりと切っ先を床に触れさせる。まぁ、バレてるだろうがな。ヤツも準備してるだろうしな。
あの壁が消えた瞬間が勝負だな。
「我刀奥義……」
呼吸を整え、集中する。服どころか身体中がボロボロでどこもかしこも痛かったが、段々気にならなくなっていく。
どれくらい経ったのだろうか? 数瞬? 数秒? 数分? 俺には分からない。まるで時が止まったかのように感じられる。だが、瞬きすること無く、集中し続ける。
黒い壁の上の部分が薄くなり、消えている。それを皮切りに上から下へと徐々に薄くなり、消えていく。
今だ!
刃を擦らせながらその場で一回転する。
そしてそのまま切り上げた。
「万火繚乱!!」
「『“アニヒレイトダークネス”』!!」
炎を纏った無数の斬撃が飛んでいく。漆黒のレーザーが飛んでくる。赤と黒が二人の間でぶつかり合い、互いに潰し合っている。
「……我刀の奥義は破られない。例え何があろうとも、どんなに不利な状態でも破られてはいけない。それが奥義である」
昔、じぃちゃんに万火繚乱を教えて貰った時に言い聞かされた言葉。
奥義であるからこそ、常勝だ。
奥義であるからこそ、不敗だ。
奥義であるからこそ、最強だ。
そう教え込まれた。
例え足が無くなっても、例え立ち上がる気力すら無くても、例え死の一歩手前でも、放つなら、使うのなら、絶対に勝たなければならない、絶対に負けてはいけない。そう教えてくれた。
だから俺は負けるわけにはいかない。
だから俺は……勝つ!!
「く……そ……がぁっ!!」
斬撃はアイツの魔法を押し込んでいった。
「無数の炎を纏った斬撃は万もの華を咲き乱れさせる」
「ぐぁあぁぁあぁーーーーっっ!!」
炎の華が咲き乱れた。