「遠い過去、遠い未来2021」
タイムマシンがワームホールを抜けると、見たこともない景色が広がっていた。
荒れ果てた大地の中に、巨大な西洋風の城がそびえ立っている。その周囲を取り囲むようにしてみすぼらしい集落のようなものがあり、ボロボロの衣服を着た人達が歩いているのが見えた。
「着いたわよ。ここがネオシラナギシティ」
「世界観どうした」
「神宮城の中に住んでいるのは全員神宮羅生よ。それ以外の人達はみんな集落で極貧生活を送っているわ」
「だから世界観はどうなってんだよ! お前さっきまであんなにSFしてたじゃねえか!」
ここ過去だろもう。
「世界は一度核によって滅びたのよ! 文明は一部を除いてほとんどリセットされたわ!」
「お前核で滅ぼしときゃ何でもいけると思ってねえか!? 騙されねえぞ!」
「信じられないかも知れないけれど、ここが神宮三年! あなたが作り出した西暦2021年の世界なのよ!」
「全部俺と核のせいかァ!?!?!?!?!?」
な、納得いかねえ……。
「うッ……!」
そんな中、不意に羅門が頭を抑えて呻き始める。
「どうした羅門! まさか記憶が!?」
出発前の様子も何か変だったし、こいつ自身が何か未来と関係があるのかも知れない。
ついに全ての記憶が戻るのか……!?
「気圧の関係で……頭痛が!」
「気にならなくなるまでヘルメット越しにどついてやろうかこいつ」
「これも全部兄さんと核のせい!」
いやそれは気圧のせいね。
詳しいこと知らねえけど。
タイムマシンは、神宮城とかいうふざけた城から少し離れた位置に着陸した。
辺りは荒れ果てており、遠くに見える集落以外はほとんど荒野だ。
よく見れば壊れた建物が各地に放置されており、ここが未来であることを示唆させる。
し、信じたくねえ……。
「……あなた本当に神宮羅生なの?」
「ここまできてそんなこと言う?」
「あたしの知る神宮羅生はもっとこう……厳かな感じよ。あなたはまるで普通の男子高校生だわ。ちょっと不良っぽいけど……ふぅ」
「だから最初からそう言ってる……いや待てここで脱ごうとするな何考えてんだ」
「何よ照れちゃって。娘の身体じゃない」
「待てほんとにやめろ」
「良いぞそのまま脱げ!」
うるせえぞ羅門。
止める俺の声も虚しく、羅々はジッパーを下げてスーツを胸元まで開く。
「その辺、パパにもう一度確認してみる必要がありそうね」
ジッパーを胸元で止めてくれたことに俺が安堵していると、羅々はいたずらっぽく笑みを浮かべる。
「全部脱ぐと思った?」
「わりと思ったけど横からお前に言われると殴りたくなるぞ羅門」
もう殴ったけど。
「とりあえずあなたを殺すのは保留にするわ。そしてもう一度パパと話してみる。どうしてこんな世界になってしまったのか……」
「……悪いが俺達もその話に混ぜてもらうぞ。同じ質問がしたいんでな……。あと羅々が生まれた経緯がマジで知りたい」
正直そこをはっきりさせるまでは帰れねえぞ俺は。
「羅々が生まれた経緯と言えば……羅々って今何歳なの? 羅々が生まれるのは確か2014年だよね。ここが2021年なら七歳ってことになるけど、七歳?」
「七歳よ」
言い切ったな。
「神宮の血を持つ者は時間が狂うのよ。五歳の頃はちゃんと子供だったわよ。それよりはやく行くわよ神宮城へ」
それよりじゃねえよとんでもねえことをしれっと言うな。
羅々を先頭に、俺達は神宮城へと向かっていく。集落の人達は俺達の顔を見ると怯えて逃げて行った。
未来で何をしてるんだ俺は。
集落を抜けると、羅々は堂々と正門へ向かっていく。
「城の中は羅生だらけだから、あなた達が紛れ込んでもバレやしないわ。普通に正門から入るわよ」
「羅々様、皇帝陛下の命により一時的に拘束させていただきます」
一瞬で捕まった。
「ど、どうして……!? あたしは羅々よ……?」
「無断での外出及びタイムマシンの使用が原因かと。ではこちらへ」
「…………後は任せたわ」
言葉とは裏腹に、抵抗する羅々だったが最終的に引きずられるようにして門番達に連れて行かれる。
「え、何だ。どうすれば良いんだ俺達は」
「助けた方が良かったかな」
「その方が良かったかも知れん」
流れにスピード感があり過ぎて介入する余地がなかった。
しかし、門前で途方に暮れる俺達の前に、門の向こうから三人の俺が歩み寄ってくる。
「どうしたお前達。見ない羅生だな……それにそっちは羅門か、珍しい。新たな可能性か?」
「はぁ……?」
「羅門は発生しても消えちゃうことが多いからな。存在できてる内にゆっくりしとけよ」
「そうなの!?」
ああすげえな。今日だけで今まで見たことねえ羅門がアホほど見れるな。
「発生って何!? 僕消えちゃうの!?」
「消える消える。もう三十人くらい消えた」
そんなに消えたんだ……。
ていうか俺、量産型俺のせいで複数の俺との対面普通に飲み込んじゃったな。
俺の内一人は三十代くらいに見える俺で、もう一人はまだ小学生くらいに見える俺だ。そして最後の一人は初老のおばさんみたいな俺だ。
「……初老のおばさんみたいな俺だ……」
「そういう可能性もあるんだよ。女になった後元に戻れないまま老ける可能性が」
「いや怖い怖い怖いゾッとするからやめてくれ」
馴れ馴れしく肩に手を置く俺おばさんを振り払い、俺は数歩退く。
「ていうか新たな可能性ってなんだよ!」
「そのままの意味だよ。ここにはありとあらゆる可能性の神宮羅生が存在する」
「ありとあらゆる可能性の……俺……? いやごめん意味わかんねえんだけど」
「オリジナルの神宮羅生が辿る未来はいくつもある。例えばその、神宮羅門のようにな」
「……え?」
俺と羅門は二人で顔を見合わせる。
「皇帝陛下に直接話を聞いた方が早い。行くぞ、皇帝に会わせてやる」
三人の俺に連れられて、俺と羅門は城の中へと入っていった。
神宮城の門を抜けると巨大なバラ庭園があり、とてもじゃないが2021年の未来の光景とは思わなかった。これでは完全にファンタジーだ。デロリアンはなんだったんだよマジで。
バラ庭園を抜けて城の中に入ると、そこら中を俺がうろうろしていた。
「す、すごい……兄さんばっかりだ……」
「老若男女ありとあらゆる俺がいるな。もうどうにでもなれ」
西洋の貴族然とした俺もいれば、普通の学生服の俺もいる。優雅に歩いているドレスの俺が一番頭痛かった。
「皇帝ってのは何者なんだ?」
「皇帝はオリジナルの神宮羅生だ。だが既にあの方は神宮羅生を超越している……着いたぞ」
案内された場所は、馬鹿でかい扉の前だった。
恐らくこの向こうに神聖神宮帝国皇帝、神宮羅生がいるのだろう。
「……行くぞ、羅門」
「……うん」
わずかに羅門が震えているのがわかる。
さっき俺が言ったことを考えれば当然だ。俺も薄々理解している。
羅門の謎を解く鍵は、この扉の向こうの俺が持っている。
ゆっくりと扉を開けると、まっすぐ伸びた赤いカーペットの向こうに玉座が見えた。
玉座に座っている俺は、中性的な顔立ちの俺だった。くすんだ金髪は長く、パッと見では性別がわからない。
そいつはゆっくりと立ち上がり、悠然と俺達の方へ歩いてくる。
「よくぞここまで来た。一つの可能性の私よ。そして……我が弟、羅門」
「いや誰だよもう」
「驚くのも無理はない。私は既に、神宮羅生を超越している」
大げさに両手を広げ、皇帝はおおらかに笑う。
俺はそんなことしない。
「私は神宮羅生であり、神宮羅門であり、神宮寺生子でもある。故に我が名は――――神宮羅生門子!」
「「神宮羅生門子!?」」
「無数の可能性を旅した私は全ての私を内包している。その意味がわかるか?」
わかるわけねえだろ。
「私は全にして一。一にして全。故に我が名は――――神宮羅生門子」
「神宮羅生門子!?」
「おいこいつ羅生門子言いたいだけだぞ! 一々反応すんな羅門!」
こんなのが俺か???
正直勘弁してほしかったが、こいつの言うことや門前で聞いた俺の話から推測出来る羅門の正体が推測通りならあり得るかも知れない。
「羅生! 羅門!」
「羅々!」
部屋の脇から羅々がこちらへ駆け寄ってくる。羅生門子のインパクトが大きすぎて気づかなかったが、羅々も同じ部屋にいたようだ。
「あ、そうだお前! 羅々はどうやって生まれたんだよ!」
「私が産んだよ」
「何をどうやったっていうんだよ! 無性生殖か!?」
「……そうとも言える。私は全ての羅生を内包するもの。新たな羅生を新たな形で生み出すことも不可能ではない」
「えぇ……じゃあ羅々も俺なの……」
「理論上は」
うわぁ……。
「そ、そんな……」
その場に膝から崩れ落ちる羅々に、俺はかける言葉がない。
マジでない。なにもない。どうしような。
「……さっき言ったよね。君は兄さんでも僕でもあるって……あえて聞くよ、どういう意味?」
真剣な表情で問う羅門を、羅生門子はしばらく見つめていた。
だがやがてゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
「……ならば教えてあげよう」
羅生門子はそっと、俺と羅門へ手をかざす。
「何を――――ッ」
「神宮羅生と神宮羅門……そして私の、数奇なる運命を」
次の瞬間、俺の意識はブラックアウトしていた。
それは2009年10月30日のことだった。
俺は彼女の詩織が友達とライブをやると聞いて、体育館のステージに来ていた。
詩織達は歌も演奏も上手くて、俺はすっかり聞き惚れていた。
しかしその日、事件は突然起こった。
詩織がメンバー紹介を初めた途端、突如としてステージの幕が降ろされる。
突然の自体に体育館内がざわつき始める中、体育館内の電気が全て停止した。
「何なんだ一体……!」
周囲で悲鳴が上がり始め、生徒達が逃げ惑う。俺もすぐに逃げ出そうとしたが、後ろにピッタリと張り付く気配があった。
そしてカチリと。
後頭部に何か冷たい物が当てられた。
あり得ないとは思いながらも、思わず連想してしまう。
――――銃だ。
「やあ、兄さん。やっと会えたね」
「俺に弟はいねえよ……誰だ」
そう答えた瞬間、突きつけられたもので後頭部を強く叩かれる。
「海音寺魁人。死ぬ前に覚えておいて。それが君の……海音寺羅生の弟の名前だ」
「海音寺……?」
海音寺グループ。名前だけは聞いたことがあるが、それがどうして俺の名字になるのかわからない。
「君は海音寺グループの創始者、海音寺宗治の残した忘れ形見だ。神宮家は、君の本当の家族じゃない」
「急過ぎてわかんねえよ。一気に言われても飲み込めねえ」
「いいよ別に。ただ事実だけは伝えておかないといけないと思ってね。独り言だと思ってくれていい」
そのまましばらく独り言を続けていてもらわなければ困る。
なるべく時間を稼いで、誰でも良いから助けが来るのを待ちたい。
そうだ。今に教師が来て――――
「さよなら」
銃声が、響いた。
2019年12月25日。
降りしきる雪の中で、俺は一人の女を抱きかかえていた。
白い雪。彼女が着る真っ白なウェディングドレスと、同じように真っ白な。
走って走って、振り向けば教会が小さくなってて、その頃にやっと俺は足を止めた。
「詩織、ありがとう。それと、ごめんな……。色々。結婚式、めちゃくちゃにしちまった」
「……ううん、良いの。あたしが待ってたのは、羅生だけだから」
銃で頭を撃たれたものの、奇跡的に一命を取り留めた俺は脳死状態になっていた。そんな状態から回復した、タイムカプセルみたいな俺を、詩織は受け入れてくれた。
「ほんとに良かったのか? あのまま結婚した方が幸せじゃないのか?」
「何度も言わせないでよ。あたしは羅生だけを待ってた。彼は……強引過ぎたから」
「……そうか。待たせて悪かった」
「だったら待たせた分、幸せに……しなさいよ」
待たせた分、か。それよりももっともっと、何倍も幸せにしてやりたい。
だから俺は――
「ああ、勿論だ」
そう答えて、そっと彼女の唇を奪った。
振り続ける、白い雪の中で――――
2020年6月14日。
俺は呆然と立ち尽くしていた。
俺には何一つ残っていなかった。
詩織を奪われたあの日から、本来の婚約者、藤内浩哉はずっと復讐の機会を伺っていた。
「詩織……どうして……」
俺を狙ったハズの凶刃は、俺をかばった詩織を貫いた。
「一緒に家庭を作ろうって、言ったじゃねえか……!」
お腹に宿りつつあった子供諸共、詩織は命を落とした。当然藤内は逮捕されたが、俺の中には大きすぎる穴が空いてしまった。
俺の人生ってなんだったんだ。
孤児院から引き取られ、平和な生活をしていたかと言えば何年も失い、起き上がってついに幸せを掴んだかと思えばまた失った。
俺の人生、この先何があるんだ。
人生。人が生きると書いて「人生」。
それを終始平穏無事ですませるのがこんなに難しいだなんて思わなかった。
俺の期待も、予想も、願望も大幅にぶち壊されて、後は何もなくなるのだろう。
せめて、取り戻すことが出来たら…………
2009年3月22日。
僕は――――
「ちょ、ちょっと待て! 待て! 情報量が多すぎる!」
ここでようやく、俺は”俺”としての意識を取り戻した。
見える景色は2009年の白凪町だったが、俺が叫び始めたところで全てが動きを止めた。
「うわーーーーーーーーやだーーーーーーーーー!」
そんな中、隣で大声で泣き叫ぶ声が聞こえて目をやると、そこでは羅門が地べたに転がってじたばたと喚いていた。
「子供か!」
「やだーーーーーーーーーー!」
「何がだよ! 俺だって今色々やだよ!」
「僕がタイムスリップした兄さんだなんてやだーーーーーーーー! 一個の独立した個人でいたいーーーーーーーー! 兄さんに組み込まれたくないーーーーーーーー!」
「俺だってお前も羅々も羅生門子もその他多くの羅生も組み込みたくねえよ!!! どんだけ派生してんだ!」
この口ぶりからして、羅門も同じものを見たのだろう。
文化祭で撃たれる俺。藤内浩哉の結婚式をぶち壊して詩織を奪う俺。そして、藤内によって詩織を失う俺。
暗すぎるだろ俺の未来。
「なんつーか……暗すぎねえか」
「うん、暗いね。変えていこうこれから」
「いや軽いなノリ」
「えーだってしょうがないじゃん……逆にここで僕達が『そ、そんな……未来は絶望しかない……うわああああ!』ってしてもなんか良いことある?」
「な、ない……」
「でしょ?」
軽すぎるテンションが納得いかないが、正論は正論だ。羅門の言う通り、ここで暗くなっても仕方がない。
「よし、気を取り直してもうちょっと見てみよう」
「そんなビデオ感覚で……」
「やーい2009年! 幼少時ビデオに慣れ親しんだ世代ー!」
「うるせえお前もだろうが!」
景色は、俺達が続きを見ようと思った時点で動き始めた。
さっきまでは一人称視点だが、今の俺達は羅生とも羅門とも別々の、半透明の存在として情景を俯瞰している。
タイムスリップした俺は記憶を失い、過去の俺と出会う。そして双子の弟であると主張し、神宮羅門として高校生活を送り始める。
「十二年後から来たのに高校生のフリってやばくない? 兄さんどんだけ見た目若かったの」
「いやお前だからなこれ」
「それは兄さんってことだからね。僕の責任は羅門を名乗った後だから。これは兄さんの分」
「俺はタイムスリップする前の段階では高校生やるつもりなかったと思う。だからこれはお前の分」
「いやそもそも僕の分も兄さんの分だからね。今僕は羅門として独立するからノーカンだよ。はい全部兄さん」
「無茶苦茶だお前!」
「全部無茶苦茶なんだよ! 僕達は無茶苦茶! 無茶と苦茶!」
何だよもう無茶と苦茶って……。
俺と羅門(まあ俺と俺なんだけど)の学園生活は、概ね俺達の記憶通りに進んでいった。
しかし、学園祭が近づいた辺りから急激に事態が変化する。
羅門の記憶が微かに戻り始めるのと同時期に、俺が神宮家の子供ではなく孤児院からもらわれた子だと判明する。
「結構ショッキングだなこれ」
「でも別に良くない? だって兄さん育ての両親好きでしょ?」
「まあ……」
「大丈夫大丈夫、飲み込んでいこう。他のよりマシ」
「それもそうだ……」
そして文化祭当日……羅門は羅生をかばって死んだ。
「なんで!? なんで僕死んでるの!?」
「いやあの、俺を……かばったから……」
「それはわかるんだけどさ! 何でこんなことになるワケ!? 海音寺魁人超不審者じゃん! 学校何してるの!?」
「一般参加者に紛れてたんだろ……いやわかんねえよこんなの……。通り魔をひと目で見抜くような難易度だぞ」
そもそも動機がよくわからない。
整理すると、俺と魁人が本来の兄弟で、孤児院から俺だけが一般家庭に引き取られた。そして魁人だけが海音寺家に戻され、海音寺グループを継がされた。
だから殺す。
「うーん……? 何で俺殺されそうになってるんだ?」
「まあ、寂しかったんじゃないの……。色々情緒こじれてるっぽかったし。結構末期だったんだと思うよ」
「その辺は想像するしかねえからわかんねえなぁ……」
まあ人の精神状態なんてのはわからないものだ。
「問題はこの後だね」
羅門の言う通りだ。これで結果的に過去の羅生は助かり、脳死状態になる未来は回避されている。
その後の俺がどう行動するかで、未来は変化する。
「うわー……タイムトラベルしちゃったよ……」
しかしその羅生は、事件から二年後に開発されたタイムマシンによって二年前に戻ってしまった。
過去に戻り、死んだ羅門を助け出すためだ。
その結果、羅生はタイムトラベルの過程で記憶を失い、過去で神宮羅門を名乗り始めるのだ。
「これはタイムマシンの重大な欠陥だねぇ」
「最初のタイムトラベルでも記憶失ってたからな……そういうモンなのかも知れん」
そしてこれは、幾度となく繰り返された。
羅生か羅門のどちらかが、文化祭の日に死ぬ。そして何年後になるかはまちまちだが、必ずタイムトラベルによって過去へと戻っていく。
それがもう、何度も何度も繰り返された。
早送りで見た。なんか出来たので。
「はいストップ!」
もうよくわからなくなってボーッと見ていると、途中で羅門が止める。
「ここ! ここの流れおかしいよ!」
それは何度目だったかわからないが、シンプルに羅生が脳死状態になって九年後に目覚めた世界だった。
「僕いないじゃん!」
「そりゃ、この世界の時は肉体ごとタイムトラベルしたんじゃなくて意識だけタイムリープしてただろ」
基本的には物理的に肉体ごとタイムトラベルしているが、今回は珍しく意識だけでタイムリープしている。ルートによってはタイムマシンの性質が違うのかもしれない。
そして意識だけでタイムリープした結果、羅門が発生しないまま話が進んでいるのだ。結局記憶はだいぶ欠落していたが。
「それだけなら良いんだよ! でもここ! これ!」
『神宮羅門は存在しない。羅門は、俺の夢だ。都合良く何度も同じ夢を見るための、辻褄合わせでしかなかった。それが、現実』
脳死状態から回復し、ベッドの上で羅生はそんなことをつぶやく。
流石にこれは俺も気まずくて羅門から目をそらす。
「全否定じゃん!!!!」
「あの、なんか……ごめん……」
「しかもこれこのまま志村さんと結婚するんでしょ! 藤内から無理矢理奪って!」
「いや言い方」
「だってそうじゃん! 人様の結婚式無茶苦茶にしてさぁ! ほら無茶と苦茶!」
ほらってなんだよ。
「何が『それが、現実』だよどれが現実!? こいつ結局ほぼ記憶欠落したままじゃん! 真面目にやってよ何しにタイムリープしたの!?」
「め、面目ない……」
「……いや、兄さんに言っても仕方がないね……あれも兄さんだけど」
そうやって話している内に、羅生は再び藤内の結婚式に乱入し、詩織を奪い去っていく。
しかしその結末は最初と同じだ。
「あーまた詩織死んだわ……」
「まあこれ結構兄さんも悪いしねぇ」
嫉妬と復讐に狂った藤内の手によって、詩織はまた命を落とす。
「無理矢理乱入するから悪いんだよ。手段選ばないと」
「そうだよなぁ。でもこいつ何回ループしても記憶欠落するから肝心なところ覚えてなくて改善出来ないんだよな」
「うわぁ不毛」
「もうちょい頑張って記憶維持してほしいよな。いっそタトゥー掘るとか」
「何掘るの? 残す情報取捨選択しないと」
「とりあえず文化祭欠席させよう」
「あと、志村さんと付き合うのやめたら?」
「うーん、死んでほしくないし視野に入れた方が良さそうだよな……」
「涼香とかどう?」
「簡単に言うなよ……鳳凰院のことは嫌いじゃないけど振ったんだよこないだ……」
「まだ脈あると思うんだけどな~。僕は涼香推し~」
何だこの会話。こんな状況ですることか?
俺もだいぶおかしくなってて、あーまた死んだわとか言い出すし。
「ていうかこれいつ終わるの? あと何回ループするんだろう」
「さあ……? もう大体あいつの言いたいことわかったしそろそろいいよな疲れるし……」
「スキップ出来ないかな」
意外とサクッとスキップ出来た。
続