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いつだって奇跡は片隅から起こるんだ  作者: 友理 潤
第二章 ちょっとずつ近づく二人
9/43

似た者同士が初デートで待ち合わせたら

◇◇


 日曜日――。

 俺と加奈の初めてのデートの日を迎えた。

 

 二人とも知っている場所がいいということで、池袋の『いけふくろう』で待ち合わせることになっている。

 『いけふくろう』はフクロウをかたどった像で、渋谷のハチ公ほどではないが、池袋ではそこそこ有名な待ち合わせ場所だ。


 ランチを一緒に食べようということになり、待ち合わせの時間は11時半。

 しかし俺はそこに10時半に到着した。

 

――もし電車が止まってしまったら……。


 ということを想定して、バスを乗り継いでも遅刻しないように家を出たらこの時間になってしまったのである。

 

「さすがにまだ早すぎるよな」


 別にやりたいこともないし、ゲームでもしながら『いけふくろう』の前で待っていよう。

 そう考えて壁に寄りかかると、臆病な俺はもう一つの不安をつぶやきはじめた。

 

――もし加奈が全くの別人だったらどうしよう……。

 

 アニメでは地味な女の子が実はアイドルだった、というのはよくあるパターンだ。

 そこまで極端なギャップはないとしても、派手な化粧や服装だったら……。

 さらに性格まで変わってしまったら……。

 

「いやいや、それを今考えても仕方ないだろ」

 

 俺は視線を『いけふくろう』に移す。

 10時半にごった返していた像の前は、10分後には数人しかいなくなった。

 きっと10時半に待ち合わせの人が多かったんだろうな。


 11時の10分前になると再び人であふれ、11時を過ぎるとまた人が少なくなる。

 

 そうして11時15分になった頃のことだった。

 

「ん?」

 

 俺は一つの異変に気づいた。

 さっきからずっと同じ場所にたたずんでいる女性がいるのだ。

 俺に背を向けており、どんな顔をしているのかは分からないが、二つに分けた三つ編をさげ、ブラウンのカーディガンを羽織り、黒地で長めのスカートを履いている。


 そのたたずまいは風景と完全に同化しており、まったく目立たない。

 よく見なければ、そこに人が立っていることすら分からないかもしれない。

 

「まさか……」


 考えすぎだよなと思いながらも、さりげなく女性の前に回り込んでいく。

 そしてちらりと横目で女性の顔を見た瞬間に、思わず大きな声をあげてしまった。

 

「やっぱり加奈か!」

「雄太くん?」


 大きな丸メガネと化粧をしていない素顔は学校と変わらない。

 いつも通りの彼女の姿に強い安心感を覚えた。

 すると堰を切ったかのように笑いが噴き出してきたのだった。

 

「ははっ……。ははは!」

「どうしたの? 何がおかしいの?」


 不思議そうに目を丸くした加奈。

 ますます笑いが止まらない。


「ははは! だって、いつからここにいたの?」

「え……? ……じゅ、10時……」

「10時!? じゃあ、なんで背を向けてたの?」

「……待ち合わせ時間になったら前を向こうと思ってたの」

「どうして?」

「だって待たせたと思われると気を使わせちゃうでしょ。だから時間ちょうどに着いたことにした方がいいかなって……」


 やっぱり俺の知っている加奈だ。


 地味で、目立たなくて……。

 でも、気配りができて、とても優しい。


 すっと胸のうちから不安の雲が消えていき、晴れ渡った青空のように爽やかになる。

 俺はひとしきり笑い終えると、加奈に小さく頭を下げた。

 

「気づかなくてごめん。俺は10時半からここにいたんだ」

「え? 雄太くんも早めに来てたの?」

「どうしようもなく臆病な性格なんだ。もし電車が止まっても間に合うようにって」


 加奈の目が大きく見開かれる。

 けどそれもつかの間、すぐに目を細めながら笑い始めた。

 

「ふふふ。私も同じ。なにがあっても遅刻しないようにって考えて家出たらこんな時間になっちゃった」

「でも加奈の家は学校のある駅なんだろ? 俺よりも近いじゃないか」

「池袋で忘れ物に気づいて取りに帰っても間に合うようにと思って」

「そうだったのか。似た者同士だな」

「そうだね。なんだか嬉しい」


 加奈が両手を合わせて頬を赤らめている。

 俺は小首をかしげた。

 

「嬉しい?」

「うん。雄太くんと似てるところがあって嬉しい」


 鋭いナイフで切り付けられたかのような痛みが胸に走る。

 俺はそれをごまかすように少しだけ語調を強めた。

 

「さあ、行こうか!」

「うん」

 

 なんで胸が痛くなったんだろう。

 その疑問の答えを俺は知っているはずだ。


 でも考えたくなかった。


 今は人生初めてのデートで加奈をガッカリさせない、それだけに集中しようと決意したのだった。

 

 

 

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