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8―メイドさんと初めての夜




「………おっしゃっている意味がわかりません」


「そんままの意味、この国潰すの手伝ってくれ」



自分でもわかるくらい悪い顔をして、差し出していた手をおろす。



「失礼ながら、貴方個人に国と戦う力があるとは思えませんが…」



なるほど、確かな論だ。

まず間違いなく、現状のステータス値だけじゃあ圧倒されるだろう。

俺とてこんな貧相なステータスでやり合えるとは思っていない。



「でも、その心配は無用だぞ」



協力者ができるチャンスなんだ、出し惜しみはせずに力の一端を見せる事にする。



「魔導回路、限定中速流動」



ファンのような始動音を部屋に響かせて、左腕だけが淡い青色の燐光を放つ。

俺は薄く透き通った回路の走る左腕を、自慢げに掲げて見せた。



「珍しいだろ? これ。魔導回路って名称だ」



ノーシャは物珍しそうに、でも警戒は解かず、離れた位置で両手を重ねてジッとこちらを監視中。


魔導回路にはいくつか面白い使い方がある。

これもその一つで、血流と共に走った魔導回路を通常よりも速く循環させることで、魔力を消費する事なく全身を覆うことを可能とする。

そうして外皮のように纏った魔力は全身の強度を強化する事に繋がり、加えて魔力を電気に変換して筋肉に電気刺激を与えることで、運動能力も上げる事ができる。


デメリットは全身が光るくらいのもんだが、それすらも、なにも知らないこっちの世界じゃあ威圧としてちょうどいい。

と、こんだけベタ褒めしといてなんだが、あっちの世界の連中は生まれたころからこの力を使えるので、俺らにとっちゃ珍しくもない、悲しいね。


考え事も程々に、魔力が左腕に十分通ってきたので、2、3回腕を捻って調子を確かめた。

問題はなし、準備は万端。



「そんじゃやるか、機装腕!」



魔力で覆った腕を真横に叩きつけ、相棒の名を叫ぶ。



「な、なにが起こって?」



直後、なにもなかったはずの直撃箇所から鈍い音が鳴り、叩きつけられた箇所を中心に空間が波打ち、数秒としない内に、世界と世界を渡る程の魔力に耐えきれなかった波動の中心部は破砕音を立てて大きく割れた。



「えぇ!?」



ノーシャの鋭かった目元が大きく見開かれ、今起こっている現象の驚愕度合いがどれほどのものか教えてくれる。



「はははぁあっぶないって!?」


「チッ」



まるで前の異世界に訪れた瞬間の俺を見ているようで笑ってしまい、おかげでどこから取り出したのか1本のナイフが首筋に突き立てられる。

結果的には結界魔法の効果で最初と同じく、砕かれて終わったが、少しヒヤッとしたのは内緒だ。



『ピピ』


「っ!」


「おっ、来たか相棒」



異世界にはおよそ似つかわしくない電子音を鳴らし、見た目には裂けている感じの謎の黒い空間の中から一本の左腕が現れる。

ノーシャは窓際まで後退、一方の俺は、魔力を感じる機械の腕と対峙して触れない程度に手をかざした。



『ピピ、生体認証。

個体番号001、個体名:カミシロ・ゼン。

年齢、魔力量、他数点の差違を確認、管理コードを入力してください』


「コード入力、ZK-M058N197G99-RS」



ハイフンまでしっかり言語として発し、認証を待つ。

傍目にはピロリロ鳴っているヘンテコな黒い腕に、これまた謎の言語で話しかけてる変な男だ。



『権利認証、クリア。

対象を管理者、上城 禅と認識しました。

機装、展開、装ちゃ――』


「あー、ちょっと待ってくれ」



重々しい音で機装腕がバラバラになり、かざした左腕を覆い更に胴体まで伸びてこようとする。

それを空いている右手でノックして止めた。



「言い忘れていたが20パーセント、左腕だけで構わない。これ以上あげても今の身じゃ扱いきれん」



20パーセントと場所指定の指令(オーダー)を通しておく。

伸び途中だった機械の装甲は鎖骨辺りの肩付近で動きを止め、再びピロリロと電波音を発し始めた。



『――了解。

侵食率20%、装着、起動。

準備、完了しました』


「ご苦労」



労いの言葉を送って、機械の装甲を撫でる。


わざわざ次元の狭間に置き去ったのに、またこうして一緒になるなんて、もうこの際異世界に呼び戻されるのとか考えても無駄だから良いんだけどさ、頭を抱えたくなるわ。



「さて」



呼び出しただけで、なにかが終わったわけじゃない。

むしろこれは始まりであり、ここからが本番だ。



「ここまで見せて、もう一度あんたに質問だ」



左腕を見せながら、姿勢を改めたノーシャと向き合う。



「俺に付く気はないか?」



言いながら、今度は左手を差し出す。

ほんの一瞬、逡巡する様子を見せたノーシャは、俺の手は取らず、手をあげた。



「本当にこの国と戦争をするおつもりですか?」


「ああ、この国は腐りきってるからな、残念かもしれないが確実に潰す」



躊躇いも、迷いもなく即答。

これは俺の中で既に確定している事で、今更俺自身の中で確認するまでもない答えだった。



「……協力すれば、私の家族の安全は確保される、と思ってもよろしいでしょうか?」



なるほどな、考えている事はだいたいわかった。

だが。



「国に深く関わってたり、犯罪者だったりした場合はわからん」



国の政策に関わってる連中は全員始末する予定だし、犯罪者はそもそも生かす理由がない。

そこだけはハッキリ名言して伝える。



「では問題ないですね、私の身分は平民、家族も(みな)農家の出で平民ですから」



その言葉が答えだった。



「オーケー、それが本当なら安全は保障しよう。一応、家族全員の顔や名前を把握したいから血を一滴貰ってもいいか?」


「どうぞ」



躊躇なく親指の先を噛み切って、機械に包まれた手の平へと雫を垂らす。



「機装腕、この血液と同じ遺伝子を持つ者をリストアップしてくれ」


『了解』


「俺はこっちだな」


「流れるように手を掴まないでください」



ジトッとした目で見られるが、気にしない。

俺は引っ込める力に抗いながら、右手に魔力を集中する。

手で覆われていて具合はわからないが、傷は完治した。

ノーシャもそれに気付いたのか、感心したような表情を浮かべている。


ふむ、こうして間近で見ると、ノーシャは美人だ。

金髪はシャンデリアの光を反射してキラキラと光り、梳いたら気持ちよさそうだし、髪の色より少し暗いが、長いまつ毛も色っぽくて魅力的だ。

金色の瞳は深い知性を感じさせ、彼女が興味津々で手を見つめる姿には不思議とあるはずのない母性をくすぐられる。

子供すらいないっていうのにな。



「……………」



しばらくの間無言で見つめていると、ふと顔を上げたノーシャと目が合った。

何を思って、何を感じたのか、その頬には赤みが差して、俺は――



『リストアップ、完了しました』



――電子音で、現実に引き戻された。

掴んだままだった手を離して、機装腕の装甲表面に備え付けられた小さなディスプレイを素早く操作、ノーシャとの間に仮想ディスプレイを表示する。


表示されている情報は様々だが。

父親の名前はノーダス、農家出身。

母親も同じく農家出身で、名前はシャルアーネ。得意料理は大豆ハンバーグ。

娘は一人で、名前はノーシャ。冒険者稼業で斥候をやっていたところ、容姿と実力を認められ第三王女からメイドにヘッドハンティング、と、あえて抜粋するならこんなところか。



「なるほど、至って普通の家庭だ。これなら誓って安全は保障しよう」



仮想ディスプレイを消し去り、顔を逸らしたノーシャにそう告げる。



「いっぱい書いてたみたいだけれど、なんて書いてあったの」


「今までの人生の履歴みたいなもんだ、詳細まで乗ってるぞ、例えばノーシャがまだ処じぐはっ!」



喋ってる最中に殴られて、ベッドに吹き飛ばされた。

顔は魔力で強化されてない部位なのでとても痛い。

でもそれを優しく包み込むベッド、なんて包容力。



「魔導回路、通常流動。機装腕は腕輪にでもなって行動の阻害にならない状態になってくれふぁ、んん」



暖かく包まれて、抗う気力もなく体をベッドに沈ませる。

それはもう能力全部切ってぶっ倒れるくらいに。

ノーシャはさっきの仕返しか、笑いを堪えるかのように口元に手を当ててこちらを見ていた。



「あら、もう眠いの? お子様みたいね」



お子様、表現的には正しい。

現在時刻は夜の9時、普段なら全然起きていても問題ないくらい元気なわけだが、今日の俺はそもそもが違った。



「まだ新しい身体に(・・・・・・)馴染んでないんだよ。ともかく今日はこれでお開きにする、本格的に眠い」



一度体を沈めてしまうと、心地良い眠気が容赦なく襲い来る。

もうやりたいことはやってしまったし、今日はここらで寝ても問題はあるまい。



「ひとまず今まで通りにしててくれ、指令は追って出す」


「わかったわ」



ノーシャの了承の声を聞きながら、俺の意識はゆっくりと暗闇に支配された。




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