土砂降りの雨は言い訳にならない
◇◇
私が日本を去ってからちょうど一年。
3月20日 午前8時――。
――おはよう、加奈。
いつものメッセージが今日はまだ届いていない。
「どうして……? 雄太くん……」
シアトルは朝から土砂降りの雨が降っている。
視界は悪く、先を見通すことができない。
でもそんなことは言い訳にならなかった。
「加奈! どこへ行くの!!」
傘もささず、スマホ片手に家を飛び出す。
「お姉ちゃん!!」
すぐに玲於奈に追いつかれると、後ろから羽交い締めにされた。
「いやあああ! 離して!!」
「ダメ! 今お姉ちゃんがどこに行っても無駄だから!」
「だって雄太くんが……。雄太くんが!! うわああああ!!」
行き場のない怒りが爆発し、泥だらけの土を叩く力に変わる。
滝のような雨の轟音は、土を叩く音をかき消したのに、リビングでつけっぱなしのテレビの音声だけは残したままだ。
「繰り返しお伝えします。シアトル・タコマ国際空港を午前7時35分に発車したリンウッド行きのバスが、対向車線を大きくはみ出してきたトラックと正面衝突しました。乗客および乗員に多数のけが人が出ている模様です。繰り返します……」
そして地面に落ちたスマホの画面に映っているのは、雄太くんから届いた最後のメッセージだった。
『シアトルの空港を7時35分に出るバスに乗るから! ごめん! スマホの電池が切れるからまた明日な!』
ついに完結まで書き終えました。
どうぞ最後の最後まで、よろしくお願いいたします。




