3話 クラスメイト
私がクラスに足を踏み入れると、すでに席が埋まっていた。
どうやら、私が最後のEクラスの生徒だったらしい。
唯一開いている座席へと腰かける。
私の座席は最前列の真ん中。
どうやらみんなこの座席は嫌らしい。
気持ちは分かるけど。
本当は端っこの席の方が良かったな、なんて思っていると、ガラッと扉が開いて一人の女性が入ってきた。
制服じゃないところを見るに、担任の先生だろうと推測できる。
先生はカツカツと足音を鳴らしながら教壇に立つと、クラスを見回し、フゥ~と深呼吸。
そして、
「み、みなさん、こんにちは。わ、わたしがこのEクラスを担当すりゅ、フニャフィ……。うぅ、噛んじゃった……」
担任の先生は泣きそうな表情をしている。
どうやらかなり緊張しているようだ。
「頑張るのよ、フラフィー。私が生徒より緊張してどうするのよ」
先生は小さな声で呟きながら、ペチペチと自分の頬を叩いている。
なんだか可愛らしい。
「コホン。あ、改めまして、私が、このクラスの担任のフラフィー・ララーナです。あの、よろしくお願いします」
フラフィー先生はペコリと頭を下げる。
なんだか頼りない気もするけど、優しそうな先生だ。
怖い先生だったらどうしようと不安だったけど、フラフィー先生なら大丈夫そうかな。
「さっそくですが、まずは、自己紹介からしていきましょー! いえーい……」
無理に盛り上げようとする先生。
静まり返る教室。
傍から見れば地獄と化した状態だろう。
案の定フラフィー先生は徐々に声のトーンが小さくなっていき、目頭に涙を溜めている。
どうやら、フラフィー先生はクラスを持つのが初めてなのだろう。
かなり空回りしている。
「じゃあ、その、隣同士で自己紹介しましょう。これからの学院生活を共にする仲間ですから、仲良くしましょうね」
もはや妥協したといった感じでフラフィー先生が指示をする。
ただ、いきなりクラスメイト全員を覚えることはできないから、まずは隣の子からお話しできるのはいいかもと思ってしまう。
このクラスには私の知っている子はいないみたいだし。
どうやら、少年科で一緒だったクラスメイトは少なくともDクラス以上にクラス分けされたみたいだ。
みんなスゴイな~。
私の隣に座っている子に視線を向けてみる。
隣に座っているのは黒髪ショートヘアの女の子だ。
クールな顔つきをしているけど、とても整った顔立ちだ。
そして、他に特徴的なのが左腕の袖から覗いている腕に、包帯が巻かれているということ。
指先まで隠れるほどグルグルに巻かれている。
怪我してるのかな。
少し心配だ。
でもいきなりその話題に触れるのは良くないよね。
誰だって聞かれたくないことはあるだろうし。
腕が気になりつつも、私は隣の女の子に話しかけることにした。
「私、マリー・ジラソーレっていうの。よろしくね! 良かったら、お名前聞かせてほしいな」
私の自己紹介を聞いて、女の子はゆっくりとこちらを向いた。
正面から顔を見ると、やっぱり美人さんだ。
うらやましいな~。
私の挨拶から一呼吸置いた後、ふっくらとした唇が動いて、彼女の声が聞こえてきた。
「カンナ・ハイドランジア」
ただその一言だけだったけど、悪い子じゃなさそうな気がした。
勘ではあるんだけど。
「カンナちゃん、これからよろしくね!」
「……ん」
カンナちゃんは小さく相槌を打つと、前を向いてしまった。
仲良くなるためにはもう少し時間がかかりそうだな。
絶対カンナちゃんと仲良くなってやる!
密かに決心したのだった。
他のクラスメイトたちはまだ自己紹介をしているみたいで、教室はザワザワしている。
みんな話が盛り上がっているみたいだ。
私は友達作りに出遅れちゃったかな……。
これから挽回できるといいけど。
ちらっとカンナちゃんを見てみると相変わらずクールな表情だ。
カンナちゃんにはもう友達がいるのかな?
ざわついていた教室が徐々に静かになる。
どうやらみんな一通り話し終えたみたいだ。
その様子を見て、フラフィー先生が話し始めた。
「皆さん自己紹介できたみたいですね。これから一緒に学ぶ仲間ですからね、ぜひ仲良くなって欲しいと思います。それでは、ウィズダム魔導学院青年科についての説明事項を伝えます。今日はそれでお終いなので、しっかり聞いておいてください」
それからフラフィー先生が学院についての説明を始めた。
相変わらず途中で噛んだり、しどろもどろになるところはあったけど、説明自体は分かりやすかった。
言葉選びとか伝えることに関しては上手みたいだ。
後は経験を積めば本当に良い先生になれそう。
でも、フラフィー先生は今のままが可愛くていいんだけど。
「それじゃあ、今日はここまでです。明日もちゃんと出席してくださいね!」
先生の話が終わって解散となった。
クラスメイトの中にはさっそく一緒に帰ったりしている人もいる。
すぐに仲良くなれて羨ましい。
カンナちゃんはそそくさと帰ってしまったし、私は一人で帰るしかないな。
私は荷物をまとめて帰路に着いた。