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いつだって奇跡は片隅から起こるんだ  作者: 友理 潤
第二章 ちょっとずつ近づく二人
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本気? それとも授業の続き?


――Would you like to go on a date with me?(私とデートへ行ってくれませんか?)


 そう俺が加奈に向かって言ってしまったものだから、教室がにわかに騒がしくなったのも無理はない。しかしクラスの興奮を鎮めるように、高畑先生が声をあげた。

 

「よし! 私にとっては残念な結果だったが、今日はここまで! みんなはちゃんと『Would you like』が使えるように友達と練習しなさいね!」

「はーい!」


 先生はポンと俺の肩を叩き、

 

「田中! パーフェクトだ! いい『例文』だったぞ! ははは!」


 と大笑いしながら教室から出て行く。

 先生が「例文」と大声で言ってくれたことで、クラスメイトたちも「そりゃ、本気で誘うわけないよな」という雰囲気になり、教室の中は何事もなかったかのように、普段の休み時間のにぎやかさに包まれていった。

 

 しかし加奈は目を大きくして、まるで石像のように固まったままだ。

 一方の俺は椅子を持ってすごすごと自分の席に戻っていく。

 そしてニタニタして近づいてきた恭一に「トイレ行ってくる!」とわざとらしく宣言して廊下に出たのだった。


………

……


 一人になったところで、ようやく冷静になる。

 すると胸を締め付けるような強い後悔に襲われた。

 

「俺……。何やってんだろう……」


 仕方なかったとはいえ、みんなの前であんなことを言ってしまうなんて……。

 行く宛てもなくトボトボと廊下を歩きながら、窓の外を覗く。

 広がる空は、俺の心の中のように曇っていて、余計に俺を憂鬱にさせた。


 しかし時間がたつにつれて、一つの疑問が心の中で大きく膨らんできたのである。

 それは……。


「さっきのは手違いだったのか?」


 ということだ。


 確かに加奈へSNSで告白したのは手違いだった。

 でもさっきのはどうだったのか……。



「俺にも分からない……」

 


 トイレはとうに通り過ぎ、気づけば教室からかなり離れた体育館のそばまできている。

 

「俺……。どうしちゃったんだろう……」


 そうつぶやいたところで、

 

――ブルルッ。


 ポッケの中のスマホが震えた。

 廊下の端に寄って素早く画面を開く。


『遠藤加奈さんからKINEにメッセージが届きました』


 という表示。


「加奈?」


 俺は慌ててKINEのアイコンをタップした。

 そしてメッセージを目にした瞬間に、ドンと強く胸を打たれたかのような衝撃に襲われたのである。

 


『Yes,if I can.』


――はい、私でよければ。



 それは言うまでもなく、さっきの返事に違いない。

 


『Would you like to go on a date with me?』

『Yes,if I can.』


――私とデートへ行ってくれませんか?

――はい、私でよければ。


 俺は急いでメッセージを送り返した。


『本気? それとも授業の続き?』


 するとすぐに返事がかえってくる。


『雄太くんはどっちがいい?』


 返事は考えるまでもない。


『本気がいい』

『だったら私も本気がいい』

 

 メッセージを目にしたとたんに、ぐわっと腹の底から興奮と混乱がわきあがってきた。


「加奈とデート……。まじか……!」


――キーンコーン、カーンコーン。


 次の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響いたが、俺は固まったまま一歩も動けなくなってしまったのだった。

 


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