32話 拳聖の弟子
ノックダウンした四人の傭兵は、駆け付けた衛兵に連れて行かれた。
冒険者の男は、助けて貰った給仕の女性や、周りの客達の証言もあり、お咎めなしで軽く注意だけされて解放された。
助けられた給仕の女性は、しきりにお礼を言っており冒険者の男は、気にするなと言い食事に戻る。
サービスとして肉のステーキを追加で出されていた。
「どうする?」
「騒ぎも収まりましたし、戻りますか?」
「そうだな。戻ろうか」
3人が踵を返そうとした時、冒険者の男が「そこの3人。私に何か御用が?」と声を掛けられた。
振り返ると、食事の手を止めてこちらを見て来る、冒険者の男が居た。
どうする?とトバイアス卿とケインが目配せして、代表してトバイアス卿が話すことにした。
「先ずは不躾な視線を向けた事を謝ろう。すまなかったな」
ジョンは軽く頭を下げる。
「それにしても、貴殿は拳聖殿のお弟子さんかな?」
「確かに、私は拳聖であるマール老師の弟子のダッカスだ」
「何故、拳聖殿の弟子が冒険者を?それとも元々冒険者であったのか?おっと、失礼。その前に名乗っていなかったな。すまないが、訳あって名を明かす事は出来ない」
「構わない。それと私は元々冒険者ではなく、ある事情で一時的に冒険者になっているだけで、目的を果たせば、道場に戻る予定だ」
「お互いに事情があるようだな。知り合ったのも何かの縁だ。後日また飲みにでもどうだ?」
「いいだろう。それにしても良い筋肉だ。今度鍛え方を教えてくれ」
「勿論だ。そちらも中々のものだな。ではまた」
ガシッと二人は握手をする。
何やら友情が芽生えたようだ。
それにしてもお互いに、筋肉が好きなのだろうか?
確かに二人の見た目はゴリマッチョではある。
3人はダッカスと別れて二階に戻る。
「下の騒ぎは何でしたか?」
エミリアがトバイアス卿に質問する。
「若い傭兵の者達が、給仕の女性にちょっかいを掛けていましたが、居合わせた冒険者が解決してくれました」
「そうですか」
ホッとした安堵の表情を見せる。
「ん?トバイアス卿は何故嬉しそうなのですか?」
トバイアス卿の表情に気づいたローラがそう聞く。
「うむ、実はその冒険者と言うのが、何を隠そう拳聖殿のお弟子のダッカス殿でな。素晴らしく方であった。是非酒を酌み交わして見たいと思ったものだ。それに身体も鍛えられており、良い筋肉であったな」
やはりトバイアス卿は、筋肉が好きなんだろうか?
「は、はぁ」
トバイアス卿の良い筋肉発言に、ローラはどう答えれば良いのか、わからない困惑顔であった。
「取り敢えず、騒ぎは収まったのですね」
ジェシカがフォローする。
この話は何とかこれで終わった。まだ話し足りなそうにしていたトバイアス卿も、流石に主君であるエミリアの手前、我儘を言うわけにはいかなかった。
「では、そろそろ我々も店を出ますか」
「そうですね」
会計を済ませて、宿り木亭を出て踊る猫亭に戻る。
それぞれ楽な格好に着替えて、好きな時間を過ごす。
ジョンはトバイアス卿に連れられて、裏庭で剣の稽古をしていた。
ジェシカも行きたそうだったが、エミリアの護衛もあるので我慢していると、ルーラが変わると言ってくれたので、礼を行ってから嬉しそうに裏庭に向かって行った。
エミリアは部屋で、ルーラやローラと一緒にお茶を飲んでリラックスしており、マーカスは自分の商会の支店へと出掛けて行った。
手持ち無沙汰となったケインは、適当に街をぶらつく事にした。
「さて、外に出て見たは良いが特に目的も無いからな。どうするか?」
暫く歩いていると本屋を見つけた。
「ふむ、現代と違って本は高級品だな」
値札を見てケインはそうごちる。
「あんたよそ者かい?」
店主の老婆が話しかけて来た。
「確かにこの国の人間ではないが、どうしてそう思ったのだ?」
「先ずは格好だね。この国では見ないデザインの服さ。それに何というか雰囲気かね?」
「ほう、それは気付かなかった」
「まあ、長生きした者の特権かね?それでそんなに熱心に本を見つめてるんなら、図書館に行ってみたらどうだい?」
「何?その様な物があるのか?」
「あるさ。大通りを西に行けば、大きな本のマークがあるから行って見な」
「本屋の店主が言っていいのか?」
「構わないよ。気が向いたらまた寄ってくれ。その時は何か買ってくれると嬉しいね」
「すまない助かるよ。是非また寄らせて貰う」
店主の老婆に礼を行って、言われた通りにケインは大通りを西へと進む。
心なしか、知的な感じの人が増えた様な気がする。
「アレが、老婆の言っていた図書館か。それにしても名前が、そのまま南方都市図書館なんだな」
現在にある図書館と言うよりも、柵に覆われて警備の兵士らしき者達がいるのを見て、ちょっとした要塞の様に思える。
正門の方へと移動する。
出る時のチェックは厳しそうだが、入るのは比較的簡単そうである。
冒険者ギルドのカードを見せて、中へと入る。




