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9/12

9、ずっとそばに居させて 

それから数ヶ月たった、

七月のある日。


その日は、先輩達がまだ来ていなかったので、 一人、体育館でバスケの練習をしていた。


体育の授業ぐらいしか経験のない私は、ドリブルシュートが決まらない。


中学まではなんとなく文化系に入っていた。

高校では、サッカー部に入れなくて、それなら、丸山くんのそばに居ようと、同じ部に入ってみたけど、バスケも嫌いじゃなかった。


でも、やってみて思った。

私には才能がないのかもしれない。

ものすごく下手だ。


1、2……3。


うまくシュートが決まらず、投げたボールが足元に転がる。



「へったくそ」

そう言って入ってきたのは、丸山くんの友達でロン毛の方だった。

同じ部活だったが、話したことは一度もなかった。


いつも女の子と一緒にいることが多く、ちょっとチャラチャラしたイメージがして、私の一番苦手なタイプだった。


「できるんですか?」

答えるよりも先に私から奪うようにボールを取り上げると、軽々とドリブルシュートを決めた。


「すごーい!カッコイイ!!」

思わず私の口から感動の言葉がもれた。


ロン毛は、カッコイイと言われたことに気をよくしたのか、

「教えてやろうか?」

っと頼んでもないのに言ってきた。


「俺、拓。拓先輩って呼ぶなら教えてやるぜ、美弥ちゃん」

「なんで、私の名前……?」

まあ、同じ部活だから知ってることもあるかもしれないけど、下の名前まで知っているなんて、女の子なら誰の名前でも言えるくらいチャラいのだろうか。


「お前、全然わかってねぇなぁ。めちゃくちゃ目立ってるぜ」

私は自分が目立っていることなんて知らなかった。

だから、ロン毛の言葉に驚いて聞き返した。

「どういうことですか?」



ロン毛は急に真剣な顔つきになると、スリーポイントラインからシュートした。

それもまた、スっと見事に決まる。


「黒髪で真面目っぽいのに、理人の周りうろちょろしてる変な女がいるって、二年の間では噂になってたぜ?」

ロン毛が投げてきたボールを私はキャッチした。


「私、そんなに、うろちょろしてるように見えますか?」

「まあ、理人は人気あるけど、人を寄せ付けない所あるから、一緒に居るだけでも十分、目立つぜ」


私はその場で二・三回ドリブルすると、

そのままドリブルシュートに挑戦したが、また失敗した。

「ダメだ……背が低いから無理なのかなぁ?」

独り言のようにいいながら、落ち込む私にロン毛は言った。


「背は関係ないよ。最後、止まらずにゴール下まで走り抜ける。……ボールは投げ入れるんじゃなくて、手から自然と離れるイメージで、ゴールに優しく置いてきてみな」

「投げたら駄目なんですか?」

私はロン毛に言われた通り、チャレンジしてみる。


1、2……3。


まぐれなのかどうかわからないが、自分でもビックリするくらいきれいにシュートが決まった。

「拓先輩すごい!!教え方うまいんですね」

「俺もビックリした。……やるなぁ~美弥ちゃん」

拓先輩は私が成功したのが、余程嬉しかったのか、飼い犬を撫でるように、私の頭をくしゃくしゃっとした。


「ま、まぐれだよ」

気がつくと敬語が抜けていた。

でも拓先輩はそんなこと全然、気にしていないようだった。


「さすが、理人のお気に入りなだけあるな」

「……お気に入り?……」

私は持っていたボールを拓先輩に投げた。


「理人が自分から話しかける女は、なつみと美弥ちゃんくらいだ」

「なつみ先輩?」

なつみ先輩ってやっぱり丸山くんと仲がいいんだ。

私があからさまに落ち込んでいると、拓先輩が付け足すように言った。

「ああ、俺ら三人は幼なじみだから。なつみは、理人の彼女じゃねーよ」

なつみ先輩が、丸山くんの彼女じゃないと知り、私はホッとして、拓先輩からボールを奪い取ると、ドリブルシュートの練習を始めた。


「わかりやすいな……美弥ちゃん」

拓先輩が何か呟いていたけど、私にはよく聞こえなかった。


「練習付き合うぜ」

二人でシュート練習やらドリブルの奪い合いなどの練習していたら、そこに丸山くんがやってきた。


「拓、金井?!二人で何してる?」

「何って、練習だよ」

拓先輩があっけらかんと答えた。

丸山くんは私と拓先輩の間をさくように、私の前に立った。


「金井、拓には……コイツには関わるな」

丸山くんは少し苛立っているようだった。

明らかに丸山くんの拓先輩に対する態度がおかしかった。

二人はいつもは仲がいいのに。


「拓も、金井に気まぐれで優しくするな」

拓先輩は納得いかない顔で反論した。

「なんだよそれ、俺が美弥ちゃんに優しくして何が悪い?」

「金井は……拓の周りにいる軽い女とは違うんだ、手を出すな」

拓先輩は丸山くんに今にも掴みかかりそうだ。

「はあ?俺は何もしてない。どちらかというと……理人、おまえが美弥ちゃんに手を出してんだろ?お前が言わねぇから、知らない振りしてやったけど……俺は見てたぜ、始業式の日、二人で部室入っていくの」

どうして二人が言い合いしているのか、私にはわからなかった。


「好きなんだろ?俺に美弥ちゃんをとられたくなくて、近づいて欲しくないだけだろ?彼女を守りたいなら、素直にそう言えよ!」

「俺は別に何とも思ってない……もういい!……金井がおまえのことを選ぶなら、俺には止める権利はないし、好きにすればいい……」


その瞬間、私と丸山くんの間に壁が出来たのがわかった。

いろんな一面を見て、彼に近づけた気がしていたのは、ただの気のせいだったのだろうか……。

丸山くんも、私と同じ気持ちでいてくらたら……なんてちょっとでも思った自分が恥ずかしかった。



「拓先輩、練習付き合ってくれてありがとうございました。……私、今日は帰ります」

「え?美弥ちゃんっ!………」


私は二人におじぎすると、泣き出しそうなのを見られたくなくて、正門まで走った。


私は走りながら、もしかしたら、丸山くんが、追いかけて来てくれたらいいなっと、ちょっとだけ期待していた。


でも追いかけてくる気配はなかった……。




次の日、

部室に行きづらく、でも帰ることも出来ず、誰も居ない体育館の裏でうずくまっていた。


そこに私を探していたのか、拓先輩がやってきた。


「美弥ちゃん、ここに居たんだ?……大丈夫?」

「すみません。見張り出来なくて……」

拓先輩は首を横に振ると、私の隣に腰掛けた。


「そんなことどうでもいいよ。それより、昨日……理人にあんなこと言わせるつもりじゃなかった。……ごめん」

「なんで!?拓先輩が謝るんですか?」

私は、拓先輩が謝る必要はないと思った。


「あれ、アイツの本心じゃないよ。理人はたぶん自分に自信がないんだと思う。俺からはうまく言えねぇけど、理人ともう一度、ちゃんと話してみてくれないか?」


本心じゃないなら、なんであんなことを言ったのだろうか。

私が居なくなるのが怖くて、自分の方から突き放したのだろうか。


私はハッとした。


まだ自分の気持ちを、きちんと丸山くんに伝えていなかったことに気がついた。


たとえ無駄な結果に終わっても、丸山くんに素直に伝えようと思った。



次の日の昼放課。

丸山くんが部室へ向かうのを追いかけた。


鍵がかかっているかと思ったが、部室のドアはすんなりと開いた。


私は部室に入ると、そっと鍵をかけた。

「誰だ?……金井か」

丸山くんは部屋の隅の方でタバコを吸うわけでもなく、座り込んでいた。


「丸山くん……」

うつむいたままで、丸山くんがどんな表情をしているのかわからなかった。

私はゆっくりと丸山くんの方へ近づいて行った。

窓から入る太陽の光で、丸山くんの髪が綺麗に光る。


「綺麗」

私は丸山くんの前に立てひざをつくと、丸山くんの前髪をかきあげるように触れた。

「やめろ」

丸山くんは私の手を掴んだ。

掴まれた手が少し痛かった。


でもここで引き下がりたくなかった。

私は丸山くんの顔に顔を近づけると、目を閉じ、そのままその唇に唇を重ねた。


「好きだよ……。私、丸山くんのことが好き。それを伝えたかった」

私は丸山くんの体をぎゅっと抱きしめた。


「俺は……」

丸山くんの腕が動き、私を抱きしめ返してくれるかと思ったが、その手は途中で止まってしまった。

自惚れてるって思われてもいい。

今はまだ、丸山くんはハッキリ言えるほど、私のことを好きじゃないかもしれない。でも、私のこと嫌いなはずは……ない。


「いいよ、今は無理して言わなくても……いつか聞かせて」

私は丸山くんに、もう一度キスをした。

「嫌いって言われるまで、私はずっとあなたのそばに居るから」


「なんだよそれ……」

丸山くんがそう言って笑った。

「誓いの言葉」

「やっぱ変な女……」


丸山くんは、ふっと優しく微笑むと、彼の方から、そっと私にキスをした。

それは言葉に出来ない丸山くんからの『Yes』と言う気持ちのようだった。


私に触れる丸山くんの手が、最初にキスしたあの時みたいに、かすかに震えていた。


「丸山くん?」


丸山くんは、何かに怯えているようだった。


『お前は俺から離れていかないよな?』前に寝た振りをしていた時、丸山くんが呟いていた言葉を、私は思い出していた。


丸山くんが、何にこんなに怯えているのか、私にはまだわからなかったけど、それがどんなことでも、丸山くんを好きだというこの気持ちは変わらないと思った。


「私は……居なくなったりしないから、大丈夫だよ」

私はあの時返してあげられなかった言葉を口にしながら、震える丸山くんの体をぎゅっと抱き寄せた……。

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