30話 宿り木亭(1)
南方都市はアルカランス王国でも、最大級の交易都市でもあるので、異国情緒あふれる街並みであり、様々な地方や国の特産品も集まる為に、珍しい食べ物も多く思わず目移りしてしまう。
今回はマーカスオススメの、海鮮料理を扱った店へと行く。
海鮮料理は、港町ポートでも食べたが、此処はそれ以上の種類の豊富さを感じる品揃えの多さである。
「此処です」
マーカスの馬車で到着したのは、一軒の定食屋であった。
「意外ですか?」
マーカスが皆の反応を見てそう聞いてくる。
「え?は、はい!マーカスさんはオルベラン商会の会頭さんですので、高級店かと思ってました?」
偶々マーカスの対面の席に座っていたジョンが、慌てた様にそう答える。
「ふふ、確かに。大事な会食などではそう言った店を利用しますが、我が家の家訓は『初心忘るべからず』ですので最初の頃は、片田舎にある小さな商会でしたのでね。なので、こう言った店にも時折行きますし、私は現場を知りたいので時々行商人の真似事をしてましてね」
「そ、そうなんですか?オルベラン商会はアルカランス王国でも、とても大きな商会なので想像出来ませんよ」
「大抵の人はそうかも知れませんね。さて、そろそろ降りましょうか。皆さんお腹がすいてるでしょうしね」
マーカスに同意して、馬車から降りる。
「では、入りましょうか」
「その前にマーカス殿。この服装でも大丈夫なのか?」
トバイアス卿達の服装は、南方伯ジャヌーブ伯爵に会う為に、今現在は正装姿である。
「ああ、失礼しました。中は個室があるので大丈夫ですけど、やはりそのままでは目立ちますね。着替えてしまいましょうか。あの宿の女将とは親しくさせて貰ってますので、少しお待ち下さい」
すぐ近くの宿屋へと入る。
数分でマーカスが戻って来た。
「着替えに使うだけなら、料金も要らないとの事です。どうぞ」
案内されて宿で普通の服に着替える。
一応馬車の中には入れて置いたのである。
着替え終わると、早速店の中へと入る。
「まあまあ、マーカスさん。宿り木亭にようこそ。お久しぶりですね」
「ええ、お久しぶりです。ミリーさん。すいませんが個室は空いてますかね?」
「ええ、大丈夫ですよ」
ミリーさんに案内されて、二階の個室へと案内される。
「中々綺麗な店だな」
「ええ、完全防音ですので密会にも持ってこいですよ」
冗談混じりにマーカスがトバイアス卿へそう返す。
トバイアス卿は苦笑する他ない。
それぞれが席に着きメニューを開く。
「へぇ、結構豊富だね」
ルーラの言葉に、エミリア達は同意する。
「ふぅ、それにしても緊張しました。倒れるかと思いましたよ」
「流石にジョンには厳しかったな。まあ、顔合わせも住んだことだし、次からは宿で待機していて大丈夫だ」
「それを聞いて安心しました。次は確実に倒れる自信がありましたから」
確かにジョンは緊張で、かなり危険な顔色をしていた。
「これからも今回の様な事が、あるかもしれんからな。これから少しずつ鍛えんとな」
ジョンは道中トバイアス卿から、剣の手ほどきを受けており弟子と言える感じであった。
なので、トバイアス卿は今度は剣以外にも鍛えようとしていた。
「いえいえ!剣だけで十分です!それに自分は一般兵ですから、今回の旅が終われば普通の兵士に戻りますよ」
「そうなのですか?ジョンさんさえ良ければ、私の護衛の一人にしたかったのですが」
悲しそうに年下の、それも王女に言われてジョンに断る選択肢はなかった。
ケインはエミリアが僅かに、ニヤついた事を見逃さなかった。
からかい半分後は本当なのだろう。
「皆さん。そろそろ何か注文しませんか?ジェシカさんとルーラさんが限界みたいですよ」
言われて二人を見れば、テーブルに突っ伏していた。
ジェシカのお腹から「キュルルル」と可愛らしい音が鳴り、ルーラも「ごはん〜ごはん〜」と言っていたので、話を一旦切り上げて料理を注文する事にした。
それぞれが頼む物が決まれば、テーブルに設置してあるベルを鳴らす。
するとノックされて扉が開き、給仕の女性が現れる。
「はい、ご注文は如何致しますか?」
マーカスが代表して、それぞれの好みの食べ物と飲み物を注文して行く。
料理が運ばれて来るまで、暫し談笑していると料理が届けられる。
「さて、食べましょうか。味は保証しますよ」
早速とばかりに、ルーラとジェシカがナイフとフォークを使い料理を食べ始める。
ケインも頼んだ厚切りステーキを食べる。
噛むと肉汁がジュワと、口いっぱいに広がりシンプルに故障だけで焼き上げているので、素材の味が十分に感じられる。
程よい焼き加減で、肉はとても柔らかく殆ど噛む必要さえ感じない。
付け合わせのサラダも新鮮で美味しく、魚介スープとパンも美味しい。
他にも、パスタも美味しく、よくわからない料理もあったが、どれもとても美味しい。
ある程度食べ終えたところで、今後について話し合う。
それにしてもジェシカとルーラの食欲は凄いな。軽くステーキを二人とも5枚も平らげており、他にも料理を頼んでいた。
そう言うケインも、軽くステーキを8枚食べていた。
「ジェシカ。そんなに食べて大丈夫?」
「はい!大丈夫です姫様。私は普段から身体を動かしますしね。それにどう言うわけか一向に太りませんから。身長が伸びて欲しいのですが、何故か胸だけが大きくなるのですよね」
確かに15歳にしては、ジェシカの胸は重巡洋艦級である。
それを聞いたエミリアは、自身の胸に手を当てる。
ペターンとする胸を見て、エミリアはジェシカに暗い笑みを浮かべて「そんなに食べたなら、晩御飯はいらないわね」と可愛らしく言う。
「そ、そんな!姫様〜」
どうやらエミリアの地雷を踏んだようだ。




