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6―覆らん宣告、残酷だね




王女様と七人の騎士に案内されるがまま、謁見の間とやらに通されて、中央に敷かれた赤い絨毯を歩かされているほんの数瞬の間。

玉座と呼ぶに相応しい場所に座った男を見て、理解した。


この王、愚かなタイプじゃん。



「よく来たな、異世界の勇者達よ」



頭を抱えたくなる思いのまま、謁見の間中央に来てしまった。

隠す気がないのか、隠す事すらできないのか、驕りに満ちた傲慢な表情。

こちらを見下しに見下して、横っ腹含めて舐め腐った態度。

どれをとっても苛立ちしか覚えない。


そんな王を真正面から捉えた俺は――みんなを置いて前に出、即座に跪いた。


これには驚いたのか、王どころか付近に並んでいた大臣らしき人物、絨毯から離れて左右の壁に並んだ甲冑騎士達でさえも言葉を失っていた。

ちなみにクラスメイトもだ。



「其方は?」



一番最初に気を取り戻したのは、意外にも王。

いや、王以外の人間にはこの場で発言する権限を持たないだけかもしれないが。

少なくとも、王は俺の態度に良い印象を覚えたようで、薄く笑みを浮かべている。

正直気持ち悪いが今更引き下がれん、覚悟を決めろ俺。



「ハッ、私の名は上城禅、あちらの世界の一介の庶民でございます。国王様、我らは国王様のように聡明な方々に謁見すらした事のない凡庸な身。失礼を承知で申します、我々の無礼な態度をお許しください」



こうべを垂れたまま、それほど大きくもないのに俺の声が謁見の間よく通る。

それから何秒、何分、無言の時間が続いたのか。

たいして緊張してるわけじゃなかったが、少しだけ返答は遅く感じた。



「よい、許そう」


「ご配慮感謝いたします」



王の言葉にもう一度深く頭を下げ立ち上がると、集団に埋もれる形で元の位置まで下がる。

周りのクラスメイト達からは白い目で見られるわけだが、こればかりは先行して勝手やったんだから仕方がない。


もちろん、あれらは全て演技だ。

見極めるための、いわば布石のようなもの。


この国は果たして、善か、悪か。



「して、代表は誰だ」


「は、はい自分です! お初にお目にかかります、野上勇助と申します。野上が性で、勇助が名前です」



紗知に背中を押されて、僅かにドモりながらも手を挙げる勇助。

若干、側近らしき人物が前に出たが、すぐに王に手で制されて後ろに下がった。

ご機嫌取りをした甲斐があったな。



「私はアーデウス王国国王、バルツ・エルト・アーデウスだ。其方らにはこの世界を脅かす12人の魔王を討伐してもらいたい」



なんで王様っていう種類の人間は、どこもこう余の命は通って当たり前、みたいな雰囲気で話を進めるのかね。

どの道相手がこれじゃあ交渉の余地なんてないわけだが、こういう空気はちょっと気に食わない。


あと12人? 魔王サイドも王国のように一つ一つ国があるってパターンかね……う~ん、考えてても仕方ないな、魔王に関しては己の目で見て確かめるとしよう。



「ちょ、ちょっと待ってください! 俺達には戦う力なんて…」


「貴様ッ! 不敬であろう!」


「よい」



看過できない発言だったのか側近が飛び出すが、王様が手で制して、とまた同じことを繰り返す。


それはそうと、勇助が懸念している点はおそらく問題ない。

気付いてるやつも多いが、こっちに来てから身体がアホみたいに軽い上に、元の世界にゃほとんどなかったはずの魔力が相当量内包されてる。

俺は元々転移分の魔力を吸ってて体が軽いから、あんまりそういう気分じゃない。

けど多分、ここにいる全員体が絶好調なのは感じてる事だろう。


転移する際に何らかの形で外部から力を加えられたのか、それとも肉体自体が改変されたのか。

どうにもわからない事が多すぎるが、俺達が日本にいた時よりも圧倒的な力を持っている事には間違いない。



「安心せい、後程確認に行かせるが、其方らには天から祝福として、類稀なる才能値と突出した力を与えられているはずじゃ」



確認に行かせることが確定事項なのはともかく、才能値……聞き慣れない言葉だ、それがこの国での指標か。

なんかの力も与えられてるらしいが、今のところそれらしいモノはわからない、あちら側が確認させてくれるというだからそれで判断だな。


それと、うちの勇助はそんなんじゃ止まらない。



「それでもです! 俺達は戦いのない世界からやってきました! そんな俺達にいきなり世界の脅威を取り除けなんて…」



勇助の言葉は、後半で尻すぼみになっていくが、実際その論は正しい。

前髪くんや勇助、紗知含めクラスメイトにいきなり戦いを強要しても、使い物にならない事くらいわかってるはずだ。

だからそれはこれから説明してくれ――。



「ふん、もちろん、受けるも断るも其方ら次第じゃ。じゃが、受けぬと言うならすぐにここからは出て行ってもらう。餞別として剣と金くらいはくれてやろう」


「なっ!?」



驚きの声をあげたのは、勇助だけじゃない。

放課後、あのクラスに残っていた24名の大半が、その言葉に少なからずショックを受けた。



「はぁ」



ため息が出る。

面倒くさそうに腹をさすったかと思えば、なんの説明もなしにいきなり決断を下せだと、まったく面倒だ。



「待ってくださいお父様」


「王女様!」



そこに待ったをかける王女様。

勇助はそれに救いを見つけたかのような顔をするが。


残念勇助、そいつもハズレだ。



「理解を持たない強大な力を野放しにするのは危険です。最悪、処刑することもご一考くださいませ」



……開いた口が塞がらない、とは今の勇助のためにあるんだろう、陸に上げられた魚のように口をパクパクさせている。

俺はというと、結構落ち着いていた。

最初からそれほど期待をしてたわけじゃないし、勇助が前に出た時、王女様の仮面を見た時点で国がどういうもんかも予想してた。


どれもこれも、想定内の話しだ。



「ま、待ってくれ王女様! そんなのおかしいじゃないか!」


「では、勇者様方はご自身の力が如何程か、把握していらっしゃるのですか?」


「いやそれは…」


「お気づきでないなら申しますが、勇者様方の力は国民を容易く死に至らしめます。その危険性をどうかご理解ください」


「でも処刑は…」


「可能性の話です。余程素行や態度が悪くない限りは、牢屋で静かに暮らしていただくつもりですよ」


「………」



王女様の笑顔に気圧されて、勇助はそれ以上語る口を持たないようだった。

クラスメイトは論外だ、傍観決め込んだやつらなぞ話し合いにすらならない。



(みな)、魔王討伐の件、受けてくれるな?」



王様から、覆しようのない宣告が下される。


『12人の魔王を倒せ。倒さないと言うならこの国からは追放する。倒さない癖に危険な力を持ってると今から行う事で確認が取れた場合、監禁もしくは処刑する』


みんなその事がわかっているから、誰一人として静寂を破る人間はいなかった。



「ふむ、では話は着いたな。これよりステータスを確認して来てもらう。ここにいる騎士、ユリウスに付いて行くといい」



俺達を一度見渡した王様は満足気にそう言うと、顎で出ていくよう促す。

これで俺達の命は、決まった。


同時にこの国の命も、決まった。



「ついてこい」



言われるから、そうするしかない。

そんな様子でクラスメイト達は、勇助を先頭に謁見の間から抜けていく。

流れに逆らわず、俺も最後尾にくっついて出ていく。



「クク」



最後尾に居た俺は、大扉から出る寸前、笑い声が聞こえた気がして振り返った。

視線の先には、玉座にふんぞり返って側近らしき男と話を続ける国王。



「「ハハハハハ」」



勘違い、ではなかった。

付近の連中も、堪えてはいるものも(みな)同じような表情で語り合っている。


人様を攫ってあの態度か……楽しそうでいいな、なんの代償もなく24人もの強力無比な兵隊を手に入れられた野郎どもは。


それでも、眼前に広がった光景を見てつい笑顔になる。



「オーケー、この国は悪だ」



どうしようもないこの状況下、俺の心は決まっていた。




魔王とやらを確かめる前に、まずはこの国を破壊する。




とうとうステータス確認、キタネ。

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