表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
娼館の用心棒ピーノ  作者: 遊佐東吾
4章 さよなら、さよなら、たくさんのさよなら

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/162

真夜中の騒々しい暗殺劇

 昼間に眺めたならば、きっと手入れの行き届いた美しい庭園なのだろう。

 しかし今、そこには新たな警備兵の死体が転がっている。門を守っていた二人の兵士と合わせて三人目だ。

 またも身勝手に先走ったルカの仕業だった。


「わざわざ自分から鉢合わせしに行くバカがあるかよ……!」


 怒りを滲ませてエリオが彼の肩を掴む。


「おれたちの任務は何だ? 片っ端から殺していくことか? 違うだろうが。なるべく気づかれないよう潜入し、標的であるベルモンド少将を討ち、速やかに離脱。強行突破はよほどの場合のみ、ここにいる全員でそう確認したはずだ」


 だがルカは目を合わせることなく、ふんと鼻を鳴らす。


「責められる謂れはねえな。和睦派の連中を皆殺しにするのは、皇帝陛下の御心にも(かな)っているんだよ。おまえがどう言おうが、おれは一人でも多く殺す」


 そう言い放ったルカがエリオの手を振り払い、そのまま後方へ大きく跳んだ。

 走り去った彼を誰も追いかけようとはしない。


「いきなり躓いたが、どうする。連れ戻すか?」


 オスカルがエリオへ、班長としての判断を仰ぐ。

 だがヴィオレッタの声が先だった。


「ほっときゃいいんじゃねえの? あいつが別の場所で騒ぎを起こしてくれれば、むしろこっちの仕事はやりやすくなるって。陽動ってやつだ」


 冷静だな、とピーノは感心した。単身で突っ込んだルカが無傷ですむとは到底思えないが、どうなるにせよそれは彼の独断専行が招いた結果だ。


「ぼくもヴィオレッタに賛成」


 自身の意見を短く伝える。

 エリオも結論を出すのに時間をかけなかった。


「よし、まずは任務の続行だ。ルカのことはそれからでいい」


 いったん決めるとエリオは迷わない。ピーノたちへ矢継ぎ早に指示を出し、警備兵に見つかることなく庭園を抜けて邸宅内への侵入に成功する。


「ここは……厨房のようだな」


 周囲を見回してオスカルが呟いた。ピーノも頷く。

 室内に明かりこそ灯っていないものの、廊下からわずかに光が届いておりみんなの顔も確認できるというわけだ。


 裏を返せば、ここからは警備兵たちに見つからず行動するのはほぼ不可能だろう。最悪なのは手間取ってベルモンド少将に逃げられてしまうことだ。エリオ班の実力を考慮すれば、強行突破を図る局面も遠からず出てくる。

 エリオもそのあたりは想定しているらしかった。


「この先、戦闘は避けて通れない。もし別行動でベルモンド少将を捜す場合でも、必ず二名一組で動いてくれ。それならどうにか対処はできるはずだ」


「なあに、あたしらはいざとなりゃ切り札を使えるからさ。問題はないって。ま、いちばん弱っちいのが単独で動いてるけどね」


 揶揄するヴィオレッタへ、エリオが「そう言ってやるな」とたしなめる。


「強がりばかり口にしちゃいるが、ああ見えてルカは自分の実力をちゃんと認識しているよ。真正面から敵兵にぶつかるようなことはせず、不意を突いて一人ずつ仕留めていく腹積もりだとおれは考えてる」


「弱者の戦術ってやつだな」


 オスカルが相槌を打つ。

 実際、館内でまだ騒ぎは起こっていないようだった。今のところはエリオの見立て通り、ルカが見つかることなく行動できていると考えていいだろう。

 ただそれも時間の問題にすぎない。


 ピーノの読みはまだ四名揃って行動しているうちに的中した。

 巡回している見張りの兵士をやり過ごしつつ、標的であるベルモンド少将の寝室へと向かいだして間もなく争う音が聞こえてきたのだ。そして四方八方から慌ただしく駆ける複数の足音も。方角としては正面玄関のあたりだろうか。

 ピーノと目が合ったヴィオレッタは肩を竦める。


「あーあ、言わんこっちゃない」


 それから彼女が班長のエリオへと視線を移した。

 ここまで冷静な態度を崩さないでいるエリオだったが、誰よりも長い付き合いであるピーノにはわかっていた。彼は任務のためだからといって、平気でルカを犠牲にできるような性格ではない。

 仕方ない、とピーノも腹をくくった。


「暴れてきなよ、エリオ」


 それは親友の背中を押す一言だった。


「エリオなら相手が何人いようと問題ないだろ。さっさとあのバカを連れ戻して、みんなで帰ろう」


 よほどピーノからの提案が意外だったのだろう、しきりに頭を振っているオスカルがうめくように言った。


「ルカを助けてやれってか。初日の夜からじゃ考えられないぜ……。あいつがどうなろうと自業自得、見殺しにしようって言いだしかねないピーノがね……」


「オスカル、帰ったら組手やろうか。丸一日みっちりと」


「うそうそ、冗談だって」


 戦闘技術においてピーノはリュシアン、セレーネ、ユーディットといった正統な教育を受けてきた者たちと比較したってほとんど遜色ない。それほどに飲み込みが早かった。

 慌てて顔の前で手を横に振るオスカルに代わって、隣のヴィオレッタが真剣な眼差しで問いかけてくる。


「でもおまえ、任務はどうするんだよ。放棄か? ならあたしは反対だぞ」


「ぼくがいく。単独での隠密行動に最も向いているのはぼくだ」


 即答だった。


「ルカの救出はたぶんエリオだけで大丈夫だろうけど、念のためヴィオレッタとオスカルも援護してあげてほしい。なるべく派手にね。そっちで大暴れして警備を引きつけてくれればこっちも動きやすくなるし」


 邸内の見取り図は頭に叩き込んである。ベルモンド少将の逃走経路にさえ注意しておけば暗殺といえどさほど難しくはない。

 しばらく俯き加減で思案していたエリオもようやく口を開く。


「──任せていいか」


「もちろん」


 ピーノの返事を聞いた彼の表情は、どこかほっとしているように見えた。


       ◇


 こうして四人は二手に分かれた。ルカを助けに行くエリオたち三人と、あくまで標的のベルモンド少将を狙うピーノと。

 案の定、ピーノの行く手には警備の兵士がいない。


「持ち場を離れてよその応援なんて、あまり褒められた動きじゃないね」


 小馬鹿にして呟いた瞬間、館全体を揺るがすような轟音が耳をつんざく。

 それだけでは終わらなかった。山中での落石を思わせるような音が断続的に聞こえてきていた。おそらく、とピーノは推測する。本気を出したエリオが遠慮なしに暴れ回り、この建物にまで衝撃を与えているのだ。


 ちゃらんぽらんで成績はそこそこ、だが人一倍仲間思い。そんなエリオの顔しか知らないヴィオレッタやオスカルはさぞかし度肝を抜かれていることだろう。

 ピーノの赤い髪にも、天井から細かい石の欠片が降ってきた。


「これ、さすがにちょっとやりすぎじゃない?」


 なるべく派手に、と注文したのはピーノだが、それにしたって程がある。

 崩落と思しき音は止むどころか、次第に近づきつつあった。もう間違いないだろう。館そのものが壊れようとしている。このままでは想定外の場所から標的に逃げられてしまいかねない。


 まずい、と判断したピーノは、ニコラの監督下にない状況で初めて「門」を開いた。ほんのわずかに、光が射しこむだけの隙間を作るような細やかな感覚で。

 だがその効果は圧倒的だ。ピーノは跳ねるように走る。一人だけ警備兵と遭遇するも、彼はピーノの姿を認識はすれど目で追いかけられない。それほどまでに常人離れした速度であった。


 廊下の角へ差しかかるが、ピーノはそのまま突っこんでいく。右へ折れている廊下のだいぶ手前から逆の側へ向かって踏み切り、左足で壁を蹴る。そしてもう一度、突き当たりの壁も蹴って見事に曲がってみせた。

 そんなピーノが前方に警備兵の一団の後ろ姿を捉えた。中心に一人だけ、寝間着なのだろうか身なりの異なる者がいる。


「見ぃつけた」


 今から自身の及ぶ行為に対して疑問を持つことなく、彼は口元を綻ばせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ