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「遠い過去、遠い未来2009Part1」

あらすじに書いてあることが全てです。

「ぐらとぐら」は12年前に連載され、コメディ作品でありながら唐突にバッドエンドを迎えた後、原作の準主人公である神宮羅門の存在そのものを全否定した「Wedding snow」が掲載されました。

更に後続の作品である「World×World」においても羅門の存在はほぼなかったことにされており、非常に酷い有様でした。

12年経った今、改めて「ぐらとぐら」を読み返して向き合った後、神宮羅門の存在を肯定する作品を書かなければならない、ぐらとぐらに完全な決着をつけねばならない。そういう衝動に駆られて書き始めたのが今作です。

正直無茶苦茶です。

「我が帝国に栄光あれッ!」

 妙に聞き馴染みのある大声に、俺はハッとなる。

 何だ?

 ここはどこだ?

 気がつけば目の前に大きな祭壇があり、その中央には一人の男が立っていた。

 場所は屋外のようで、夜だ。祭壇の周りを囲む松明が辺りを照らしている。

 俺の周囲には何人もの男達が立っており、誰もが一様に祭壇の男を称えている。

 全員がローブを着込んでおり、顔はフードで隠れていた。

「どこに迷い込んだんだ俺は……」

 俺の呟きは歓声にかき消されていく。

「神聖神宮帝国皇帝、神宮羅生じんぐうらしょうの元に集いし神宮羅生達よ! 私についてこい!」

 は?

「羅生ッ! 羅生ッ! 羅生ッ! 羅生ッ!」

 全くわけのわからない状況に、理解が追いつかない。

 ひたすら繰り返されるその名前に、俺は困惑して倒れそうになる。

「おい待て! なんだよそれ! おい!」

「羅生ッ! 羅生ッ!」

「やめろ! なんなんだよ!」

 勢い余って隣の男を突き飛ばすと、男のフードが外れる。

「へ……?」

 そこにあったのは、紛れもない俺の顔だった。

 逆立ったオールバックの金髪に、目つきの悪い顔立ち。毎日見ている俺の顔だ。

「お前、羅生なのになんで羅生を称えないんだ」

 男が口を開く。

 全く意味がわからなくて返答が出来ない。

「そうだそうだ! 真面目にやれ!」

 別の方向から声が聞こえると同時に、その場にいた全員がフードを外す。

 そして広がった目の前の光景に、俺は絶句した。

「嘘だろ……?」


 ここにいるのは全員、俺だった。


「その者を捕らえよ!」

 祭壇の男……神聖神宮帝国皇帝が叫ぶ。

 ああ、そうだ。

 よく見たらあいつも……俺じゃねえか……。

 俺はそのままわけがわからないままもみくちゃにされていく。

「兄さん! 兄さん!」

 変な幻聴まで聞こえてきたが、もう全部幻聴みたいなものだ。

 目覚まし時計がけたたましく鳴り響いて――――



 目を覚ますと俺は、家のベッドでベッタリと寝汗をかいていた。

「兄さん、もう八時過ぎてるけど大丈夫?」

 俺の顔を覗き込んで来たのも俺に見えて思わず頭突きを喰らわせてしまう。

 そいつはそのまま大きくのけぞった後、痛そうに額をさすった。

「すまん。大丈夫か?」

「うっ……記憶が……」

「お前のは元々あんまないだろ」

 こいつの名前は神宮羅門じんぐうらもん。俺、神宮羅生の弟……ということになっている。

 一応。

 多分。

 恐らく。

 というのもこの弟。数ヶ月前に突然家に押しかけていた記憶喪失の男なのだ。

 顔立ちは俺に似ているが、目つきが俺より少し柔らかい。髪は少し長めで、肩につくかつかないかくらいの長さだ。

 成り行きでうちに置いているのだが未だに記憶が戻る気配もないし手がかりもない。あんまり真面目に探してないので当然だが。

「全てを忘れた…………兄さんのエロ本の隠し場所しか思い出せない……」

「もう一発もらいてえのか」

 そんなやり取りの後、ふと気づく。

 今何時だ……?

 慌てて時計を見ると、時刻は八時十分。朝のHRホームルームが八時半。

「って遅刻するじゃねえか!」

「遅刻って何!? そこに兄さんの隠したエロ本があるの!?」

「なんでお前先に起きてたのに着替えてないんだよ! はやく着替えろ!」

「エロ本は!?」

「どこにもねえ!」

 二人して慌ててスラックスを脱ぎ散らかし、白凪高校の制服に着替える。

 朝飯を食っている時間はない。

 急いで荷物をまとめて、俺と羅門は学校目掛けて走り出した。

「行こう! 兄さんの隠したエロ本を探しに!」

「どうでも良いけどお前なんで朝からそんなテンションでいられるんだよ……」

 結局こいつの素性はわからない。

 それでも俺がこいつと一緒にいるのは多分……満更でもないからだ。

「テンションくらい上がるよ! また僕達の新しい一日が始まるんだ!」

 この馬鹿な弟と一緒にいる時間が、なんだかんだで楽しい。


 人生。

 人が生きると書いて「人生」。

 俺の「人生」は終始平穏無事であると……決めつけていたのが馬鹿らしい。

 何の変哲もない一人の男の人生。

 そんなモン全部ぶち壊すような毎日が――――突然現れたこいつから始まりやがったんだ。








 2009年9月20日。


 教室に着く頃には八時二十五分。ギリギリHR五分前だ。

「ぐら、お前どうしたその頭。寝坊か?」

 教室に入るなり、声をかけてきたのは友人の岸田光男きしだみつおだ。長い前髪をヘアバンドでまとめた茶髪の男で、付き合いは中学時代からだ。

 ちなみにぐら、というのは不本意だが俺のあだ名だ。

 神宮羅生、ぐう、ら、と続くからぐら。らしい。

「寝坊だよ。後でワックス貸してくれ」

「へいへい」

 普段はワックスで前髪をオールバックに固めているのだが、今朝はそんな時間がなかった。

 珍しく前髪を下ろしたまま登校した俺の姿に、岸田以外の奴らも視線を向けている。

「あらあら、こんな時間に登校だなんて随分とお寝坊さんですのねぇ!」

 歩み寄りながら甲高い声でそんなことをのたまうのは、クラスきってのお嬢様、鳳凰院涼香ほうおういんすずかだ。

 どうやってセットしているのかわからない金髪ドリルロングヘアをわざとらしくなびかせて、鳳凰院はくすくすと笑う。

 その後ろでは、彼女の親友であり侍女でもある牧村霧まきむらきりが申し訳なさそうに頭を下げていた。

「日頃の睡眠が足りていないのではなくって? たまにはバイトよりも休息を優先しなさいな!」

「お、おう……そうだな……ありがとう」

 思ったより普通に心配されて戸惑ってしまった。

「あ!」

 そんな中、鳳凰院を指差して、羅門は顔をパッと明るくさせる。

「お嬢様だ!」

「あらおはよう! でもそろそろ名前で呼んでくださいません?」

「涼香!」

「踏み込みが早すぎますわ!」

 鳳凰院のこと下の名前で呼び捨てするの、今のところマジでお前と鳳凰院の親くらいじゃねえかな……。

 羅門はそのまま放っておきつつ、俺は自分の席へと向かう。

「おはよ、羅生」

「おう、おはよう詩織」

 軽く手を上げて挨拶してきたのは、志村詩織しむらしおりだ。

 少し前から付き合いのある奴で、艷やかな黒髪のロングヘアと強気そうなつり目が特徴的な女子である。

「あ、兄さん彼女に挨拶してる」

 いつの間にか鳳凰院の元からこっちへ戻ってきた羅門だが、こいつの席は逆方向だ。

「ほっとけ」

 羅門の言葉に頬を赤らめる詩織と、呆れる俺。そんな様子を見ながら、詩織の友人である二人組がニヤニヤと笑っていた。

「……朝からイチャイチャ」

「してません。挨拶しただけよ」

 後ろからボソボソと茶化すのは福井理恵ふくいりえ。いつも眠そうな女子で、イマイチ何を考えているか俺にはわからない。悪い奴ではないと思う。

「このこのー! この……このこのー!」

「……何言うか考えてから口開けよ木下……」

 このこの、しか言えてないのが木下優きのしたゆう。大体詩織は福井、木下と一緒にいる。

「ぐら君、後一分だよー」

「げっ」

 そっと俺に忠告してくれるのは、黒髪ツインテールの有馬真紀ありままきだ。パッと見普通の奴だが、実は滅茶苦茶喧嘩が強い。

 ようやく席に着くと、後ろで田原陽一たはらよういちがホッと胸をなでおろす。

「ちょっとひやひやしたよ」

「なんとか間に合って良かったよ……」

 癖の強いクラスにいると、こういう普通の奴のリアクションが本当に嬉しい。

 向こうの席で早速知恵の輪で遊び始めたアホの羅門も見習ってほしい。

 HR開始直前に始めることかそれは。

 チャイムが鳴ると同時に、小学生みたいな背丈の女教師が教室に入ってくる。

「よーしHR始めるぞー」

 化学担当の宮本葱子みやもとねぎこ。アメリカだかなんだかで飛び級で大学を卒業した天才教師らしい。

 こいつを見ていると頭が痛くなる。

 俺はなんでこんな漫画みたいなクラスにいるんだ…………。





 その日の昼休み、俺は広場のベンチで詩織と弁当を食べていた。

 とは言っても俺は自前の弁当を用意し忘れたので購買の弁当だ。これはこれでうまいのだが出費がかさむのは一人暮らし(厳密には二人だが)的には良くない。

 この広場のベンチはよく埋まるので、運良く座れたのは良かった。

 大きな桜の樹を中心にぐるりと囲むようにして設置されたベンチには、俺達の他に何組かカップルが間隔を空けて座っている。

 みんな一様に桜の樹を眺めているが今は咲いていない。

「そういえば羅生、この間の日曜日にコンビニにいなかった?」

「コンビニ? どこのだ?」

 というか日曜は確か特に外出しなかったハズなんだが……。

「ほら、学校の向かいにあるやつ」

「いや……覚えがねえな」

 日曜は珍しくバイトが休みだったので家でずっとゴロゴロしていた。

「精々近所で羅門の散歩に行ったくらいだな」

「犬感覚なの?」

「外出したいってうるさかったからな」

「……それとその羅門君なんだけど、枝からぶら下がって羅生のおかずを食べてるのは放っておいて良いの?」

 気がつけばメインのコロッケが消えていた。

「ああ。そのことはあとでいい。こんなこともあろうかと俺は焼きそばパンも用意している」

 出費がかさむのは良くない。

「……変な慣れ方してない……?」

「それはそうと、ほんとにコンビニに俺がいたのか?」

 ぶら下がったままの羅門に一応裏拳を入れておいてから、俺は話を切り替える。

「見間違えかも……。ねえ羅門君、羅生は日曜家にいたのよね?」

「うん。いたよ。僕は一日中一緒にいたからね」

 しぶとくぶら下がる羅門に普通に話しかける辺り、詩織もまあまあ羅門慣れしてきている気がする。

「前にもこんなことあったな……。確か岸田の奴が羅門を初めて見かけた時か」

 俺とよく似た奴を見かけた。兄弟はいるか、と。

「冗談じゃない。羅門一人で手一杯だぞ……。二人目なんて出てきたらキャパオーバーだ」

「そうよね……。あたしだったら羅門君だけでも手に負える気がしないわ」

「そんなことないよ。僕は意外と手がかからないし暑さや寒さにも強い」

 なんで自分でペット感覚なんだよ。

「なんかりえりえも羅生見かけたって言ってたのよねぇ」

「そんな見かけるか、俺って」

 言いつつ、俺は食べ終わった弁当を片付けて焼きそばパンを開封する。すかさず口を開ける羅門だったが、すぐに焼きそばパンを膝下まで逃した。

「待て」

 ピタリと動きを止める羅門。

「ほら、待てが出来るよ」

 ほらじゃねえ。

「しかし気になるな。また俺を見かけたら俺に教えてくれ」

「……? ……あ、ああそういうことね。わかったわ」

 俺だって俺が何言ってんのかもうわかんねえよ。

「……あ! 涼香だ!」

 不意に、待ての状態で止まっていた羅門が声を上げる。

 羅門の指差す方を見ると、校舎の中から出てくる鳳凰院と牧村の姿が見えた。

「あ、おい羅門――――」

 止めようとした時には既に遅く、羅門は機敏な動きで桜の樹から降りると、一直線に鳳凰院の方へと駆けていく。

「え、ちょっ……どうしてこっちに来ますの!? なんなんですの!?」

 無言で駆けてくる羅門と、怯えて逃げ出す鳳凰院。牧村がわたわたしている間に、いつの間にか二人の鬼ごっこが始まっていた。

 怖いよな、無言で走ってくる羅門。満面の笑みだったし。

「こっちに来ないでくださいましーーーーーー!」

 つーかあいつなんだかんだで鳳凰院に相当懐いてる節あるよな……。

「……鳳凰院って犬駄目だっけ?」

「前に猫の方が好きとは言ってたけど……」

「詩織は?」

「犬」

「……よし」

「一応言っておくけど羅門君は犬に入らないわよ」

 やはり世話役は俺しかいないらしい。

 話している内に、鳳凰院も羅門も校舎の中へと走り去っていった。後で謝っとくか……。

 一部の生徒はまだ呆然としていたがとりあえずこれで広場には平和が戻った。俺もようやく焼きそばパンを食べられる。

「これで少しは落ち着いて話が出来るな」

「……アレのあとで何の話をするって言うのよ」

 言われてみればそうだ。過度に羅門慣れしているのは俺だけで、他の人はそうではない。羅門の奇行を見た後で何事もなかったかのように振る舞うのは、俺が思っているよりも難しいことなのかも知れない。

「そういや、前に話してた詩織の先輩、合否出たのか?」

 せめて話題はこちらが提供しようと思い、ひとまず思い出したことを適当に聞いてみる。

「ああ、美咲先輩のことね。無事に内定取れたみたいよ」

「詩織が結構心配してたから俺もちょっと気になってたんだよ」

「あの人ちょっとそそっかしいから……。工場の事務職らしいわよ。名前は忘れたけど……確か海音寺グループの下請けって」

「じゃあ結構デカいとこじゃないか?」

 海音寺グループと言えば、海音寺製作所を中心とした企業グループだ。何やってるかまでは覚えてない。

 そんな話をしていると、いつの間にか戻ってきた羅門が鳳凰院と一緒に正面に立っていた。

「お前何で鳳凰院追っかけたんだよ」

「一緒にご飯食べようと思って」

 先に言ってやれよそれは。

「ねえねえ何の話?」

「ん? 詩織の先輩が海音寺グループの下請け工場で内定取れたんだってよ」

「デ海音寺だね」

 く、くだらねえ……。

「……工場は結構大きいって言ってたわ。どこの部品だったっけ……」

 あまりのくだらなさにリアクションが取れず、詩織は話を戻す。

 海音寺は車のエンジン開発で有名な会社だったハズだ。作る部品も車に関係しているだろう。

「もし白凪町内でしたら、津中工業ですわね。デ海音寺の下請けでしたら車のエンジン関連だったと思うのですけど」

「お嬢様!? 今なんと!?」

 後ろで控えていた牧村が目を丸くしている。

 俺もだけど。

「ですから、かいお……あ……」

 どうやら素で羅門に引きずられたらしく、うっかりデ海音寺などと口にしてしまったことには気づいてなかったようだ。

 異様に嬉しそうな羅門の顔とは対象的に、鳳凰院は顔を赤らめながら目を泳がせている。

「……き、気にすんなよ。デ海音寺の一回や二回くらい誰でも言うだろ」

「そうよ。人生に一度くらいはオヤジギャグを自然に言う日があってもいいわよ」

「お、オヤジ…………?」

「こら詩織! オヤジギャグとか言うな!」

 詩織がオヤジギャグとかいうから鳳凰院が両手で顔を覆い始めてしまった。

「……ようこそ涼香。僕の領域ゾーンへ」

「わ、わたくしが……神宮羅門の……領域ゾーン……」

「入ってねえから安心しろ」

 そうそう簡単に入れてたまるか。

「……それにしても海音寺って妙に聞き覚えがあるな……」

 海音寺は大企業だ。所在地も白凪町に近いため、聞き覚えがあるのは当然と言えば当然なんだが……。

 なんだか妙な感じがしてひっかかる。

「……どうしたの? 何か気になるの?」

「いや、なんか変な感じしてな。まあ気のせいだろ」

 妙な引っかかりを残したまま、俺は焼きそばパンを頬張る。

 ふと見ると、羅門が妙に真剣な顔つきをしていたが、やがていつものアホ面に戻っていく。

「それより涼香! はやく弁当食べんとう!」

「お、おやめなさい! オヤジギャグはおやめなさい!」

「食べんとう!」

 いやまあ時間的にマジでそろそろ食べんとうなんだけどな。





 夏休みが終わって休み感覚が抜けてきた九月後半。学校全体が来月中旬の文化祭に向けて僅かに浮足立ち始めていた。

 来週にはうちのクラスでも出し物を決めるようで、それまでに何をやりたいか各自考えておくように、とのことだった。

「ねえねえ兄さん、兄さんは文化祭何がやりたい?」

 帰宅部の俺と羅門は、授業が終わればまっすぐ家に帰る。詩織は部活があるので、一緒に帰ることはほとんどない。

 二人並んで帰路に着きながら、いつものように他愛のない会話をする。自宅のアパートがある住宅街を歩きながら、俺達は文化祭の話をしていた。

「特に思いつかないな……去年何やったっけ」

 去年は岸田以外とはあまり付き合いがなく、クラス全体にはほとんど興味がなかった。

 出し物が何だったのかさえあやふやな辺り、相当どうでも良かったんだと思う。

 何か作ったような……。

「ああ、たこ焼きだ。去年はたこ焼きだったよ」

「兄さん何やったの? タコ?」

「バラバラに刻まれた俺が入った粉ものがうまいと思うか?」

「あんまり…………」

 こうやってついついタコの立場になってしまうと、たこ焼きが食べづらくなりそうで嫌だなこれ……。

「そういうお前は何かやりたいものあるのか?」

「うーん……」

 考え込む羅門を適当に待ちながら、俺も文化祭について考える。

 去年はともかく、今年はクラス内での交流も多い。

 今のクラスでみんなと何かするのは楽しそうだ。

「……ん?」

 不意に、脳裏を教室の光景がよぎる。

 だがそれがいつのことだったのかわからない。

 文化祭の出し物について話し合っている……? 去年の光景か?

 しかしそこには、去年は別のクラスだった詩織達の姿がある。

「……前もこんなことなかった?」

 そう言い出したのは羅門だ。

「前もって、お前去年はいなかっただろ。記憶戻ったのか?」

 神妙な面持ちで問う俺に、羅門はなんとも言えない表情を見せる。

「わからない……。でも、なんか前にも文化祭の出し物について考えたことがある気がする。あのクラスで」

「そんなわけあるか……?」

 そうは言いつつも、同じような感覚が俺にもある。

 詩織と海音寺の話をした時と似たような感じだった。

「……うん、ハッキリしてきた。僕、文化祭の出し物話し合ったことあるよ」

「そんな馬鹿な……」

 だが俺も段々とハッキリ思い出し始めている。

 そう、確かあの時の出し物は……

「メイド喫茶だ!」

「演劇になった!」

 同時に口にして、俺達は顔を見合わせて眉をひそめる。

「兄さんメイド好きだったんだ……」

「いや、チャイナドレスのほうが好きっつったろ前に」

 今はそこじゃないだろ。

 なんだこの気持ち悪い感じ。

 デジャヴにしてはハッキリし過ぎている。羅門の方も、メイドに言及しつつも顔をしかめていた。

「あ!」

「どうした?」

 不意に、羅門が大声を出す。何かわかったのかと思ったが、次に羅門の口から飛び出したのは突拍子もない言葉だった。

「デロリアンが空飛んでる!」

「お前なぁ……」

 ついさっきまで真面目に話ししてたかと思ったらこれだ。

 呆れてため息をつく俺だったが、羅門はしつこく食い下がる。

「兄さん見て! デロリアンが!」

「なんなんだよさっきから。そんな引っ張る話――――」

 しかし羅門の指先を見て俺は絶句した。

「デロリアンが空飛んでる!」

「ね!?」

 いつだったか映画か何かで見た、銀色の車体が本当に空を飛んでいる。

 しかもどういうわけかこちらに向かってきているのだ。

「なんだ……!?」

 思わず足を止める俺と羅門の前に、デロリアンはゆっくりと着陸する。

 そしてピーピーと音を鳴らしながらバックで路肩に停車した。

「ちゃんと路肩に停めてる……」

 そしてデロリアンの扉の片方が音を立てながら開く。あの独特の開き方は紛れもなくデロリアンだ。

 運転席に乗っているのは黒髪の女だ。顔立ちは少し幼いが、体格的に俺達より年上くらいに見える。

 中からピンク色の足が出てきた。

「見つけたわよ!」

 デロリアンの中から現れたのは、ピンク色のライダースーツのようなものを着込んだ女だった。

「神聖神宮帝国皇帝神宮羅生……! あなたをここで殺す!」

 わけのわからないことを口走りながら、女が俺に銃口を向けた。


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