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「遠い過去、遠い未来2009Part2」

 女が向けてきた銃は、どこか現実味のない妙な形をしていた。拳銃というよりは玩具だ。ジッと見ていると、銃口から放たれた怪光線が俺の頬をかすめた。

 たらりと血が垂れて、俺も羅門もすぐに背を向けて走り出した。

「待ちなさい! 神宮羅生! 隣りにいるのは神宮羅門ね!」

「悪い羅門! あまりのことに呆然として撃たれるまで立ち尽くしてしまった!」

「これは流石に仕方ないんじゃないかなぁ!?」

 追いかけてくる女を尻目に、俺と羅門は全速力で駆けていく。

 女の足は速い。その上デタラメに怪光線を撃ちまくるせいで気が気じゃない。

「クソ! 何なんだよあいつ! 覚えがないぞ!」

「神聖神宮帝国皇帝神宮羅生! 死ねぇ!」

「その神聖なんたらってのも知らねえよ! 絶対俺じゃねえだろそれ!」

「死ねぇ!」

「聞けぇ!」

 女は一切こっちの話を聞かずに怪光線を撃ち続けている。

 そのまま走り続けてどのくらい経っただろう。うまく照準が定まらないのか、怪光線は頬をかすめて以来一度も当たっていない。

「おい! 俺も羅門も普通の高校生だ! 神聖なんたらとは関係ない!」

「そんなハズないわ! 大体、この時代普通の高校生は金髪トゲトゲオールバックヘアになんてしないわ! アンタ半グレみたいなもんでしょ!」

 くッ……痛いところを……!

 中学時代荒れてた俺は、金髪のロン毛で町内を暴れまわっていた。高校に入る時に短く切って高校デビューしたつもりだったが、この頭では印象的には大差がない。それに気づいたのは入学から一ヶ月後だ。

 校則が緩いのもあって髪型を変えるタイミングを逃し続けたまま今に至る。

「兄さん! そろそろ来るよ!」

「そろそろ来るって……何がだよ!」

 今まで黙って走っていた羅門が急に口を開いたかと思うと、どこかからサイレンの音が聞こえてくるのに気がついた。

「……警察」

 サイレンを鳴らしているのはパトカーだ。俺達の正面と、女の後ろから一台ずつパトカーが走ってくる。

「何!?」

 驚いて足を止めた女のそばに、パトカーが停まる。それとほぼ同時に、俺達の前にもパトカーが停まった。

「通報をくれたのは君か?」

「うん!」

「大丈夫か!?」

「わりと!」

 羅門の緩い受け答えにつっこむ元気はもうない。

 パトカーから出てきた二人の刑事に保護されながら、俺達は女の方へ視線を向けた。

「は、放しなさい! どうして邪魔をするのよ! この世界の未来がかかっているのよ!」

「わけのわからないことを言うな! 大人しくしなさい!」

 女は銃を取り上げられ、二人の刑事に取り押さえられている。暴れる女だったが、刑事達は強引にパトカーの中へ連れ込んでいく。

「放せー! あたしを誰だと思ってるの!? 神聖神宮帝国第一王女、神宮羅々(じんぐうらら)よ! 放せ! あたしは羅々よーーーー!?」

 ヤバいバウンティハンターみたいな絶叫と共に、パトカーにぶち込まれる女を見送って、俺と羅門は顔を見合わせる。

「……今神宮って言ったか」

「…………言ったね」

 状況は全く飲み込めていなかったが、ひとまず俺達は署で事情聴取を受けることにした。





 事情聴取を受けたは良いが、俺達にわかることなど何一つない。

 空からデロリアンが飛んできて、出てきた変な女が光線銃で攻撃してきたなんて荒唐無稽過ぎる。

 一応全部説明したが警察側も苦笑い。だが事実である以上俺達にはこれしか話せることがない。

「名字が同じなのは……偶然?」

「偶然です」

「彼女、さっき取り調べで君のことをパパって言ってたけど心当たりは?」

 あるわけないだろ。

「兄さん! いつの間に! 僕という者がありながら!」

「いや……ないですね……。ちょっと俺にはよくわからないです……」

 正直警察は苦手だった。

 中学時代、何度か補導されたこともある。

「兄さん! 僕という者が! ありながら!」

「お前ほんと黙ってろ」

 流石に警察の前で殴るわけにもいかず、拳を収めたまま羅門をなだめ続けるはめになった。



 小一時間程事情聴取された後、俺達はパトカーで家まで送ってもらった。

 その頃にはすっかり夕暮れ時になっており、俺は家に帰るなりぐったりとソファに倒れ込んだ。

「何なんだ今日は……」

 今朝から変な夢見るわ遅刻しかけるわ空からデロリアンが飛んでくるわ変な女に追いかけ回されるわ。最後には警察の世話にまでなった。

「今日の夕飯どうする?」

「お湯沸かしといてくれ」

「えー、今日はいつもの北京ダックが食べたかったなー」

 一回も食卓に出したことないぞそれ。

 駄目だ、今はもうまともにつっこめる気もしない。

「あ、じゃあ僕何か作ろうか! 何が良い? どんなカレー?」

「もうわかったから何もしないでくれ。今日はもう無理だ」

「お湯沸かすね」

 羅門も疲れているのかいつもより素直に言うことを聞いてくれた。

 さて、棚にカップ麺が残ってたかどうか確認するか。

 諦めて立ち上がると、不意にインターホンが鳴り響く。

「……今来るか」

 特に宅配便の覚えもない。何かのセールスか挨拶だろう。

 高をくくってドアを開けると、ピンクのぴっちりスーツ女が腕を組んでこちらを睨んでいた。

「兄さん? 誰?」

 俺はドアを閉じた。

「開けなさい! 事情を話すわ!」

 正直事情は聞きたかったが、もう関わりたくなかった。

「神宮ビームガンでドアを溶かすわよ!」

「わかった。入れ」

 何だよ神宮ビームガンって……。



 ビームガン女をソファに座らせ、俺達二人はテーブルを挟んでクッションの上に座る。

 俺自身驚いているのだがこんなわけのわからない女を一応客の類として扱ってしまった。

 お茶も出してしまった。

「わからないことがあれば聞いてちょうだい」

「何もう一通り話したみたいな顔してんだ。何もわかんねえよ全部話せ」

 そもそもどうやって警察署から抜け出したのかもわからない。

「趣味は?」

「音楽鑑賞よ」

「好きな食べ物は?」

「北京ダック!」

 今は警察がいないので羅門を殴っても問題ない。

 どうでも良い質問を繰り返す羅門にゲンコツをぶちこんでから、俺は女から事情を聞き出すことにした。

「そもそも誰なんだお前は。俺達と何の関係がある?」

「あたしの名前は神宮羅々。神聖神宮帝国第一王女の神宮羅々よ」

 出た。神聖なんたら。

「神宮羅生……あなたは今から五年後の未来であたしを産む」

「兄さん!?」

「帝王切開でね」

「そうなの!?」

 いや絶対違うだろ。

「産むのは俺じゃないだろ」

「…………そうね。帝王切開は嘘だったわ」

「産んだのは嘘じゃねえのかよ!」

「自分で言ってたもの! あとよく考えたらあたしにもよくわかんない!」

「えぇ……」

 そうはなんねえだろ!?

 ……いや、待てよ……?

「兄さん心当たりは?」

「な…………くもない……」

「兄さん!?」

「俺は女になったことがある」

「僕聞いてないんだけど」

「……ごめんな。黙ってたけど本当にあったことなんだ」

「嘘だろ兄さん……」

 実際俺が変な薬で女になったのは事実だ。それもほんの数週間前の話だ。

 記憶に新しすぎて嫌でも関連付けて考えてしまう。


「やめろ! 放せ! 何をするつもりだ!」

「クククク……お前を薬の実験台にするんだよ。さあ、飲めぇ!」

 化学の小テストでゴミみたいな点数を取った俺は担任であり化学の担当である宮本葱子に弱みを握られていた。

 空き教室の机に寝かされて縛られた俺は、マッドサイエンティストの担任宮本によって謎の薬を飲まされた。

 そして俺の身体は女になってしまっていた!

「そ、そんな……!」

「ククク……十分かそこらで元に戻るぞ……」

「う、うわあああああああああ!」


「ということがあったんだよ」

「えぇ……」

 あ、引いてる引いてる。

 まさか羅門のドン引きした顔が見れるとは思わなかったな……。

「そうはならないでしょ……」

 羅々も引いてる……。

「……つ、つまるところ、あたしはあなたの娘よ」

 なんとなくこいつの言いたいことはわかったが、話の流れを全部俺が持っていってしまった。

 この主導権はいらねえ。

「羅々! 話の主導権を握り直せ!」

「ど、どうやって……!?」

「帝国への怒りを思い出せ!」

「う、うぅ……許せない……!」

 よし、その調子だ。

「パパは……ま、ママ……? いや……?」

「おい話を戻すな怒れ」

「うぅぅぅぅぅ! 神宮羅生は神聖神宮帝国を建国し、世界を支配したわ!!!」

「は?」

「だけどパパの作った国は神宮羅生とそれ以外の人間でクッキリと身分が別れている……! 娘のあたしは王女として扱われてるけど、それ以外の非羅生は城の外で極貧生活を送っているのよ!」

「待て、わからん。全然わからなくなった」

「今兄さんが言えるかなそれ!」

 俺の方がマシだったろ!

「そんな世界は間違っている! だからあたしは、過去のパパを殺して世界を正しい姿に戻す! そのためにここへ来た! そしてそのためにスペアのビームガンを取ってきた!」

 そのままヒートアップした羅々は、勢いよく神宮ビームガンを取り出して俺へ向ける。

「待て! 早まるな! 話せばわかる! 俺はわかんなかったけど!」

「待てって言ったり怒れって言ったりどっちなのよ! あたしもうわかんない!」

「僕は待てが出来るよ!」

 うるせえ。

「あ、あたしだって待てくらい出来るわよ!」

「じゃあもうちょい待てや!」

 そのまま強引にビームガンを奪い取り、しげしげと眺める。見た目は玩具っぽかったが、質感がガチだ。

「やるわね。流石神宮羅門」

「俺は羅生ね」

「とりあえず兄さんが悪いのはわかったよ。でも殺されるのは嫌だな」

 俺は俺が悪いのわかってないぞ。

「……なら、実際に未来を見てもらった方が良いかも知れないわね。パマは納得してないんでしょ?」

「パマってなんだよ。パパとママをひと括りにすんな」

「そっちがひと括りになったんでしょ!」

「今の俺は悪くねえ! 未来の過ちはわからねえよ!」

 心当たりがわずかにあっただけだからな!?

「とにかく連れて行ってあげるわ。十二年後の未来……神宮三年にね」

 ……もしかして今元号みたいな感じで神宮って言ったのか?





 俺達は羅々に連れられてデロリアン――もといタイムマシンの駐車されている場所へと歩いていく。

 距離はそう遠くない。数分歩けば辿り着けるだろう。

「それで結局、お前はなんで警察署を出られたんだ」

「スペアのビームガンで部分的に破壊させてもらったわ。すごいでしょ」

 無茶苦茶すな。

 しばらく歩くと、タイムマシンの駐車されている場所に辿り着いた。

 銀色の車体はあの時のまま、路肩に丁寧に駐車されている。

「スーツに着替えて。予備のスーツが積んであるわ」

 羅々がタイムマシンのトランクを開けると、トランクケースがいくつか入っていた。その内の二つを俺と羅門に渡し、羅々は着替えるよう促す。

「着替えるってここでか?」

「そうよ。ちょっと不格好になるけど服の上から着ても良いわよ」

 羅々の言う通り、スーツは服の上から着ることが出来た。

「未来か……」

 一方羅門はまだ着替えておらず、スーツを見つめて難しい顔をしていた。

「どうした?」

 羅門なら喜んで着るなり遊ぶなりしそうなものだが、俺の予想と羅門の反応は違っている。

「うーん……。なんか未来っていうか……過去っていうか……こういうこと、初めてじゃない気がして」

「流石にそれはないんじゃないか……?」

 羅門の失われた過去に何か関係があるのかも知れない。

 だとしたら、このわけのわからない状況とも何か関係が……?

 そう考えていると、こちらへ駆けてくる数人分の足音が聞き取れた。

 慌てて音のする方向に目を向けると、黒いスーツの男達が三人程こちらへ向かってくるのが見えた。

「なんだあいつ……ら……!?」

 しかもそいつら全員、俺と同じ顔をしていた。

「まずいわね……量産型羅生がきたわ! 既にこの時代に待ち伏せしていたのね!」

「なんて!?」

「急いでタイムマシンに乗るのよ!」

 羅々に急かされ、羅門は慌ててスーツを着込む。

「よし、とにかく乗るぞ!」

 羅々は既に運転席に乗り込んでいる。

 俺はドアの開いたタイムマシンの後部座席に半ば強引に羅門を押し込み、続いて俺も中へ乗り込んだ。

 もうヤケクソだ。状況が滅茶苦茶で最早何もわからない。ほとんど錯乱状態だ。

「閉めるわよ!」

「待って!」

 タイムマシンを浮上させつつドアを閉めようとした羅々を、羅門が後ろから止める。

「兄さんがまだ乗ってない!」

「何!? 俺が!?」

 見れば、三人の俺の内先頭の俺がタイムマシンに乗ろうと手を伸ばしていた。

「おい! 俺! 急げ! 閉まるぞ!」

「ああ! 悪い、掴んでくれ俺!」

「おう! 引っ張るぞ!」

 俺は俺の腕を掴んで引っ張り上げ、タイムマシンの中に乗せてやる。

「全員乗ったわね!」

「うん!」

「ああ!」

「おう!」

 ドアが閉まり、タイムマシンが更に浮上していく。

 残された二人の俺が、地上から悔しそうに俺達を見ていた。

「そんな! 兄さん! 兄さーーーん!」

「諦めろ羅門! 俺は間に合わなかったんだ!」

「でも……ッ!」

「俺だって助けられるモンなら助けてえよ……!」

「兄さん……」

 タイムマシンが、どこかへと飛んでいく。

 窓を覗き込むと、俺達の住んでいる住宅街がどんどん小さくなっていくのが見えた。

 テンパっていた頭が少し落ち着いてきて、俺は一息つく。羅門も同じように落ち着いたのか、額の汗を拭っていた。

「時空移動を開始するまで少し時間がかかるわ。それまでにヘルメットをかぶっておいて」

 そう言って羅々は助手席に置いてあったのであろう白いヘルメットを二つ渡してくる。

 羅々自身は専用のヘルメットなのか、ピンクのヘルメットをかぶっていた。

「はい兄さん」

 ヘルメットを受け取った羅門が片方のヘルメットをこちらへ渡す。

「「おう、ありがとな」」

 …………ん?

 思わず俺は隣の俺と顔を見合わせた。

「兄さんが二人……どうして!」

「嘘……量産型羅生が紛れ込んでいるわ!」

「嘘だろ!?」

 いや、嘘じゃない。

 落ち着いて考えればわけのわからないことをしていたんだ。

 完全にテンパっていたせいなのか、俺は正気を失っていた。

 俺がもう乗ってるのに俺がまだ乗ってないってなんだよ!

 何!? 俺が!? じゃねえよ! どうした俺!

「「信じてくれ羅門、俺が羅生だ!」」

「神宮羅生! はやくかぶって!」

「「ああ! わかった!」」

 や、ややこしい……。

 羅門は俺と量産型俺のどちらにヘルメットを渡すべきなのか迷っているようで、俺と俺を見比べてから白目を剥いた。

 こいつもキャパオーバーあるんだな。

「いや待て! さっき変なぴっちりスーツ一緒に着ただろ! 俺が本物だよ!」

「騙されるな! こいつは学校にいる時点で俺とすり替わっていやがったんだ!」

「……? ……???????????????」

 駄目だ。完全に混乱してやがる。

 実際同じ状況になったら俺も混乱するかも知れない。あまり羅門は責められん。

「……そうだ! クイズを出すよ!」

「「クイズ!?」」

 そういや何で俺さっきから俺と息合わせてんの。

「答えられた方が本物の兄さんだ!」

 その手があったか!

 仮に量産型俺が俺と同じ思考をするとしても、普段羅門と一緒にいる俺とそうでない俺では羅門知識が違う。

 はっきり言って羅門知識と羅門対応力で俺は誰にも負ける気がしない。

「上は大火事下も大火事……。それは何でしょう?」

「ただの大火事じゃねえかお前マジでぶっ飛ばすぞ」

 こいつに期待した俺が馬鹿だった。

 羅門知識と羅門対応力で図に乗った俺も馬鹿だった。

「簡単だな! それは大惨事だぜ!」

 量産型俺がそう答えた瞬間、羅門は目を見開く。

 しまった! それが答えか!?

「……そうだよ。答えは大惨事だ……」

「やっぱりな! 俺が羅生だ!」

 得意げな顔をする量産型羅生だったが、羅門は悲しげに目を伏せる。

「……でも違うんだ。兄さんはそんなこと言わない……うぅッ……兄さんはッ! 兄さんは僕がこういうクソみたいなクイズを出した時、ただの大火事じゃねえかって答えるんだよぅ……ッ!」

「それ泣くとこ!?」

「こういう兄さんが良かった……ッ!」

「……もうこいつの弟になっちまえお前」

 何で泣かれてんだ俺は……。

「そうか……そうだよな。俺、そんなこと言わないもんな……」

「偽兄さぁん……!」

「ほら、かぶれよ。そのヘルメットはお前のものだ」

 すげえ爽やかな顔でヘルメットを渡されたがリアクションに困る。

「でもな……俺がお前の兄さんだってことは、変わらないぜ」

「う、うわあああ!」

『時空移動システム、作動します。目標地点20210920、神聖神宮帝国ネオシラナギシティ』

 システム音声と共に、タイムマシンが急加速を始める。

『ワームホールへ突入します。スーツの着用、ヘルメットの装着をご確認ください。シートベルトをお忘れなく』

 うわ、ヘルメットかぶっとこ。

「僕だってそうだよ! どっちも、僕の大切な兄さんだよ!」

「ありがとな、羅門……でも俺、偽物なんだ」

 あ、ほんとに偽物なんだ……。

「大好きだよ! 兄さん達!」

 羅門と量産型俺の茶番から適当に目をそむけると、外の景色が急速に変化していくのが見えた。

 全てが暗闇に包まれ、タイムマシンの中の電灯が光り始める。

「ああ、俺もお前のことがだいす……どぅえあぁぁぁ……ッ!?」

 そして突然量産型俺は奇声を発しながら光の粒子となって消えていった。

「普通の生き物はワームホールには耐えられないわ。スーツとヘルメットがなければ、あたし達だってどぅえあってたわよ」

「お前すぐ変な造語生み出すのやめろ二回目だぞ」

「そのあたしを産んだのはあなたよ!」

 俺じゃねえ。今の所まだ俺じゃねえ。

「ていうかなんだったんだ量産型俺……」

「皇帝陛下が生み出した複製体よ」

 皇帝はバケモンか?

 ていうかもしかしなくても各地で発見されてた俺って量産型の皆さんじゃないか……。

「消えなかった方が本物」

「いや割り切り方」

 クソ、俺もお前が二人現れた時消えなかった方本物扱いするからな。

 二人目出てきてほしくねえけど。

「そんなことより行くわよ……2021年、9月20日!」

 真っ暗で、どこか歪んでいるようにも見えるワームホールの中で、タイムマシンは更に加速した。

 十二年後の未来。

 神聖神宮帝国。

 タイムマシン。

 ワームホール。

 量産型俺。

 もう、勘弁してくれ。


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