1話 オッドアイ
魔導国家メイガス。
この国は魔法で溢れている。
日常で使うものは魔力を動力にするものばかりだし、国のすべてが魔法を使えることを大前提に作られているのだ。
実際、この国に生を受ける者はほぼ全員が魔法の素養を持っている。
この国の外からすれば特殊な事例なのかもしれないけど、私たちからすればごく当たり前で魂に染み付いたこと。
誰も不思議に思うことは無い。
私、マリー・ジラソーレはごく普通の家庭に生を受けた。
両親は一般的な魔導士だ。
だから、私も一般的な魔導士になれる。
幼いころはそう思っていた。
幼いころに魔法の素質に目覚めることはなく、ウィズダム魔導学院幼年科に入学する年齢になった。
そのころは、魔法は学院で勉強すれば自然と使えるようになるのだろうと楽観的に考えていたからずっとワクワクしていた記憶がある。
友達できるかな?
どんな魔法が使えるようになるだろう?
これから始まる学院生活を想像するだけで楽しかった時期もあったっけ。
でも、そんな私に待っていたのは楽しい学院生活とはかけ離れたものだった。
私には魔法の才能が無かったのだ。
どれだけ頑張っても周囲のみんなができることができなかった。
周りの子は次々と才能を開花させていく。
私だけを取り残して。
私だって一応魔法は使える。
魔力だって内包している。
でもそれは学院が求めるものではなかったのだ。
今、学院が求めているのは戦闘に長ける力。
魔物と戦える人材なのだ。
そのため、教えられることは、例えば炎魔法で目標を正確に燃やす方法であったり、氷魔法で凍らせたり氷柱を飛ばしたりといった、戦う人材を育てる内容ばかりだ。
残念ながら私には火の粉一つ発動することができない。
そんな私を見て、先生が頭を抱える姿は今でも頭に残っている。
先生も最初のころは熱心に教えてくれたけど、最後は特に何も言ってくれなかった。
見放されたんだろうな。
もちろん戦闘向け以外にも、魔力効率の良い魔法の発動方法とかを座学で教えてくれることもある。
そういう授業は大好きだった。
私にも分かる内容だったから。
クラスメイトともそこまで仲良くなれなかった。
虐められるようなことはなかったけど、友好的に関わってくれることも無かった。
きっと私の容姿のせいもあるのだろう。
私は俗に言うオッドアイというやつで、片目が赤色でもう片方が黄緑色になっている。
クラスメイトからすれば不気味だったんだろうな。
そんな私の学院生活も終盤に差し掛かるころだ。
今日は、ウィズダム魔導学院青年科の入学式とクラス分けがある。
今後の人生を左右する瞬間だろう。
周囲の生徒たちは一つでも良いクラスに入るために意気込んでいる。
ぜひ頑張って欲しい。
私は、Eクラス確定だろうな。
「次、マリー・ジラソーレ」
試験官から私の名前が呼ばれた。
ここで実技の試験と面接が行われてクラスが確定する。
私は、おそるおそる部屋の中に入ると、部屋の中には美しい女性がいた。
女の私から見てもキレイだと思う容姿だ。
「ようこそ、ウィズダム魔導学院青年科へ。君の試験を受け持つエレナ・クラリーチェよ。よろしく!」
試験官はエレナさんという名前みたいだ。
明るい声で、とても好印象を覚える。
「本日はよろしくお願いします」
「そんなに緊張しなくていいわよ。あなたのことはすでに資料で見ているから」
そう言うとエレナさんは笑顔で紙をヒラヒラとさせる。
エレナさんとても美人だなぁ。
同性として憧れちゃうな。
私にも友好的に接してくれるし。
私の成績とかを見ているなら試験なんてしなくてもいいだろうに。
私がそんなことを考えていると、エレナさんは私の資料をチラチラと見ながら、話を切り出した。
「まあ、その、資料から見るにマリーちゃんは魔法が使えないみたいね」
「……はい」
「本当に使えないのかな? 私はこれでもいろんな生徒を見てきたから人を見る目はあると思うの! マリーちゃんからは魔力を感じるんだ。だから魔法を使えないということは無いと思うんだけど、どうかな?」
エレナさんは優しい笑顔で聞いてくる。
この手の質問は今までにも何度かされてきた。
そして、答える度にガッカリされるのだ。
「使えることは使えますけど……」
「やっぱり! どんな魔法かな?」
「……治癒魔法です」
部屋には沈黙が流れた。