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1―いい加減、俺は帰るぞ




カンテラだけがまともな灯りとして活躍する暗い部屋の中。

(ポット)型の機械に魔力で構成され刻まれた魔法陣を、指先でなぞる。


突然、現代より発展した機械と魔法の異世界に転移させられて苦節12年。

最初の頃はあまりに簡単に散っていく命に戸惑ったり、権力という秩序に屈することもあったが……日本での常識を捨ててなんとか生活できるようになり、さらにそこから死に物狂いで頑張って、今では『あの男に敵無し』とまで言われるようになった。


そんな俺の目の前に存在するは、元の世界へ帰るための帰還の魔導機。



「ようやくだ。ようやく元の世界に帰れるぜ」



俺の12年の内およそ半分は、この帰還の魔導機のためだと言っても過言ではない。

原因はいろいろとある。

元の世界の座標の特定だとか、異界転送の負荷に耐えれるだけの陣を構築する事だとか、元の世界に帰った時不自由がないように転移直前の時間をわざわざ指定したり、魔力諸々の繋がりからまた召喚される事がないように、自身の今の能力全てを破棄するためだとか。


要約すると余計な機能を足しすぎたせいで時間がかかったと、それだけだ。

まぁその余計な機能のおかげで、これから戻る世界に完璧な元の状態で戻れるんだが……我ながら良くここまでやったと褒めてやりたい。



「最後にこの世界の様子でも見ておくかな~♪」



鼻歌交じりに、己の背後にある無数の仮想モニターを覗き込む。

ここに並ぶいくつもの仮想モニターには遠見魔術が組み込まれており、そこにはいくつもの大地や国、村や街が映っていた。


半分くらいは無人だったり、人口が少なかったり、構造物や地形が破壊され尽くされていたりするが、それはそこにいた人間達が悪い。


俺の所有する魔導機や魔道具、魔導書を狙って手に入れようとしてきたり、俺自身を己の利権のために手に入れようとしたり、くだらない理由で俺個人に戦争をフッかけてきたり、人を『次代の魔械王』呼ばわりしてそれに同調する民諸共滅ぼされたりしただけだ。


もちろん、無関係の人間は事前に転移の機械杖で逃がしてある。

別に俺とて大量殺戮を好んでやっているわけではないからな。



「ま、俺がいなくなった後でまたなにかしらやらかすだろうけど、俺の物は全部処分されるように魔導機に組み込んであるし、安心して世界を満喫してくれ」



巨悪を滅ぼしたとて、この世から悪は消え去らない。

今までは俺という大きな脅威が残っていたから、そこまで大きな悪の芽は出なかったが……俺はもうこの世界から消える。


今後この世界は、大きく変わる。



「あ~、でもアイツらが残ってるか」



そう言って思い浮かべるのは、俺が生み出した九人の魔導機人形。

別名がマジカル・アイロン・ドールとかいうクッソ恥ずかしい名前なんだが……俺が付けたわけじゃなく、アイツらが勝手に名乗っているだけだ。


それはそうと、アイツらだけはこの世界に残るよう機能から外していた。

理由は単純、アイツら自身に自我が芽生えてしまったから。

俺が戻る事は話していないが、アイツらなら今後動乱が起こりそうなこの世界でも容易に生き抜けるだろう。

なにせ史上最高傑作の我が子達なんだからな!



「そんじゃま、そろぼち戻るとしますかね」



思い出話に決着もつけ、ポットの中に入り、左腕を覆った魔導機を作動させた。

すると、呼応するように帰還の魔導機が地響きのような音を立てて震える。

中から外の様子が見えるので今外でなにが起こっているのかわかるが、外に置いておいた魔導機は爆発し、魔道具は割れ、魔導書が燃え、試作品やらなにやら、俺が今まで積み上げてきた全てが、同様の末路を辿っていく。


物悲しいがこんなもの持って帰ったら、それこそ魔導回路から辿られて再び異世界にお呼ばれされる。

かといって残すと後々絶対に面倒な事になるので、ここは心を鬼にして、見送るしかあるまい。


そうして最後に家が塵となって消え去り、モロ見えになった世界を眺めていると、唐突に今まで相対してきた敵達を思い出した。


うん、どれも良い思い出とは言えない、だいたいがクズばかりだ。



「あんたらが悪人で良かったよ」



心の底からの言葉を放ち、それを最後に視界が白く染め上げられた。




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