31話 宿り木亭(2)
何とか、エミリアに許して貰ったジェシカは嬉しそうにまた食べていた。
本当にどれだけ食べるんだ?と思う。
それにしても、ジェシカは何故エミリアが怒ったのか理解していないようだ。
なのでまた、同じ様な失敗をするのは確実だと思われる。
怒っている理由を教えてあげた方が、良いのだろうか?
だが、同じ女性じゃない男性であるケインが伝えて良いものか。
他の男性陣に視線を向けると、トバイアス卿はスッと視線を逸らし、マーカスは失笑しておりジョンに至っては理解していないらしい。
取り敢えずこの件は後で考える事にする。(覚えているかは疑問ではある)
一通り食べ終わった所で、今後の予定について話し合う。
「それで、当初の予定ではここ南方都市で、十分に情報を集めてから王都へと向かう予定でしたが、ジャヌーブ伯爵と話した結果、思っていたよりも危機的状況だと思いました。なので、当初の予定を変更して、王都へ3日後ぐらいに行きたいと思いますが、皆さんの考えはどうでしょうか?」
エミリアの発言にルーラは「うーん、ここで焦ると駄目だと思うな。ボクはもう少し此処に滞在して、もっと情報を集めた方が良いと思うよ?」
「儂は王都とは言いませんが、もう少し王都に近い場所へ移動するべきかと、そちらの方がもっと情報を得られるでしょうな。ここには多くの密偵もいるようですし」
「でしたら、近い方が監視の目が厳しいのではないでしょうか?」
トバイアス卿の意見に、ローラがそう言うと「確かにその可能性は十分にある。しかし、此処よりは監視の目は少ないと思われる。それは南方都市の重要度と、ジャヌーブ伯爵がエミリア殿下の派閥の中で、一番影響力があるからである」とトバイアス卿が言う。
ルーラはもう意見する気はないのか、一人黙々とブルーベリーパイを食べている。
ケインもどちらでも良いので、黙って紅茶を飲んでいる。
ジョンは困った顔で、やりとりを見ている。
「なら、後数日間は此処に滞在して、その後に王都に違い街へ行きましょう」
「畏まりました」
話が纏まったので、料理を楽しむ。
デザートも食べ終わり、食後のコーヒーを楽しんでいると、何やら下が騒がしかった。
「何でしょうか?」
「わかりませんが、エミリア様は此処を動かないで下さい。トバイアス卿」
「うむ、様子を見てこよう。ジョン行くぞ」
「は、はい!」
トバイアス卿とジョンが席を立ち、様子を見に行く。
ケインも後をついて行く。
下に降り騒ぎの原因を探ると、どうやら喧嘩の様である。
喧嘩しているのは、見るからに冒険者の男と傭兵の男達である。
「これだから傭兵は。ガラが悪いと言われるのだ。お前達の行動のせいで、我々冒険者も同一視されて迷惑なのだよ」
「あぁん?何だとオッさん!俺達が居ないとこの辺りは盗賊で溢れ返るぜ?その対価として少しぐらい遊んでも文句はねぇだろ?」
周りの客から話を聞くと、どうやら傭兵達は此処の給仕の娘にちょっかいをかけて、それを冒険者の男が庇ったのが発端らしい。
それにしても、素人に毛が生えた程度の傭兵達と違い、冒険者の男は実戦を潜り抜けて来た者、特有の気配を感じる。
数の上では4対1と不利だが、冒険者の男が勝つだろう。
大人と子供ぐらいの力量差である。
「どうしますか?」
ジョンがトバイアス卿に判断を仰ぐ。
「ふむ、少しばかり見ていよう。何、危なそうになれば介入するぞ」
暫く成り行きを見守る事にした。
「それにしても彼奴らは、力量差もわからないとは、戦場に出れば真っ先に死ぬな」
「ああ、大方数が多いから、何とでもなると思っているのだろう。それに多分農村の出だろう」
「ほう、何故そう思うのだ?」
「簡単だ。筋肉のつき方を見ればわかる。アレは田畑を耕して出来た筋肉だろうな。だが、所々サボっていたのだろうよ。あまり発達していないからな」
「なるほどの。ジョンはどうだ?」
「全くわかりませんでしたが、多分田舎の出だろうな。ぐらいですかね」
「ほう、何故そう思った」
「僕自身が王都近くの村の出ですので、何となくですけどわかりました」
「なるほど」
そうやって話している間にも、事態は進んで行く。
傭兵の若者達が、遂に武器に手を掛けたのである。
流石にコレには、周りで囃し立てたりしていた野次馬達も一歩、二歩と後退りする。
「トバイアス卿。行きましょう!」
ジョンが飛び出して行こうとしたが、その肩にトバイアス卿は手を置いて「まあ、待ちなさい。もう直ぐ終わる」とだけ言い、視線は冒険者の男を見ていた。
トバイアス卿の言葉通り、決着はすぐについた。
傭兵達が武器を抜こうとするよりも早く、冒険者の男は正確に傭兵達の急所に一撃をお見舞いして、ノックダウンさせる。
「良い動きだな」
その動きはケインにボクシングを連想させた。
だが、この世界にボクシングはないので、似たような武術なのだろうと解釈する。
「あの動きは……」
「心当たりが?」
「うむ、拳聖と呼ばれる拳を極めたとされる、老師の流派に似ていてな。もしかすると彼は拳聖の弟子かその縁者かも知れんな」
「ほう、拳聖か。それは強いのか?」
「当たり前だ。聖を持つ称号を与えられるのは、その道を極めたただ一人にだけ与えられる称号だ。強くて当然だ」
「良い情報を聞けた」
ケインは満足そうな顔をする。
それにしても、今のは10分の1の力も出していないだろう。
少しだけケインの琴線に触れたので、是非とも戦って見たいが、今は注目は避けるべき段階なので、グッと堪えるしか無い。
何処かでこの昂りを収め無ければならないだろう。
後日近くの魔物の巣が一つ壊滅したと、風の噂で流れて来たが、とても人間業には思えず強力な魔物が現れたのでは?と騒ぎになり捜索隊が組まれたのは、別の話である。
妙にスッキリとした顔の、冒険者が一人居たとか居ないとか………。




