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4―あ~ぁ、また転移す――




癖っていうのは、案外抜けないもんだ。


こっちの世界に帰ってきて数日で、ソレを知覚した。

そして知覚を自覚すると後はもう芋づる式。


俺はこの世界でも、魔力(・・)を操作できるようになっていた。


魔力、向こうの世界ではマナ(・・)と呼ばれていた、空気中に存在する万能の粒子。

一つ一つは微粒子とも言えるほど小さいが、物質を構成する原子とは違う。


原子とは、それ単一で存在するものではなく、核やそれを取り巻く電子があって初めて原子として存在し、物質を構成、元素によって成立する。


対して魔力(マナ)は単一で構成、成立し、ナニモノにもその姿形、性質を変化させる。

それこそ一つの物質から自然の事象まで、ありとあらゆるものに。


この世界にも魔力はある。

物凄く、それはもう魔法なんて使えないくらい微量なものだが、俺の部屋だけは違った。

転移魔法陣が生み出された俺の部屋は、俺自身がそれを使えばもう一度あの時間のあの場所、あの異世界に転移できるだけの魔力が漂っていたんだ。

あっちの世界でも当初、異常な魔力検知と叫んだ罪で捕まったもんで、魔力の存在にはすぐ敏感になった、それが遺憾なく発揮されたと言っていいだろう。


その結果がこれだよ。


こっちに戻って数日は平穏な日常に喜びを噛みしめていて気付かなかったが、落ち着いてからはすぐに気付いちまった。

気付いたら気付いたで、めっちゃごく自然と魔力吸い取って操る事まで覚えてしまっていたし。




それで、なんでこんな話をしているのかと言うとだ。


教室の魔力濃度が、とうとう俺の部屋と同じくらい高まっているからです。


俺は今から起こる事が不吉でならない。

おぉ神よ、できることならば安心安全の転移系であってください、召喚系とか不安しかないです。アーメン。



「ぐぅ…」


「佐藤! 今のは本当に許さないぞ!」



俺の不安と願いを気にせず盛り上がっているのは、もはやいつもの事。



「ってーなぁ、突っかかってきたのはそいつだぜ?」



今回の騒動は、どうやら前髪くんがキレて佐藤に殴りかかったようで、佐藤はそれを一撃で返り討ちにしたらしい。

原因はいつもの通り佐藤の発言、よくある挑発だが家族を馬鹿にしたものだった。


勇助の前で起こったということで、さすがの勇助もお冠。

昨日は掴みかからん勢いだったのが、今日は胸倉を掴んで教室の窓に叩きつけている。

少しだけ忌々し気に睨んだ佐藤は、されどやり返さず、ニヤニヤと正当防衛を主張するだけ。


この場合、クラスメイトはまず関わってこない。

自分から嵐の中に突貫する者がいないのと同じ理論である。



「勇助、さすがにマズイって」


「勇助くん、僕は別に……」



止めに入るのは、何事にも真面目な紗知と騒動の中心人物の前髪くんくらいだ。

俺? 俺はこれから起こる事に胃がキリキリしてるから無理。



「いいや! 今日という今日は許さない、許されない! そもそも人の家族を――」



熱弁するイケメン茶髪君。

これから起こる事にも気付かず、実に羨ましいぞ。



「おい上城、あれ止めなくていいのか?」



羨望の眼差しで騒ぎを見ていると、如何にもモブ顔な男子クラスメイトに小声で話しかけられた。

確か名前は……。



「……誰だっけ」


「おぉい忘れるなよ!?」


「悪い悪い、あまりにもモブ顔過ぎて……えぇと町…なんだっけ」


「狩町、狩町(かりまち) 大樹(だいき)だ!」



あぁ、そういやそんな名前だった。



「お、お前マジで忘れてたのかよ」


「悪いな、男に興味はないんだ」


「にしても酷いだろ」



見てわかるほど落ち込む様子を見せる狩町大樹くん。

なおここまでの会話全て小声。


でも忘れるのも無理はない、この男は影が薄い、偏見とかそういうのじゃなく。

成績は中も中平均ど真ん中で、行動も目立たず運動神経が良いわけでも悪いわけでもなく、顔はどこにでもいそうな平々凡々。

神に異物を与えられなかったある意味でモブ中のモブなのだ。


こんな濃いメンツに囲まれている俺にとっちゃ、ほとんど話もしないクラスメイトなど覚えているわけもない……12年も前のことだからというのもあるがね。



「で、俺になんか用?」


「いや、あの騒ぎ――」



狩町が言いかけて、教室の足元が突然光始めた。



「キャー!」

「な、なんだこれ!?」

「おい、さっさと扉開けろ!」

「開かないのよ! 誰かが閉めてるみたいに全然動かない!」

「窓は! 窓はどうだ!」

「ダメだ割れもしねぇ!」



そこからは教室中騒ぎの嵐。

当たり前だがそれは勇助や紗知、前髪くんに佐藤も同じ。



「こ、れは?」


「なによこれ…」


「これって……転移?」


「へぇ、面白そうじゃねぇか」



訂正、呆然としているのは勇助と紗知だけで、どうやら前髪くんは本でも読んだのかそれなりに知識持ちで、佐藤もそこそこ知ってはいるらしい、ニヤけが止まらない様子だ。



「お、おい上城、お前随分落ち着いてるな…」


「ん? まぁどうしようもないしな」



いくら魔力が操作できようと、今の俺はペーペーもいいところ。

こんな大規模な転移魔法に抗う術は……ないわけではないが、貧弱な今の身体には代償が重く、こんなところで命を落とすつもりはない。


細々とした事を考えている間にも、青白い光が教室中を染め上げていく。



「あ~ぁ、さよなら平穏な日常。俺はまた転移す――」



意識を保っていられるのはそこまでだった。




評価、ブクマありがとやで…おかげで即書き始めるぐらいにゃモチベが爆上がりよ…

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