19話 港町ポート(4)
甲板では忙しなく船員が荷物の積み上げを行なっていた。
「こっちです。離れずに付いて来て下さい」
案内の船員に付いて船の中へと入る。
船内は暗く、所々にランプが点灯しているがそれでも薄暗く潮の香りがする。
天井も低く狭いので、大柄な体格のトバイアス卿は窮屈そうである。
逆に小柄なエミリアには負担は無く丁度良い大きさの様だ。
「この三つの部屋をお使い下さい。すみませんが一人他の乗客も一緒になります。その方は女性ですので」と言って案内をしてくれた船員は仕事に戻って行く。
取り敢えず船室を開けると、中に一人のエルフの女性がいた。
「あ!初めましてミカーニャよ。短い間だけどよろし………あれ!貴方ケインじゃない!奇遇ね!」
中にいたのは昨日助けたエルフのミカーニャであった。
「ああ、ミカーニャもこの船に乗っていたのか」
「ええ、そうだ!貴方はポートに着いたらまた移動するのかしら?」
「いや、暫くはポートに居るつもりだ」
「良かった。なら10日ぐらい待ってて頂戴。用事を済ませたら戻って来て必ずお礼をするから」
「ああ、わかった」
二人の話について行けずに、頭に?マークをつけた者達を見てミカーニャが「ああ、ケインには危ないところを助けてもらったの」
「まあ、ミカーニャの実力があれば一人でも切り抜けられたんじゃないか?」
「実はあの時は、殆ど魔力がカラでね。流石に一人であの人数はキツかったわ。だから助かったのは事実よ」
「そうか」
「そんな事があったんだね」
ルーラが感心した様な表情で告げる。
「なんだ?」
「いや、ケインってドライだから損得感情だけで動いている印象を受けたからね」
「そうか?まあ、あの時は気分が良かったのは事実だからな。そうじゃなければ無視してたかもしれん」
その言葉にさもありなん。とエミリア達は思う。
数週間一緒に旅をして、ケインと言う人物をある程度知ったからこその感想だろう。
ここ迄来る途中に何度か魔物に襲われている者達を見かけたが、それを無視する事の方が多かった。
因みにケイン達の何事も無くとは、多少の魔物や盗賊は相手にもならないからである。
その後自己紹介(偽名)をして、直ぐにエミリア達は仲良くなった。
ここから港町ポートまでは、最短で10日で通常だと12日ほどらしい。
最長でも15日ほどであるので、約二週間近くは船の上である。
60メートル級と大型のキャラック船ではあるが、所狭しと積荷が乗せられているので意外と船内は狭い。
なのでエミリア達は基本的に船室にいるか、甲板で海風に当たったり海を眺めたりして過ごした。
途中何回か海の魔物もやって来たが、それ専用の冒険者が護衛に雇われており、手早く始末していた。
その様子を眺めて暇を潰していた。
護衛の冒険者は全員が水魔法の使い手であった、万が一海に落ちた場合は海水を操り素早く船に戻る様に日頃から訓練をしているらしい。
何せ海に落ちればすぐに水棲の魔物が襲い掛かってくるので、素早く脱出しなければ骨まで食べられてしまうからである。
そして問題なく航海してから、6日目の昼にソレは起こった。
船の見張り台から魔物発見の鐘が鳴らされる。
慣れた動きで船員や護衛の冒険者が、魔物の撃退準備に入ったが、現れた魔物を見て顔を青褪める。
「やばい!シーサーペントだ!しかも通常の個体よりも大きいぞ!」
シーサーペントは海の魔物を代表する一つであり、船乗りからは恐れられている魔物である。
その体長は通常の個体で20メートル以上あり、小さな船なら一たまりもない。
このキャラック船も大きいが、巻き付かれたら沈没の可能性もある。
それに今回現れたのは通常よりも大きな30メートル級である。
「大銛を用意しろ!狙いを付け次第放て!近付けさせるな!」
普段のある程度余裕の持った態度とは違い、切羽詰まった様な言葉で船長であるダイラスが部下達に命令を下して行く。
護衛の冒険者達も魔法や弓で牽制射撃を開始する。
「すまねえが、客人の人達にもお手伝い願いたい。魔法が使える人がいたら手を貸してくれ」
ダイラス船長にも頼まれたので、ルーラとミカーニャそれにケインが手を貸す事にした。
トバイアス卿とジェシカも魔法は使えるが、近接系の魔法が得意であり更に二人とも火魔法が得意なので船だと火災の心配もあるので遠慮してもらう。
ローラも使えるらしいが、治癒魔法が得意で遠距離系は苦手らしい。
マーカスは魔法が使えない。
エミリアも使えるが、流石に戦ってもらう訳には行かないので船室で大人しくしてて貰うつもりである。
「不味いな。見ろアイツのシーサーペントの後ろから他の魔物も寄って来てやがる。お零れを狙っているんだろうな」
そうダイラスが呟く視線の先にはサメに良く似た10メートル級の魔物が複数船を中心に弧を描く様に遊泳していた。
他にも水棲の魔物がチラホラと集まり出している。
ただでさえシーサーペントと言う、海上で戦うのには難敵な魔物がいるのにそれ以外の魔物の相手をしなければならないのは、流石にキツイのだろう。